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11.翻弄される
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「……っ、はぁっ……」
唇を塞ぎ翻弄させていたものが、ゆっくりと離れていく。
口の中は未だに熱くて、その感覚がしっかりと残っている。
そして口端からは、飲み込めなかった唾液が肌を伝うように零れ落ちていた。
湯上がりのように体は火照り、涙で若干視界が霞んで見える。
だけど彼の姿はちゃんと見えていて、私は目の前にある顔に向けて手を伸ばしていた。
「まだ足りないか?」
「……っ」
彼の頬に手を添えると、その上から被せるように触れられる。
手の甲から感じる心地良い体温に、思わず顔がにやけてしまいそうになる。
(温かい……)
「本当にお前は素直に反応するんだな。すごく可愛い」
そう言って彼は私の唇に触れるだけのキスをして、口端から垂れていた唾液を舌先で丁寧に舐め取ってくれた。
舌が這っていく感覚は擽ったくて、どこか恥ずかしくもあり、何となく照れてしまう。
「体、随分熱いようだけど、今のキスで火が付いたのか?」
「え……?」
再び視線が交わると彼は熱っぽい瞳を向けていて、私の鼓動はドキドキと速くなっていく。
「これ以上のことをして、その熱を解放して欲しいか?」
「それって、どういう……」
彼が言っていることは、今の流れから考えれば何となく想像は付く。
高まっていく鼓動を必死に抑えようとしながら、その瞳に魅入られるように、私は小さな声で問いかけてみた。
すると彼の口角が僅かに上がった。
ユーリは私の耳元に唇を寄せて「試してみるか?」と、艶やかな声で誘惑を纏わせるように囁いてきた。
「……っ!」
「本当に耳、弱いんだな。そんな反応を見せられると、いじめたくなる」
私がゾクッと体を震わせると、彼は意地悪そうな声で囁き、私の耳朶に舌先を這わせていく。
滑付いた舌の感覚にぞくりとして、体が震えてしまう。
「や、ぁっ……耳は、だめっ…‥」
「耳はだめ、か。だけどお前の場合、他にも弱点は多そうだよな。それを全て暴きたい」
「……はぁっ、そんなこと、ないっ……」
「それなら試してみるか?」
熱を持った舌先を耳の中にねじ込まれて、奥を舐められる。
水音が脳に直接送られて、まるで頭の中を掻き回されているような感覚に、じっとしていることが出来ない。
(これ、本当にだめ! 頭がおかしくなりそうっ……)
「……やっ、ぁ」
「体、ガクガク震わせて。そんなに気持ちいい?」
「ち、ちがっ……はぁっ、おねが、い、耳以外にっ……して」
「耳以外なら触ってもいいのか?」
彼は私の耳を解放すると、顔を上げて聞いてきた。
私は少し息を上げながら、小さく頷いた。
「……そうか」
意外とあっさりと諦めてくれたようで私はほっとしていた。
だけど、僅かに口元が上がったように見えて、何か嫌な予感がした。
「セラは本当に耳が弱いんだな」
「……?」
「折角二つあるのだから、もう片方を試してみようか。もしかしたらこちらは弱くない可能性もあるよな」
「……何を言って。だ、だめっ!」
私は慌てるように反対側の耳を手で隠そうとした。
だけど彼の手によって、簡単に引き剥がされてしまう。
そして無防備になった耳元に息を吹きかけられる。
「ひぁっ……!」
「へえ、こっちも良い反応だな。やはりどちらも同じくらい弱いのか」
抵抗する様に構えていたが、それでも刺激を与えられると体は勝手に反応してしまうようだ。
ユーリは喋りながら耳の中心を執拗に舐めてくる。
熱の篭もった吐息と舌の感覚に、私は再び翻弄させられる。
「だから、そう言って、……ぁっ、や、めっ……んぅっ」
「必死に悶えてる姿、すごくそそられる。可愛い。だけどもう少し耐えて」
間違いなくこの男は意地悪だ。
私のことを追いつめて、楽しんでいるに違いない。
だけど、この世界に来てから、私のことを心配してくれたのは彼が初めてだった。
まだ会って数時間しか経っていないのに、あんなに激しいキスをされて、私は受け入れてしまった。
今だって意地悪されているのに、私は多分本気で嫌がってはいない。
むしろ、興奮している。
心が彼を求めているみたいに、何故か惹かれてしまう。
結局、耳の愛撫は抵抗出来ず、されるがままになってしまった。
漸く解放されると私の瞳は涙で濡れて、頬もほんのり赤付いていた。
彼と目が合うと、私はキッと鋭い瞳で睨み付けた。
「悪い、少しいじめすぎたよな」
「……一応、自覚はあるんですね」
「まあな。お前があまりにも可愛い反応を見せるから、止まらなくなった」
「……っ!」
そんな台詞を吐かれると、恥ずかしくなり睨んでいた表情が崩れていく。
「セラの、その戸惑った顔。結構好き。もっと良く見せて」
「……な、に……んぅっ」
彼はそう言って私の顎を軽く上げると、そのまま唇を奪っていく。
(顔を見るんじゃなかったの……?)
