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77.再会と真相①
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突然、前触れもなく目の前に現れたアレクシスを見て、私はかなり動揺していた。
それとは対照的に、アレクシスは機嫌が良さそうな表情を浮かべて、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
私は不意にマリーの方へと視線を向けると、彼女は頭を深々と下げていた。
彼女にとってアレクシスは主になるのだから、こういった態度を取ることは決しておかしくない行動だ。
だけど、視線を僅かに下ろし、彼女の手元を見ると少し震えているようだった。
「リリア、体調はどう?」
マリーに気を取られていると、アレクシスに名前を呼ばれて、私はビクッと体を震わせ再び彼に視線を戻した。
「大丈夫です」
「そうか、それなら良かった」
私の返答を聞いてアレクシスは、安堵したように言った。
そんな会話をしている間にも彼との距離はどんどん縮まっていき、気付けば私の目の前に立っていた。
「前に伝えた通り、リリアの体は傷ひとつない状態で運んできたよ。君が望むなら今すぐにでも魂を戻してあげられるけど、どうする?」
「え……?」
アレクシスは私の瞳を真っ直ぐに見つめながら言った。
私はその言葉にただならぬ違和感を覚えた。
(運んできた……?)
彼は今、間違いなくそう答えた。
『連れてきた』ではなく、『運んできた』と。
私は慌てるようにマリーの方に視線を向けた。
彼女はまだ頭を下げている様子だが、間違いなく生きている。
(びっくりした……。大丈夫、マリーは無事ね)
「リリア?」
私が咄嗟に取ってしまった行動を不思議に思ったのか、アレクシスは再び私の名前を呼んだ。
先程から過度に動揺して、私の挙動がおかしいことにきっと彼は気付いている。
平然を装うことを考えてはいるが、今の私にはそんな余裕は一切無かった。
私の中では、あの一連の事件は今も続いていて、整理する時間を未だに与えて貰っていないのだから当然だ。
(だけど、どうしてここにアレクシス様がいるの?)
最後に会った時、彼はこの件を全て片付けたら会いに行くと言っていた。
そして暫くの間、離ればなれになるとも話していた気がする。
しかし私は目覚めたらこの部屋のベッドの上にいて、それはほんの少し前の出来事だ。
(もしかして、また眠らされていた……?)
疑問点はそれだけではない。
私がいるこの場所は、そもそもどこなのだろう。
王宮からすぐに来れる程、近い場所に存在しているのだろうか?
先程マリーに聞こうと思ったが、その矢先にアレクシスが現れ結局は聞けずじまいになってしまった。
だけど、あの時のマリーは明らかに戸惑っている様子に見えた。
口に出すのを躊躇っている様な、言いづらそうな態度であったのは間違いない。
(その事も気になるけど、今はそんなことよりもマリーのことを守らないと……)
今の所、アレクシスが彼女に対して敵意を向けている様子は見受けられないが、マリーは確実に怯えている。
私はその様子に感化されて、なんとかしてマリーを守らなければという思いに駆られていた。
泣いている彼女の姿を見たばかりだったことと、自分に重ねて見えたことで、これ以上辛い思いをさせたくないと心が動いたのだろう。
「アレクシス様にお願いがあります」
「お願い……? なにかな?」
「マリーは今回の件には一切関与していません。強いて言えば、巻き込まれただけの被害者です!」
「リリア様っ……」
私の言葉を聞いていたマリーは慌てて顔を上げた。
彼女と視線を合わせると『大丈夫』と訴えかけるように、私は小さく頷いた。
(アレクシス様が何を考えているのかは分からないけど、今は変な気を起こさせないようにしないと。きっと今なら間に合うはず……)
「今回の件は、サリーが独断で行ったことのようだね。だけど……マリー、君は本当に何も気付いていなかったのかな?」
「……っ、それは……」
アレクシスは目を細め鋭い視線を向けると、まるで咎めているかのようにマリーを問い詰める。
