私を断罪する予定の婚約者が意地悪すぎて、乙女ゲームの舞台から退場できないのですが!【R18】

Rila

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「リゼ、おはよう」
「おはようございます、殿下」

 朝、学園に登校して廊下を歩いていると、教室の入口で一際目立つ存在から声をかけられた。
 柔らかく微笑みかけられて一瞬ドキッとしてしまうが、これは私だけに向けられたものではない。
 彼は王太子という立場の人間なので、皆に対して日頃から好感度のある態度で接している。
 周りからは温厚で優しいと慕われているようだが、それは猫を被っているだけだ。
 本性は意地悪で策士で、なにかと私に突っかかってくる。

 そして、彼は朝必ずここに立っている。
 理由は分かっているけれど……。
 
(今日もヒロインである、ロナさんを待っているのね)

「ねえ、君の好きな焼き菓子を用意したんだけど、帰りに王宮に来ないか?」
「……っ!」

 焼き菓子という言葉に思わず反応してしまう。
 あれはなかなか手に入らない、隣国のお菓子だ。
 私が必死に悩んでいると、彼はくすっと小さく笑った。

「そんなに悩むこと? まあ、君なら悩むだろうなとは思っていたけどね。今回を逃すと次は数ヶ月後になってしまうだろうな。それでもいいの?」
「うっ……、それは……」

 まるで餌付けをされているようで悔しいのだけど、あのお菓子は私の中でベスト3に入るくらいのものだから仕方がない。

「お菓子のことで本気で悩む君は可愛らしいね。私よりお菓子に興味があるのは不満だけど、朝からいいものが見れたよ」
「……っ!」

 彼は意地悪そうな顔で、完全に私のことをからかっているように見えて再び悔しい気持ちになる。
 なぜだか分からないけど、殿下は妙に私に話しかけてくる。
 これは悪役令嬢としての役割を果たさせるために、そう仕組んでいるに違いない。
 
 だって、すでにヒロインはこの学園にいるし、二人の関係はそれなりに友好的に見える。

(私を悪役に仕立てて、陥れようとしているのね……。ふんっ、残念だったわね。私はそんな作戦には絶対に引っかからないわ!)

 そんな時だった。

「あっ、アンドレアス殿下! おはようございますっ!」
「おはよう、ロナ嬢」

 背後から明るい声が響くと、すぐに私の視界にピンク色のふわりとした髪が横切る。
 現れたのはヒロインであるロナだ。
 
 平民出身だけど、この世界では希少な光属性の魔法を使うことができる典型的なヒロイン設定。 
 愛らしい容姿なので、平民出身ではあるが令息たちには好かれているようだ。
 
「おはようございます、ロナさん」
「リーゼル様もいらっしゃったんですね」

 私が挨拶をすると、彼女は興味ないといった態度でさらりと返した。

(私のことが嫌いなのは分かるけど、あからさますぎるわ……)

 間違いなく、彼女も『転生者』なのだろう。
 でなければ、公爵令嬢である私に対してこんな態度は取れないはずだ。
 私は彼女の態度からすぐに察したのだけど、自分が『転生者』であることは気づかれないようにしている。
 そのほうが面倒ごとから避けられると思ったからだ。

「そうだわ。殿下、折角ですしロナさんを招待してあげてはいかがでしょうか?」
「……それは」
「なんのお話ですか?」

 私はにっこりと微笑み、ある提案をした。
 すると殿下は少し困った表情を浮かべ、ロナは話に食いついてくる。

「殿下が隣国から美味しいお菓子を取り寄せてくださったようなのです。私は以前頂いて満足したので、ロナさんを誘ってみてはいかがかと思いまして……」
「えっ! そうなんですかっ! 是非食べてみたいですっ!」

 一瞬殿下と目が合うと、彼は目を細めて不満そうな顔で私のことを睨んだ。
 反射的にびくっとしてしまうが、彼の表情はすぐに明るくなる。

「ロナ嬢さえよければどうですか? 折角なので、他の生徒会メンバーも誘ってみようと思うのですが」
「行きますっ!」

「そうですか。では、放課後に」
「はいっ!」

 殿下やロナを含め、主要なキャラクターである攻略対象者たちは皆、生徒会に属している。
 ちなみに私は悪役なので入っていない。
 以前、殿下にしつこく誘われたことがあったが、全力で断った。
 敵陣に自ら飛び込んで、敵意を向けられるなんてまっぴらごめんだ。

「少し彼女に話があるので、ロナ嬢は教室に入っていてください」
「えっ……、私には特に用事は……」

 嫌な予感を感じて、その場から立ち去ろうとするも、逃げる前に手首をしっかりと掴まれてしまう。
 ロナは殿下に誘われたことに浮かれているのか、そのまま教室に入っていってしまい気まずい雰囲気になる。

「君にしては、うまく逃げたようだね」
「なんのお話ですか?」

 ぼそりと呟く声が聞こえたので、私は戸惑いながら問い返す。

「そうやって、とぼけるのは昔から上手いよね。だけど、僕も長い間君の傍にいて、どうしたら捕まえられるのかをずっと考えていたんだ。なにを言いたいかっていうと、いつまでも逃げられるなんて思わないほうがいいってことかな」
「……っ!?」

 殿下はおどけた様子で肩を竦めたあと、私の耳元に顔を寄せてきて耳元でそう呟いた。
 熱の篭もった吐息が耳元にかかると、ぞくりとして体が震えてしまう。

「それは、どういう意味ですか……?」

 彼はその質問には答えなかった。
 ふっと口端を上げて意味深に微笑むと、あっさりとその場から離れていった。

(な、なに……!?)

 突然のことに私は困惑する。
 急接近したことで、心拍数がすごいことになっているし、なによりも最後の発言が気になって仕方がない。

(もしかして、私が悪役である立場から逃げようとしていること……気づかれた?)

 考えてみれば、私だけが転生者だとは限らない。
 おそらくヒロインもそうだと思うし、だとしたら他の主要メンバーが転生者だという可能性があってもおかしくない。

(……今になってそんなことに気づくなんて。盲点だったわ)

 すでにロナとお互いの状況を話し合っていて、二人で私のことを嵌めようとしているのだろうか。
 私が悪役らしい行動をしていないから、卒業間近の今、なんとかして悪役に戻そうとしているのかもしれない。

(そうだとしたらまずいわ。だけど、どうしよう……。もう卒業まで二ヶ月しかないのに……。最後の最後でこんなどんでん返し、やめてよ!)

 まるで悪夢のどん底に突き落とされたような気分だ。

(こうなったら……、もうあの手段を使うしかないかも)

 これは私が考えていた最終手段である。
 それは自らの手でこの舞台から降りること。

 本当は円満に解決して、その後はスローライフを満喫するつもりでいた。
 しかし、このままいけば私は確実に破滅するだろう。
 謂われのない冤罪をかけられて。

(そんなの、絶対に嫌……!)

 そう思った私は、奥の手を実行することにした。
 それは仮病を使って領地に帰ること。
 両親を心配させてしまうことは心苦しいけど、家出するよりはマシだろう。
 
 そして、それから数日後に私はその作戦を実行させた。
 両親は私に甘いことと、心配性なため、領地で療養することを簡単に許してくれた。

 私の体に問題があると分かれば、きっと殿下との婚姻は先送りにされるだろう。
 そして、あわよくば解消してくれるはず。

 そう期待していた。
 しかし、私の期待はまたしても外れてしまうこととなる。
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