そんな風に文句を言いたくなったが、私は静かに目を閉じた。
彼はちゅ、ちゅっと音を立てるように甘ったるいキスを繰り返していく。
軽く唇を吸い上げられて、輪郭を舌先で舐め取られて。
焦れったくて、もっと欲しくなるような魅惑の口付けだ。
目を瞑っていたので気付かなかったが、胸元がひんやりとしていることに気付き、私は薄らと目を開けて視線を下ろした。
すると身につけていたローブは何時の間にか外されていて、ブラウスのボタンも全て解かれていた。
「……っ!?」
「お前の肌って、すごく綺麗だな。柔らかくて触り心地もいい」
「やっ……」
「こうやって触れられると擽ったいか?」
私が驚くと唇が剥がされ、ユーリの掌が私の肌に触れる。
温かい掌なのに、触れられるとぞわぞわと感じて体を揺らしてしまう。
そんな彼の手は私の胸元を優しく撫でていた。
(なんで、こんなことになっているのっ!?)
こんな恥ずかしい格好にさせられて嫌なはずなのに、触れられる度に体の奥が疼き気持ちいいと感じてしまう。
「白い肌が仄かに赤みがかっていて、お前がいかに興奮しているかが分かるな」
「はぁっ、やぁっ、見ないでっ……」
「恥ずかしいか? だけど、そのうち見られていることなんて気にならなくなる」
「ひっ、……な、なにしてるの?」
ユーリは私の首元に顔を寄せると、首から胸の間にキスを落としていく。
最初は軽く口付ける程度であったが、時折チクッとした鋭い痛みを感じて思わず眉を顰めてしまう。
「痕を付けてる。マーキングだな」
「マーキングって……っん」
「吸われるのは気持ちいいのか?」
「ち、ちがうっ! 勝手に声が漏れちゃうだけで、これはっ……」
チクッとした鋭い刺激の後、甘い痺れみたいな感覚が現れる。
それを感じると、体の内側が更に熱くなっていくような気がする。
「気持ちがいいんだな。こうされるのが嬉しいのか? それならば、もっと沢山付けてやらないとな」
「そんなこと、言ってなっ……ひぅっ」
彼は愉しそうな口調で呟くと、胸の膨らみに手を触れた。
胸元には下着がまだ付けられているので、直接触れられているわけではない。
それなのに、胸を優しく揉まれて変な声が漏れてしまう。
(恥ずかしいっ……!)
だけど気が抜けてしまうくらい、気持ちいい。
薄く開いた口元から熱い吐息を漏らしながら、私はその感覚に溺れていく。
「そうやって一々恥じらうような姿を見せられていると、こちらまで興奮してくる。もっと追いつめて、啼かせたくなる」
「……!?」
その言葉にゾクッとして、私は怯えたような表情を見せた。
彼の声からは、深い欲望が孕んでいるように感じたからだ。
固まっている私に気付くと、ユーリは私の方に視線を向けた。
「そんなに怯えた顔はしなくても平気だ。セラが嫌がることはしない。ここでやめて欲しいなら言ってくれ」
「……っ」
先程の欲望を孕んだ声とは一変して、彼の口調は穏やかなものに戻っていた。
そして大きな掌を私の頭の上に乗せ、宥めるように優しく髪を撫でてくれている。
全く違う表情を見せられて、私は戸惑ってしまう。
だけど、こんな中途半端で止められたら、この後どうして良いのか分からなくなる。
体には熱が溜まり、今でも中心がじんじんと疼いているというのに。
「嫌じゃ……、ない」
私は消えそうな程の小さな声で呟いた。
恥ずかしいけど、やめて欲しくない。
「何? 聞こえなかった。もう一度言って」
「……っ、やめ、ないで……」
私は恥ずかしくて、視線を逸らしながら弱々しい声で呟いた。
恐らくこの声はユーリにも届いているはずだ。
自分から求めてしまうなんて、はしたないことをしている自覚はある。
だからこそ余計に恥ずかしい。
(もうやだ……)
私は恥ずかしさから逃れるために、ぎゅっと瞼を強く閉じた。
安易な考え方だとは思うが、視界が遮断されたらこの羞恥心から逃げられると思った。
(軽い女だって思われたかな。でもっ、仕掛けてきたのはユーリの方だし。悪いのは全部ユーリだよっ!)