彼女はアレクシスの言葉に戸惑い、完全に萎縮してしまっている様子だ。
「アレクシス様、そんな威圧するような言い方はずるいです」
「え?」
このままではまずいと思い、私は会話に割って入る。
私にずるいと言われたアレクシスは、表情を戻し少し驚いているように見えた。
「私はこのように無事ですし、もうこの件は終わりでいいじゃないですか。元はと言えばアレクシス様の所為でもあるのだし……。マリーだけを責めるのはおかしいと思います」
「そうはいかないよ。私の大切なリリアを怖がらせて陥れようとしたのだから。気付いていながら見て見ぬふりをしていたのだとしたら、当然許すつもりはないよ。私がどれだけリリアのことを思っているのか、その気持ちを知った上でこのような暴挙に出たのだからね。これは主に対する反逆行為に他ならないよ」
私が強めの口調で答えると、アレクシスは直ぐに反論してきた。
たしかに彼の言っていることは正しい。
サリーがしたことは、間違いなく裏切り行為だ。
だけど今のアレクシスの言い分を聞いて、腑に落ちない部分もあった。
本当にアレクシスは私のことを大切にしてくれているのだろうか。
私の意思を完全に無視して体を作り替えたという前歴があるので、その言葉を素直に受け入れることは出来なかった。
しかし、その話をすると余計にややこしくなりそうだったので、今は口に出さないことにした。
「リリア、私の所為というのはどういう意味かな?」
「え? それは、そのっ……」
私は感情に任せて思わず口走ってしまったようだ。
アレクシスの所為というのは、サリーの過去の話を聞いたから出てきた言葉だ。
こんなことを話題に出してしまえば、更にマリーが咎められてしまう可能性がある。
(どうしよう……、焦っていた所為で完全に墓穴を掘ってしまったわ。なんて誤魔化せば良いの? ……だめだ、全然思いつかない)
私が言葉を詰まらせて苦しそうな表情を浮かべていると、アレクシスは小さく息を吐いた。
「リリア」
「……っ、はい……」
「私はリリアとこれ以上言い合うつもりは無いよ。再会して早々、喧嘩なんてしたくないからね」
「……それは、私も同感です」
私が彼の顔を窺いながら控えめに答えると、アレクシスは優しく微笑んだ。
その表情を見て私は少しほっとした。
この顔をしている時のアレクシスが、決して怒らないことを私は知っている。
「リリアの体調が悪くないのなら、先に魂を元の体に戻したいんだけどいいかな? その姿だと違和感しかないからね。それに、何よりも触れられない」
「……っ、私なら大丈夫です」
アレクシスは少し不満そうに言った。
私も出来ることならば、早く元の姿に戻りたい。
体に不調があるとか、そういったものは特に感じなかったが、なんとなく落ち着かない。
それに彼の口から触れられないと言う言葉を聞かされて、不覚にもドキドキしてしまう。
(良い感じに話題も逸らせたし、今はアレクシス様の言うことに従っておくのがいいのかも……)
アレクシスには聞きたいことが沢山ある。
私が王宮を出た後、何が起こったのか。
そして、サリーはどうなったのか。
今いる場所はどこなのか……。
「リリア、私の首に手を回して。このまま抱き上げて連れて行くよ」
「私、自分で歩けます」
「私の前では無理をする必要なんて無いよ。リリアは暫くの間眠っていたようだし、体がふらついたら危険だしね。だから今は私の言うことを受け入れて欲しいな」
「…………」
アレクシスの話を聞いて、やっぱり暫くの間眠らされていたのだと分かった。
そのことに対しても文句を言いたかったが、気遣うような優しい言葉を掛けられてしまうと何も言い返せなくなる。
私は不満そうな顔を浮かべながらも、彼の言葉に従うように首に手を回した。
するとふわっと体が浮き上がり、落ちないようにぎゅっとしがみついた。
「素直に従ってくれてありがとう。今日のリリアはいい子だね。さて、行こうか。ああ……、そうだ。マリー、私は暫くリリアと過ごすから、その間にグレインから事情を聞いておくと良い。君に一つ贈り物を用意しておいたから、気に入ったら受け取って」
「かしこまりました」
(贈り物……?)
