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領地に来てから、もうすぐ二ヶ月になる。
ここに来てからというもの、思った以上に穏やかすぎて拍子抜けしてしまったくらいだ。
ちなみに父は王宮で働いているので、ここには私一人で来ている。
私に仕えてくれている使用人も一緒に来てくれているので、寂しさもあまり感じなかった。
心配性な両親からは毎日手紙が届くし、なぜか殿下からも送られてくる。
(こんなことに忠実にならなくてもいいのに……)
私にとって、断罪しようとする殿下は敵だけど、こうも毎日手紙を送ってきて、しかも私の身を案じる文面を見ていると、少しだけ気持ちが揺らぎそうになってしまう。
本当に私にとってこの人は敵なのだろうか、と。
(そんなこと考えても無駄よね。だって、実際にここは乙女ゲームが舞台なんだし、私が悪役令嬢であることに変わりないのだから)
「だけど、卒業式も終わったのよね……。こんなにも簡単な方法があるのなら、最初から領地に戻っていれば良かったわ」
私は断罪される前に舞台から退場した。
そのため、事実的には断罪を回避することができた、はず。
むしろ、そうだと思いたい。
そんなことを考えながら、庭でのんびりとお茶を啜っていた。
こんなふうに呑気な気分を満喫しているのは、きっとこの物語の中で私だけなのではないだろうか。
ヒロインであるロナは攻略対象全員と親しくしていた。
ハーレム狙いだったのかはわからないけど、選ばれなかった者はひどく落胆していることだろう。
(やっぱり、ロナさんが最終的に選んだのは殿下だったのかしら……)
私は殿下と出会う前から、自分が悪役令嬢ポジションであることを把握していた。
だからこそ、最初から自分が選ばれないことは分かっていたのに。
少しだけ、胸の奥がチクチクと痛むのはなぜなのだろう。
長い間殿下の傍にいたので、きっと少しだけ寂しく感じているだけなのだろう。
(きっと、そうだわ。望んで婚約者になったわけではないし……。好きになるとか、ありえないわ……)
先ほどから感じる胸の痛みを抑えるように、自分にそう言い聞かせた。
これは私が望んだ結末で喜ぶべきいはずなのに、考えれば考えるほど胸の奥が苦しくなる。
きっと、王都では今頃殿下と私の婚約について協議されているのだろう。
そして、数日後に私にもその知らせが届くに違いない。
「お父様、迷惑をたくさんかけてしまってごめんなさい。今度お会いしたらちゃんと謝らないと……」
「なにを謝るの?」
「なにって、親不孝な娘でごめんなさいって……っ!?」
思わず反射的に答えてしまったけど、私は慌てるように声の響いた方向へと視線を向けた。
そこには涼しげな表情をした殿下が立っていた。
ここにいるはずのない人間が突如目の前に現れて、私の頭の中は軽いパニック状況に陥っている。
「な、なっ……なんで、ここに殿下がいるんですかっ!?」
「ようやく時間が作れたから、愛しの婚約者に会いに来たんだ」
私が驚きのあまり口をぱくぱくさせていると、彼は柔らかく微笑みながらこちらへと近づいてきた。
「ずいぶん驚いた顔をしているね。やっぱり黙って来て正解だったかな。いいものが見れたよ」
そう言うと、殿下はそっと私の頬に手を添えた。
「顔色はずいぶん良さそうだね。元気そうで安心したよ」
「えっと、あの……どうして、ここにっ……」
仮病を使っている手前、罪悪感を覚えて私は目を泳がせてしまう。
しかし、彼はそんな私の心の内をすでに知るかのように、にっこりと微笑んだままだ。
その笑顔が妙に怖い。すごく嫌な予感がする。
「そんなの心配だからに決まってるだろう。来るのが遅れてしまってごめんね。本当はすぐにでもここに来たかったけど、卒業間近だったからなかなかそうもいかなくてね」
「……っ」
彼は僅かに目を細めると、私の隣へと腰かけた。
その間も青い瞳はじっと私のことを見つめていて、視線を逸らすことができない。
「私も今日から暫くの間、ここに滞在させてもらうから」
「はっ!?」
「君の父上には既に了承をもらってる。それに、婚姻前に君とゆっくりと話がしたいと思っていたからちょうど良かった」
「……っ」
殿下はそう言うとさらに顔を近づけてきて、息がかかるほどの距離にまで迫ってくる。
私は抵抗することを忘れ、高鳴る胸の鼓動を感じながら彼の瞳を見つめることしかできない。
突然、こんな状況になり、戸惑いすぎてどうしたらいいのか分からなくなっていた。
「もう逃がすつもりはないから、いい加減覚悟を決めてね」
低い艶のある声が響いたかと思えば、気づいたときにはすでに唇を塞がれていた。