暫くの間、沈黙が続く。
それが私にはとても長く感じた。
どうして彼は何も言ってこないのだろう。
(もしかして引かれた……?)
この無言の時間が、私の心を更に不安にさせる。
我慢出来なくなり、恐る恐る目を開いてみた。
すると目の前には碧い瞳があって、視線が合うと同時に囚われてしまう。
「お前って、本当に可愛いな。本気で欲しくなる」
「……な、に?」
彼は私の瞳を真っ直ぐに見つめながら答えると、そっと瞼に口付けた。
そして額や頬へと順を追うようにキスを落としていく。
(一体何なの……!?)
突然のことに私は戸惑ってしまう。
だけど、引かれていなかったと分かると、どこかほっとしていた。
そして求められていることに、嬉しさも感じてしまう。
「セラ、このままお前のことを抱いても良いか?」
「……っ」
いきなりそんな風に言われても、なんて返していいのかが分からない。
彼の肩書きは、ステータス画面で確認したから知っている。
勇者であり、どこかの国の皇子。
誤って召喚された私には、絶対に釣り合わない人間だ。
深い仲になったとしても、私は割り切った相手にしかなれないのだと思う。
それでも……。
こんな風に誰かに熱っぽい視線を向けられて、求められることは初めてだった。
恋人はいたことはないけど、そういうことに対して憧れのような興味を持っていたのは事実だ。
私のことを気遣ってくれるユーリならば、受け入れても良いと思ってしまいたくなる。
それに体の疼きも相まって、断るなんて選択肢はもう私の中では既に無くなっていたのかもしれない。
私は恥ずかしそうに小さく頷く。
(ユーリとだったら、嫌じゃない……)
唇を塞ぎ翻弄させていたものが、ゆっくりと離れていく。
口の中は未だに熱くて、その感覚がしっかりと残っている。
そして口端からは、飲み込めなかった唾液が肌を伝うように零れ落ちていた。
湯上がりのように体は火照り、涙で若干視界が霞んで見える。
だけど彼の姿はちゃんと見えていて、私は目の前にある顔に向けて手を伸ばしていた。
「まだ足りないか?」
「……っ」
彼の頬に手を添えると、その上から被せるように触れられる。
手の甲から感じる心地良い体温に、思わず顔がにやけてしまいそうになる。
(温かい……)
「本当にお前は素直に反応するんだな。すごく可愛い」
そう言って彼は私の唇に触れるだけのキスをして、口端から垂れていた唾液を舌先で丁寧に舐め取ってくれた。
舌が這っていく感覚は擽ったくて、どこか恥ずかしくもあり、何となく照れてしまう。
「体、随分熱いようだけど、今のキスで火が付いたのか?」
「え……?」
再び視線が交わると彼は熱っぽい瞳を向けていて、私の鼓動はドキドキと速くなっていく。
「これ以上のことをして、その熱を解放して欲しいか?」
「それって、どういう……」
彼が言っていることは、今の流れから考えれば何となく想像は付く。
高まっていく鼓動を必死に抑えようとしながら、その瞳に魅入られるように、私は小さな声で問いかけてみた。
すると彼の口角が僅かに上がった。
ユーリは私の耳元に唇を寄せて「試してみるか?」と、艶やかな声で誘惑を纏わせるように囁いてきた。
「……っ!」
「本当に耳、弱いんだな。そんな反応を見せられると、いじめたくなる」
私がゾクッと体を震わせると、彼は意地悪そうな声で囁き、私の耳朶に舌先を這わせていく。
滑付いた舌の感覚にぞくりとして、体が震えてしまう。
「や、ぁっ……耳は、だめっ…‥」
「耳はだめ、か。だけどお前の場合、他にも弱点は多そうだよな。それを全て暴きたい」
「……はぁっ、そんなこと、ないっ……」
「それなら試してみるか?」
