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第一章:私の婚約者を奪おうとしないでくださいっ!
29.誤解-sideロジェ-
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シアが目覚めてから十日程が過ぎた、ある日のこと。
父上から呼ばれて執務室へと向かった。
「ロジェ、お前に聞きたいことがある」
「聞きたいこと、ですか?何でしょうか?」
父は対面するように座る、僕のことを鋭い視線で捉えていた。
そんな表情を見ると、これから何を言われるのか緊張して顔が強ばってしまう。
「先日、アルシェ伯爵が来たことはお前も知っているな」
「はい。もしかして……、シアとの婚約の件ですか?僕は絶対にシアがいい。彼女以外、考えられません!」
伯爵の名前が出てくると、すぐに彼女との婚約についてのことだと予想が付いた。
僕は感情が昂ぶり、聞かれても無いことをペラペラと話してしまう。
「フェリシア嬢は、お前がミレーユ王女と恋仲にあるのではないかと疑っているようだ」
「それは誤解だ!僕はミレーユのことをそんな風に思ったりなんてしていない!」
その言葉に直ぐさま反論すると、父は「ミレーユ……?」と眉を顰め静かに呟く。
僕はしまったと思い、渋い顔を見せた後視線を下に向けた。
焦ったことにより我を忘れ、呼び慣れている名をそのまま口にしてしまった。
「敬称を取って呼べるくらい、お前はミレーユ王女と親しい間柄ということなのか?」
「ち、違います。それは王女がそう呼べと命令してきたので、仕方なく呼んでいただけです」
(落ち着け……、今は父上に変な誤解をされるわけにはいかない)
僕は心を落ち着けるように、深く息を吐いた。
父は淡々とした口調で話を続けていく。
「学内での様子を知るために調査を依頼していたんだが、その結果が今日届いた」
「調査……?」
(一体、何を……)
「本当にフェリシア嬢が言うような、誤解する状態にあったのかを知るためにな。報告書には、常にお前の傍には王女の姿があったと書かれていた」
「それはっ、命令で仕方なく……」
僕は慌てるように答えた。
「ああ、そのことも書かれていた。まずは最後まで聞きなさい」
「……はい」
「王女に命令され仕方なく従っていた。そう思っている者が大半の様だ。ミレーユ王女は過去に同じような事を何度か繰り返している。お前はフェリシア嬢に王女に近づけさせないため、従った。大方そんな理由だろう」
父の言葉を聞いて僕は心底ほっとした。
今の話を聞く限り、僕の無実は明らかのようだ。
当時、僕に婚約の話が持ち上がった時、父が最初に名前を挙げた令嬢はシアではなかった。
だけど僕がどうしても彼女が良いと数日間説得を続け、結果的に父が折れてシアを婚約者に出来たのだ。
だから父は僕がどれほど彼女に心を惹かれているのか、分かっているのだろう。
「何故、誤解をされる前に説明をしなかった」
「それは、あの王女は執念深い。下手に動いてシアと会っている所を見られでもしたら、彼女に刃が向くと思ったんです。だから極力会わないようにしていました。だけど、シアには信じて待っていて欲しいと伝えました」
僕の話が終わると、父は考えたように顔を顰めた。
「最後に確認させて貰う」
「え?」
「お前はミレーユ王女とは、何も無かったんだな。王女には既に婚約者がいる。しかも相手は王族だ。そんな相手に手を出せば、ただでは済まないことは分かっているだろうな」
「……っ、勿論です。僕はやましいことは何もしていない。信じてください」
父は再び鋭い瞳で問う。
僕はごくっと唾を呑み込むと、静かに答えた。
王女が軟禁されてから、毎日私室には通っていた。
それは王女が寂しいと言って来たから、放っておけなかった。
だけど僕だって馬鹿じゃない。
王女に手を出せばどうなるかくらい分かっている。
それに僕には他に愛する人がいる。
王女には決して手を出していない。
キスを求められた時もあったが、その時は話しを逸らしてなんとか誤魔化した。
抱きしめたことはあったが、あれは慰めていただけだ。
