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第二章:私の心を掻き乱さないでくださいっ!
40.被害者
しおりを挟む「…………」
「さすがにここには入ってこれないでしょう」
イリアは中に入ると私の手をぱっと離してくれた。
突然トイレに連れ込まれ驚いてしまったが、先程の様子を見かねて助けてくれたのだろうとすぐに分かった。
「突然ごめんね。あの男しつこそうだったから。こうでもしない限り諦めないかなって思って。余計なことだったかな?」
「ううん。助けてくれたんですよね?ありがとうございますっ」
トイレに連れ込まれたことには驚いてしまったが、ロジェから回避出来て内心ほっとしていた。
「来て早々災難ね」
「たしかに……」
イリアの言葉に思わず苦笑してしまう。
まさかこんなことになるなんて思っても見なかった。
ロジェはもう私のことなど気にすることはないと思っていたからだ。
「実はね、私もあの王女殿下の被害者の一人なの」
「え?」
イリアは思い出すようにぽつりと呟いた。
その話を聞いて私は驚いた顔を向けた。
「私も前にあの王女殿下に婚約者を奪われたの。だからアルシェさんのこと、他人事には思えなくて。思わず行動に出ちゃった」
「そう、だったんだ」
ミレーユに苦しめられてきた人間は私だけでは無い。
この学園には他にも被害に遭った者がいるのだろう。
そう思うと悔しくなり、掌をぎゅっと握りしめた。
(本当に最低な人だ……)
「そんなに困った顔をしないで。もう一年以上前のことだし、私の傷は癒えてるわ。だから大丈夫よ」
「…………」
「ねえ、それよりも良かったら私達友達にならない?席が隣になったのも何かの縁だと思うし。友達になれば逃げる口実も色々と作れると思うよ」
「いいんですか?迷惑かけちゃうかも……」
「うん。大丈夫!元々気になってたし。アルシェさんが戻って来たら友達になりたいなって思っていたんだ」
「私なんかのこと、気にしてくれてありがとうございます」
「ふふっ、私結構お節介なところがあるみたいだから。その辺は気にしないで良いよ」
「それじゃあ、よろしくお願いしますっ」
「こちらこそよろしくね。友達になったから、フェリシアさんて呼んでもいい?私のことイリアでいいわ」
「大丈夫ですっ!さんも要りませんよ!」
「じゃあフェリシアって呼ぶわね」
「はい!イリアさん」
「私もさんは要らないよ」
「じゃあ、イリア……」
私がドキドキしながら名前を呼ぶと、イリアは満足そうに微笑んでいた。
始めて同性の友人が出来て嬉しかった。
「そういえばフェリシアってエルネスト殿下と仲良かったよね?」
「う、うん」
「それなら一応伝えておいた方がいいかな。復学してきた公爵令嬢っていうのが、エルネスト殿下の婚約者最有力候補って言われている令嬢なの。殿下と仲良くするのは自由だと思うけど、彼女が黙っているかは分からないってこと。その事だけは頭の片隅にでも入れておいて。目を付けられたらまた面倒ごとに巻き込まれるかもしれないからね」
「そうなんだ。エルネスト様の……。教えてくれてありがとうございますっ!」
今までエルネストの婚約者についての話は不思議と出てこなかった。
だから特に気にすることなくエルネストと接していた。
エルネストも普通に接してくれていたし、いないものだと勝手に思い込んでいた。
だけど今思うと、エルネストは第一王子で婚約者の存在があってもおかしくないはずだ。
現在婚約者がいないにしても、選ばれる人間はそれ相応の身分であることは考えればわかる。
(これからはあんまりエルネスト様には近づかない方がいいのかな……)
そんな風に思うと寂しく思えて、胸の奥がきゅっと締め付けられたような気分を感じた。
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