アレクシスはマリーに向けてそのように告げた。
その後は一切振り返ること無く、彼は扉の方へと移動していった。
私は今もアレクシスに対して不信感を持っているはずなのに、この体温に包まれていると何故か安心感を抱いてしまう。
これは魂の契約を結んでいるからなのだろうか。
それとも完全に私の心はアレクシスに墜ちてしまったということなのだろうか。
私は顔を上げてアレクシスの方に視線を向けていると、不意に目が合った。
彼は口元を僅かに緩ませ「どうしたの?」と優しい声で尋ねてくる。
近距離で視線が合ってしまったことで、羞恥心に火が付き私は慌てるように視線を外した。
すると耳元にクスクスと愉しげに笑う声が響いてくる。
「本当にリリアはリリアだね。姿が変わったとしても、その態度で直ぐに分かるよ」
アレクシスの声は弾んでいて、どことなく嬉しそうだ。
事件が起こる前と何ら変わらない彼の態度を見ていると、あの出来事は悪い夢だったのではないかと思えてきてしまう。
しかしこれは紛れもない現実で、夢でないことは分かっている。
それでも、あれが本当に夢であったらどんなに良かったかと思ってしまう。
それとは対照的に、アレクシスは機嫌が良さそうな表情を浮かべて、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
私は不意にマリーの方へと視線を向けると、彼女は頭を深々と下げていた。
彼女にとってアレクシスは主になるのだから、こういった態度を取ることは決しておかしくない行動だ。
だけど、視線を僅かに下ろし、彼女の手元を見ると少し震えているようだった。
「リリア、体調はどう?」
マリーに気を取られていると、アレクシスに名前を呼ばれて、私はビクッと体を震わせ再び彼に視線を戻した。
「大丈夫です」
「そうか、それなら良かった」
私の返答を聞いてアレクシスは、安堵したように言った。
そんな会話をしている間にも彼との距離はどんどん縮まっていき、気付けば私の目の前に立っていた。
「前に伝えた通り、リリアの体は傷ひとつない状態で運んできたよ。君が望むなら今すぐにでも魂を戻してあげられるけど、どうする?」
「え……?」
アレクシスは私の瞳を真っ直ぐに見つめながら言った。
私はその言葉にただならぬ違和感を覚えた。
(運んできた……?)
彼は今、間違いなくそう答えた。
『連れてきた』ではなく、『運んできた』と。
私は慌てるようにマリーの方に視線を向けた。
彼女はまだ頭を下げている様子だが、間違いなく生きている。
(びっくりした……。大丈夫、マリーは無事ね)
「リリア?」
私が咄嗟に取ってしまった行動を不思議に思ったのか、アレクシスは再び私の名前を呼んだ。
先程から過度に動揺して、私の挙動がおかしいことにきっと彼は気付いている。
平然を装うことを考えてはいるが、今の私にはそんな余裕は一切無かった。
私の中では、あの一連の事件は今も続いていて、整理する時間を未だに与えて貰っていないのだから当然だ。
(だけど、どうしてここにアレクシス様がいるの?)
最後に会った時、彼はこの件を全て片付けたら会いに行くと言っていた。
そして暫くの間、離ればなれになるとも話していた気がする。
しかし私は目覚めたらこの部屋のベッドの上にいて、それはほんの少し前の出来事だ。
(もしかして、また眠らされていた……?)
疑問点はそれだけではない。
私がいるこの場所は、そもそもどこなのだろう。
王宮からすぐに来れる程、近い場所に存在しているのだろうか?
先程マリーに聞こうと思ったが、その矢先にアレクシスが現れ結局は聞けずじまいになってしまった。
だけど、あの時のマリーは明らかに戸惑っている様子に見えた。
口に出すのを躊躇っている様な、言いづらそうな態度であったのは間違いない。
(その事も気になるけど、今はそんなことよりもマリーのことを守らないと……)
今の所、アレクシスが彼女に対して敵意を向けている様子は見受けられないが、マリーは確実に怯えている。
私はその様子に感化されて、なんとかしてマリーを守らなければという思いに駆られていた。
泣いている彼女の姿を見たばかりだったことと、自分に重ねて見えたことで、これ以上辛い思いをさせたくないと心が動いたのだろう。
「アレクシス様にお願いがあります」
「お願い……? なにかな?」
「マリーは今回の件には一切関与していません。強いて言えば、巻き込まれただけの被害者です!」
「リリア様っ……」
私の言葉を聞いていたマリーは慌てて顔を上げた。
彼女と視線を合わせると『大丈夫』と訴えかけるように、私は小さく頷いた。
(アレクシス様が何を考えているのかは分からないけど、今は変な気を起こさせないようにしないと。きっと今なら間に合うはず……)
「今回の件は、サリーが独断で行ったことのようだね。だけど……マリー、君は本当に何も気付いていなかったのかな?」
「……っ、それは……」
アレクシスは目を細め鋭い視線を向けると、まるで咎めているかのようにマリーを問い詰める。
彼女はアレクシスの言葉に戸惑い、完全に萎縮してしまっている様子だ。
「アレクシス様、そんな威圧するような言い方はずるいです」