ここに来てからというもの、思った以上に穏やかすぎて拍子抜けしてしまったくらいだ。
ちなみに父は王宮で働いているので、ここには私一人で来ている。
私に仕えてくれている使用人も一緒に来てくれているので、寂しさもあまり感じなかった。
心配性な両親からは毎日手紙が届くし、なぜか殿下からも送られてくる。
(こんなことに忠実にならなくてもいいのに……)
私にとって、断罪しようとする殿下は敵だけど、こうも毎日手紙を送ってきて、しかも私の身を案じる文面を見ていると、少しだけ気持ちが揺らぎそうになってしまう。
本当に私にとってこの人は敵なのだろうか、と。
(そんなこと考えても無駄よね。だって、実際にここは乙女ゲームが舞台なんだし、私が悪役令嬢であることに変わりないのだから)
「だけど、卒業式も終わったのよね……。こんなにも簡単な方法があるのなら、最初から領地に戻っていれば良かったわ」
私は断罪される前に舞台から退場した。
そのため、事実的には断罪を回避することができた、はず。
むしろ、そうだと思いたい。
そんなことを考えながら、庭でのんびりとお茶を啜っていた。
こんなふうに呑気な気分を満喫しているのは、きっとこの物語の中で私だけなのではないだろうか。
ヒロインであるロナは攻略対象全員と親しくしていた。
ハーレム狙いだったのかはわからないけど、選ばれなかった者はひどく落胆していることだろう。
(やっぱり、ロナさんが最終的に選んだのは殿下だったのかしら……)
私は殿下と出会う前から、自分が悪役令嬢ポジションであることを把握していた。
だからこそ、最初から自分が選ばれないことは分かっていたのに。
少しだけ、胸の奥がチクチクと痛むのはなぜなのだろう。
長い間殿下の傍にいたので、きっと少しだけ寂しく感じているだけなのだろう。
(きっと、そうだわ。望んで婚約者になったわけではないし……。好きになるとか、ありえないわ……)
先ほどから感じる胸の痛みを抑えるように、自分にそう言い聞かせた。
これは私が望んだ結末で喜ぶべきいはずなのに、考えれば考えるほど胸の奥が苦しくなる。
きっと、王都では今頃殿下と私の婚約について協議されているのだろう。
そして、数日後に私にもその知らせが届くに違いない。
「お父様、迷惑をたくさんかけてしまってごめんなさい。今度お会いしたらちゃんと謝らないと……」
「なにを謝るの?」
「なにって、親不孝な娘でごめんなさいって……っ!?」
思わず反射的に答えてしまったけど、私は慌てるように声の響いた方向へと視線を向けた。
そこには涼しげな表情をした殿下が立っていた。
ここにいるはずのない人間が突如目の前に現れて、私の頭の中は軽いパニック状況に陥っている。
「な、なっ……なんで、ここに殿下がいるんですかっ!?」
「ようやく時間が作れたから、愛しの婚約者に会いに来たんだ」
私が驚きのあまり口をぱくぱくさせていると、彼は柔らかく微笑みながらこちらへと近づいてきた。
「ずいぶん驚いた顔をしているね。やっぱり黙って来て正解だったかな。いいものが見れたよ」
そう言うと、殿下はそっと私の頬に手を添えた。
「顔色はずいぶん良さそうだね。元気そうで安心したよ」
「えっと、あの……どうして、ここにっ……」
仮病を使っている手前、罪悪感を覚えて私は目を泳がせてしまう。
しかし、彼はそんな私の心の内をすでに知るかのように、にっこりと微笑んだままだ。
その笑顔が妙に怖い。すごく嫌な予感がする。
「そんなの心配だからに決まってるだろう。来るのが遅れてしまってごめんね。本当はすぐにでもここに来たかったけど、卒業間近だったからなかなかそうもいかなくてね」
「……っ」
彼は僅かに目を細めると、私の隣へと腰かけた。
その間も青い瞳はじっと私のことを見つめていて、視線を逸らすことができない。
「私も今日から暫くの間、ここに滞在させてもらうから」
「はっ!?」
「君の父上には既に了承をもらってる。それに、婚姻前に君とゆっくりと話がしたいと思っていたからちょうど良かった」
「……っ」
殿下はそう言うとさらに顔を近づけてきて、息がかかるほどの距離にまで迫ってくる。
私は抵抗することを忘れ、高鳴る胸の鼓動を感じながら彼の瞳を見つめることしかできない。
突然、こんな状況になり、戸惑いすぎてどうしたらいいのか分からなくなっていた。
「もう逃がすつもりはないから、いい加減覚悟を決めてね」
低い艶のある声が響いたかと思えば、気づいたときにはすでに唇を塞がれていた。
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