やましい気持ちなんて一度も持ったことは無い。
彼女を裏切る様な行為は何もしていない。
「その言葉、信じるぞ」
「問題ありません」
「では、その様に伯爵に伝えよう。しかし、フェリシア嬢に疑念を持たせたのはお前の説明不足が原因だ。お前が選んだ相手なのだから自分で説得をしなさい。出来なければ他の婚約者を私の方で探すからな」
「……分かりました」
父は彼女との婚約をあまり良く思っていないのだろうか。
僕は戸惑った顔をしていると、父はそれに気付いたのか口を開く。
「どうした?自信がないのか?」
「そういう訳ではないのですが、父上はシアのことをあまり良く思っていないのですか?」
僕は正直に聞いた。
「そんな風に聞こえたか?悪く思わないでくれ。私はフェリシア嬢のことを嫌っているわけではない。ただ、お前はこの侯爵家を継ぐ人間だ。私の意見に歯向かってまで、進めた婚約だ。私はお前の言葉を信じた。しかし、簡単に壊れるくらいなら、もっと相応しい令嬢を探すまでだ」
父の言葉が重く心にのしかかる。
シアの家柄は決して悪くはないが、彼女は大分マイペースだ。
将来僕と結婚して侯爵婦人になったら、不安な部分も出てくると思われているのだろう。
そこは僕が頑張って、シアを支えていくつもりでいる。
「父上、僕は絶対にシアを説得させてみせます。ですが、今の状態では会うことも難しい。伯爵にシアと話せる機会を与えて貰えるよう、頼んで頂けませんか?」
彼女は部屋に閉じこもっているし、僕は屋敷にも入れない。
悔しいが、今は自分の力では何も出来ない状況だ。
だけど何もしないまま諦めるなんてことも絶対にしたくない。
「明日にでも伯爵家を訪れるつもりでいるからな。報告も兼ねてそのことも伝えてこよう」
「それならば僕も同席を……」
「いや、お前がいると話が拗れる可能性がある。今回は我慢してくれ。伯爵も誤解だと分かれば、きっと話せる機会を与えてくれるはずだ」
「わかりました」
話が終わると僕は執務室を後にした。
(とりあえず前進したと言う所か。なんとしてもシアの誤解を解かなければ……)
誤解だと分かれば直ぐに彼女も考え直してくれる。
僕はそんな甘い考えを持っていた。
父上から呼ばれて執務室へと向かった。
「ロジェ、お前に聞きたいことがある」
「聞きたいこと、ですか?何でしょうか?」
父は対面するように座る、僕のことを鋭い視線で捉えていた。
そんな表情を見ると、これから何を言われるのか緊張して顔が強ばってしまう。
「先日、アルシェ伯爵が来たことはお前も知っているな」
「はい。もしかして……、シアとの婚約の件ですか?僕は絶対にシアがいい。彼女以外、考えられません!」
伯爵の名前が出てくると、すぐに彼女との婚約についてのことだと予想が付いた。
僕は感情が昂ぶり、聞かれても無いことをペラペラと話してしまう。
「フェリシア嬢は、お前がミレーユ王女と恋仲にあるのではないかと疑っているようだ」
「それは誤解だ!僕はミレーユのことをそんな風に思ったりなんてしていない!」
その言葉に直ぐさま反論すると、父は「ミレーユ……?」と眉を顰め静かに呟く。
僕はしまったと思い、渋い顔を見せた後視線を下に向けた。
焦ったことにより我を忘れ、呼び慣れている名をそのまま口にしてしまった。
「敬称を取って呼べるくらい、お前はミレーユ王女と親しい間柄ということなのか?」
「ち、違います。それは王女がそう呼べと命令してきたので、仕方なく呼んでいただけです」
(落ち着け……、今は父上に変な誤解をされるわけにはいかない)
僕は心を落ち着けるように、深く息を吐いた。
父は淡々とした口調で話を続けていく。
「学内での様子を知るために調査を依頼していたんだが、その結果が今日届いた」
「調査……?」
(一体、何を……)
「本当にフェリシア嬢が言うような、誤解する状態にあったのかを知るためにな。報告書には、常にお前の傍には王女の姿があったと書かれていた」
「それはっ、命令で仕方なく……」
僕は慌てるように答えた。
「ああ、そのことも書かれていた。まずは最後まで聞きなさい」
「……はい」