「え?」
このままではまずいと思い、私は会話に割って入る。
私にずるいと言われたアレクシスは、表情を戻し少し驚いているように見えた。
「私はこのように無事ですし、もうこの件は終わりでいいじゃないですか。元はと言えばアレクシス様の所為でもあるのだし……。マリーだけを責めるのはおかしいと思います」
「そうはいかないよ。私の大切なリリアを怖がらせて陥れようとしたのだから。気付いていながら見て見ぬふりをしていたのだとしたら、当然許すつもりはないよ。私がどれだけリリアのことを思っているのか、その気持ちを知った上でこのような暴挙に出たのだからね。これは主に対する反逆行為に他ならないよ」
私が強めの口調で答えると、アレクシスは直ぐに反論してきた。
たしかに彼の言っていることは正しい。
サリーがしたことは、間違いなく裏切り行為だ。
だけど今のアレクシスの言い分を聞いて、腑に落ちない部分もあった。
本当にアレクシスは私のことを大切にしてくれているのだろうか。
私の意思を完全に無視して体を作り替えたという前歴があるので、その言葉を素直に受け入れることは出来なかった。
しかし、その話をすると余計にややこしくなりそうだったので、今は口に出さないことにした。
「リリア、私の所為というのはどういう意味かな?」
「え? それは、そのっ……」
私は感情に任せて思わず口走ってしまったようだ。
アレクシスの所為というのは、サリーの過去の話を聞いたから出てきた言葉だ。
こんなことを話題に出してしまえば、更にマリーが咎められてしまう可能性がある。
(どうしよう……、焦っていた所為で完全に墓穴を掘ってしまったわ。なんて誤魔化せば良いの? ……だめだ、全然思いつかない)
私が言葉を詰まらせて苦しそうな表情を浮かべていると、アレクシスは小さく息を吐いた。
「リリア」
「……っ、はい……」
「私はリリアとこれ以上言い合うつもりは無いよ。再会して早々、喧嘩なんてしたくないからね」
「……それは、私も同感です」
私が彼の顔を窺いながら控えめに答えると、アレクシスは優しく微笑んだ。
その表情を見て私は少しほっとした。
この顔をしている時のアレクシスが、決して怒らないことを私は知っている。
「リリアの体調が悪くないのなら、先に魂を元の体に戻したいんだけどいいかな? その姿だと違和感しかないからね。それに、何よりも触れられない」
「……っ、私なら大丈夫です」
アレクシスは少し不満そうに言った。
私も出来ることならば、早く元の姿に戻りたい。
体に不調があるとか、そういったものは特に感じなかったが、なんとなく落ち着かない。
それに彼の口から触れられないと言う言葉を聞かされて、不覚にもドキドキしてしまう。
(良い感じに話題も逸らせたし、今はアレクシス様の言うことに従っておくのがいいのかも……)
アレクシスには聞きたいことが沢山ある。
私が王宮を出た後、何が起こったのか。
そして、サリーはどうなったのか。
今いる場所はどこなのか……。
「リリア、私の首に手を回して。このまま抱き上げて連れて行くよ」
「私、自分で歩けます」
「私の前では無理をする必要なんて無いよ。リリアは暫くの間眠っていたようだし、体がふらついたら危険だしね。だから今は私の言うことを受け入れて欲しいな」
「…………」
アレクシスの話を聞いて、やっぱり暫くの間眠らされていたのだと分かった。
そのことに対しても文句を言いたかったが、気遣うような優しい言葉を掛けられてしまうと何も言い返せなくなる。
私は不満そうな顔を浮かべながらも、彼の言葉に従うように首に手を回した。
するとふわっと体が浮き上がり、落ちないようにぎゅっとしがみついた。
「素直に従ってくれてありがとう。今日のリリアはいい子だね。さて、行こうか。ああ……、そうだ。マリー、私は暫くリリアと過ごすから、その間にグレインから事情を聞いておくと良い。君に一つ贈り物を用意しておいたから、気に入ったら受け取って」
「かしこまりました」
(贈り物……?)
アレクシスはマリーに向けてそのように告げた。
その後は一切振り返ること無く、彼は扉の方へと移動していった。
私は今もアレクシスに対して不信感を持っているはずなのに、この体温に包まれていると何故か安心感を抱いてしまう。
これは魂の契約を結んでいるからなのだろうか。
それとも完全に私の心はアレクシスに墜ちてしまったということなのだろうか。
私は顔を上げてアレクシスの方に視線を向けていると、不意に目が合った。
彼は口元を僅かに緩ませ「どうしたの?」と優しい声で尋ねてくる。
近距離で視線が合ってしまったことで、羞恥心に火が付き私は慌てるように視線を外した。
すると耳元にクスクスと愉しげに笑う声が響いてくる。
「本当にリリアはリリアだね。姿が変わったとしても、その態度で直ぐに分かるよ」
アレクシスの声は弾んでいて、どことなく嬉しそうだ。
事件が起こる前と何ら変わらない彼の態度を見ていると、あの出来事は悪い夢だったのではないかと思えてきてしまう。
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