熱を持った舌先を耳の中にねじ込まれて、奥を舐められる。
水音が脳に直接送られて、まるで頭の中を掻き回されているような感覚に、じっとしていることが出来ない。
(これ、本当にだめ! 頭がおかしくなりそうっ……)
「……やっ、ぁ」
「体、ガクガク震わせて。そんなに気持ちいい?」
「ち、ちがっ……はぁっ、おねが、い、耳以外にっ……して」
「耳以外なら触ってもいいのか?」
彼は私の耳を解放すると、顔を上げて聞いてきた。
私は少し息を上げながら、小さく頷いた。
「……そうか」
意外とあっさりと諦めてくれたようで私はほっとしていた。
だけど、僅かに口元が上がったように見えて、何か嫌な予感がした。
「セラは本当に耳が弱いんだな」
「……?」
「折角二つあるのだから、もう片方を試してみようか。もしかしたらこちらは弱くない可能性もあるよな」
「……何を言って。だ、だめっ!」
私は慌てるように反対側の耳を手で隠そうとした。
だけど彼の手によって、簡単に引き剥がされてしまう。
そして無防備になった耳元に息を吹きかけられる。
「ひぁっ……!」
「へえ、こっちも良い反応だな。やはりどちらも同じくらい弱いのか」
抵抗する様に構えていたが、それでも刺激を与えられると体は勝手に反応してしまうようだ。
ユーリは喋りながら耳の中心を執拗に舐めてくる。
熱の篭もった吐息と舌の感覚に、私は再び翻弄させられる。
「だから、そう言って、……ぁっ、や、めっ……んぅっ」
「必死に悶えてる姿、すごくそそられる。可愛い。だけどもう少し耐えて」
間違いなくこの男は意地悪だ。
私のことを追いつめて、楽しんでいるに違いない。
だけど、この世界に来てから、私のことを心配してくれたのは彼が初めてだった。
まだ会って数時間しか経っていないのに、あんなに激しいキスをされて、私は受け入れてしまった。
今だって意地悪されているのに、私は多分本気で嫌がってはいない。
むしろ、興奮している。
心が彼を求めているみたいに、何故か惹かれてしまう。
結局、耳の愛撫は抵抗出来ず、されるがままになってしまった。
漸く解放されると私の瞳は涙で濡れて、頬もほんのり赤付いていた。
彼と目が合うと、私はキッと鋭い瞳で睨み付けた。
「悪い、少しいじめすぎたよな」
「……一応、自覚はあるんですね」
「まあな。お前があまりにも可愛い反応を見せるから、止まらなくなった」
「……っ!」
そんな台詞を吐かれると、恥ずかしくなり睨んでいた表情が崩れていく。
「セラの、その戸惑った顔。結構好き。もっと良く見せて」
「……な、に……んぅっ」
彼はそう言って私の顎を軽く上げると、そのまま唇を奪っていく。
(顔を見るんじゃなかったの……?)
そんな風に文句を言いたくなったが、私は静かに目を閉じた。
彼はちゅ、ちゅっと音を立てるように甘ったるいキスを繰り返していく。
軽く唇を吸い上げられて、輪郭を舌先で舐め取られて。
焦れったくて、もっと欲しくなるような魅惑の口付けだ。
目を瞑っていたので気付かなかったが、胸元がひんやりとしていることに気付き、私は薄らと目を開けて視線を下ろした。
すると身につけていたローブは何時の間にか外されていて、ブラウスのボタンも全て解かれていた。
「……っ!?」
「お前の肌って、すごく綺麗だな。柔らかくて触り心地もいい」
「やっ……」
「こうやって触れられると擽ったいか?」
私が驚くと唇が剥がされ、ユーリの掌が私の肌に触れる。
温かい掌なのに、触れられるとぞわぞわと感じて体を揺らしてしまう。
そんな彼の手は私の胸元を優しく撫でていた。
(なんで、こんなことになっているのっ!?)