「王女に命令され仕方なく従っていた。そう思っている者が大半の様だ。ミレーユ王女は過去に同じような事を何度か繰り返している。お前はフェリシア嬢に王女に近づけさせないため、従った。大方そんな理由だろう」
父の言葉を聞いて僕は心底ほっとした。
今の話を聞く限り、僕の無実は明らかのようだ。
当時、僕に婚約の話が持ち上がった時、父が最初に名前を挙げた令嬢はシアではなかった。
だけど僕がどうしても彼女が良いと数日間説得を続け、結果的に父が折れてシアを婚約者に出来たのだ。
だから父は僕がどれほど彼女に心を惹かれているのか、分かっているのだろう。
「何故、誤解をされる前に説明をしなかった」
「それは、あの王女は執念深い。下手に動いてシアと会っている所を見られでもしたら、彼女に刃が向くと思ったんです。だから極力会わないようにしていました。だけど、シアには信じて待っていて欲しいと伝えました」
僕の話が終わると、父は考えたように顔を顰めた。
「最後に確認させて貰う」
「え?」
「お前はミレーユ王女とは、何も無かったんだな。王女には既に婚約者がいる。しかも相手は王族だ。そんな相手に手を出せば、ただでは済まないことは分かっているだろうな」
「……っ、勿論です。僕はやましいことは何もしていない。信じてください」
父は再び鋭い瞳で問う。
僕はごくっと唾を呑み込むと、静かに答えた。
王女が軟禁されてから、毎日私室には通っていた。
それは王女が寂しいと言って来たから、放っておけなかった。
だけど僕だって馬鹿じゃない。
王女に手を出せばどうなるかくらい分かっている。
それに僕には他に愛する人がいる。
王女には決して手を出していない。
キスを求められた時もあったが、その時は話しを逸らしてなんとか誤魔化した。
抱きしめたことはあったが、あれは慰めていただけだ。
やましい気持ちなんて一度も持ったことは無い。
彼女を裏切る様な行為は何もしていない。
「その言葉、信じるぞ」
「問題ありません」
「では、その様に伯爵に伝えよう。しかし、フェリシア嬢に疑念を持たせたのはお前の説明不足が原因だ。お前が選んだ相手なのだから自分で説得をしなさい。出来なければ他の婚約者を私の方で探すからな」
「……分かりました」
父は彼女との婚約をあまり良く思っていないのだろうか。
僕は戸惑った顔をしていると、父はそれに気付いたのか口を開く。
「どうした?自信がないのか?」
「そういう訳ではないのですが、父上はシアのことをあまり良く思っていないのですか?」
僕は正直に聞いた。
「そんな風に聞こえたか?悪く思わないでくれ。私はフェリシア嬢のことを嫌っているわけではない。ただ、お前はこの侯爵家を継ぐ人間だ。私の意見に歯向かってまで、進めた婚約だ。私はお前の言葉を信じた。しかし、簡単に壊れるくらいなら、もっと相応しい令嬢を探すまでだ」
父の言葉が重く心にのしかかる。
シアの家柄は決して悪くはないが、彼女は大分マイペースだ。
将来僕と結婚して侯爵婦人になったら、不安な部分も出てくると思われているのだろう。
そこは僕が頑張って、シアを支えていくつもりでいる。
「父上、僕は絶対にシアを説得させてみせます。ですが、今の状態では会うことも難しい。伯爵にシアと話せる機会を与えて貰えるよう、頼んで頂けませんか?」
彼女は部屋に閉じこもっているし、僕は屋敷にも入れない。
悔しいが、今は自分の力では何も出来ない状況だ。
だけど何もしないまま諦めるなんてことも絶対にしたくない。
「明日にでも伯爵家を訪れるつもりでいるからな。報告も兼ねてそのことも伝えてこよう」
「それならば僕も同席を……」
「いや、お前がいると話が拗れる可能性がある。今回は我慢してくれ。伯爵も誤解だと分かれば、きっと話せる機会を与えてくれるはずだ」
「わかりました」
話が終わると僕は執務室を後にした。
(とりあえず前進したと言う所か。なんとしてもシアの誤解を解かなければ……)
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僕はそんな甘い考えを持っていた。
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