こんな恥ずかしい格好にさせられて嫌なはずなのに、触れられる度に体の奥が疼き気持ちいいと感じてしまう。
「白い肌が仄かに赤みがかっていて、お前がいかに興奮しているかが分かるな」
「はぁっ、やぁっ、見ないでっ……」
「恥ずかしいか? だけど、そのうち見られていることなんて気にならなくなる」
「ひっ、……な、なにしてるの?」
ユーリは私の首元に顔を寄せると、首から胸の間にキスを落としていく。
最初は軽く口付ける程度であったが、時折チクッとした鋭い痛みを感じて思わず眉を顰めてしまう。
「痕を付けてる。マーキングだな」
「マーキングって……っん」
「吸われるのは気持ちいいのか?」
「ち、ちがうっ! 勝手に声が漏れちゃうだけで、これはっ……」
チクッとした鋭い刺激の後、甘い痺れみたいな感覚が現れる。
それを感じると、体の内側が更に熱くなっていくような気がする。
「気持ちがいいんだな。こうされるのが嬉しいのか? それならば、もっと沢山付けてやらないとな」
「そんなこと、言ってなっ……ひぅっ」
彼は愉しそうな口調で呟くと、胸の膨らみに手を触れた。
胸元には下着がまだ付けられているので、直接触れられているわけではない。
それなのに、胸を優しく揉まれて変な声が漏れてしまう。
(恥ずかしいっ……!)
だけど気が抜けてしまうくらい、気持ちいい。
薄く開いた口元から熱い吐息を漏らしながら、私はその感覚に溺れていく。
「そうやって一々恥じらうような姿を見せられていると、こちらまで興奮してくる。もっと追いつめて、啼かせたくなる」
「……!?」
その言葉にゾクッとして、私は怯えたような表情を見せた。
彼の声からは、深い欲望が孕んでいるように感じたからだ。
固まっている私に気付くと、ユーリは私の方に視線を向けた。
「そんなに怯えた顔はしなくても平気だ。セラが嫌がることはしない。ここでやめて欲しいなら言ってくれ」
「……っ」
先程の欲望を孕んだ声とは一変して、彼の口調は穏やかなものに戻っていた。
そして大きな掌を私の頭の上に乗せ、宥めるように優しく髪を撫でてくれている。
全く違う表情を見せられて、私は戸惑ってしまう。
だけど、こんな中途半端で止められたら、この後どうして良いのか分からなくなる。
体には熱が溜まり、今でも中心がじんじんと疼いているというのに。
「嫌じゃ……、ない」
私は消えそうな程の小さな声で呟いた。
恥ずかしいけど、やめて欲しくない。
「何? 聞こえなかった。もう一度言って」
「……っ、やめ、ないで……」
私は恥ずかしくて、視線を逸らしながら弱々しい声で呟いた。
恐らくこの声はユーリにも届いているはずだ。
自分から求めてしまうなんて、はしたないことをしている自覚はある。
だからこそ余計に恥ずかしい。
(もうやだ……)
私は恥ずかしさから逃れるために、ぎゅっと瞼を強く閉じた。
安易な考え方だとは思うが、視界が遮断されたらこの羞恥心から逃げられると思った。
(軽い女だって思われたかな。でもっ、仕掛けてきたのはユーリの方だし。悪いのは全部ユーリだよっ!)
暫くの間、沈黙が続く。
それが私にはとても長く感じた。
どうして彼は何も言ってこないのだろう。
(もしかして引かれた……?)
この無言の時間が、私の心を更に不安にさせる。
我慢出来なくなり、恐る恐る目を開いてみた。
すると目の前には碧い瞳があって、視線が合うと同時に囚われてしまう。
「お前って、本当に可愛いな。本気で欲しくなる」
「……な、に?」
彼は私の瞳を真っ直ぐに見つめながら答えると、そっと瞼に口付けた。
そして額や頬へと順を追うようにキスを落としていく。
(一体何なの……!?)
突然のことに私は戸惑ってしまう。
だけど、引かれていなかったと分かると、どこかほっとしていた。
そして求められていることに、嬉しさも感じてしまう。
「セラ、このままお前のことを抱いても良いか?」
「……っ」
いきなりそんな風に言われても、なんて返していいのかが分からない。
彼の肩書きは、ステータス画面で確認したから知っている。
勇者であり、どこかの国の皇子。
誤って召喚された私には、絶対に釣り合わない人間だ。
深い仲になったとしても、私は割り切った相手にしかなれないのだと思う。
それでも……。
こんな風に誰かに熱っぽい視線を向けられて、求められることは初めてだった。
恋人はいたことはないけど、そういうことに対して憧れのような興味を持っていたのは事実だ。
私のことを気遣ってくれるユーリならば、受け入れても良いと思ってしまいたくなる。
それに体の疼きも相まって、断るなんて選択肢はもう私の中では既に無くなっていたのかもしれない。
私は恥ずかしそうに小さく頷く。
(ユーリとだったら、嫌じゃない……)
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