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第二章:私の心を掻き乱さないでくださいっ!
65.王家への不信感①
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「エルデン家は王家を恨んでいると思う」
「……どうして?」
衝撃的な話を聞いてしまい、私の顔は強ばっていた。
「原因は他でもない姉上だよ。不祥事の殆どは、大抵あの人絡みのことだから」
「……っ」
今の話を聞いて、不意に噂話を思い出した。
以前イリアは、ミレーユとイルメラの仲は最悪だと話していた。
エルデン家と言えば有力貴族の中のひとつであり、王家であっても敵には回したくない相手なはずだ。
イルメラに手を出せば、厄介なことになることくらい容易に想像出来たはずなのに。
(それとも、何か別の理由があったのかな……)
ミレーユは以前、私とロジェが仲が良い姿を見ただけで機嫌を損ねたと話していた。
そんな一時の感情で動くような人間だ。
ミレーユにとっては、周りの事情なんて関係ないのだろう。
ただ己の心が満足出来れば、他人を傷つけても、不快にさせても一切気にならない。
そんな風に思うと、思わず顔を引き攣らせてしまう。
「呆れるよな。あの人は後先考えずに、自分の感情だけで行動する。周りがどうなろうとお構いなしだ。不祥事を起こしても、父上が守ってくれると思っている。実際そうだからな。数日の謹慎で大体済まされる」
「なんか、それってすごくずるいですね」
今の私の表情には、嫌悪感が混じっているかもしれない。
「全くな。私がいくら陛下に進言しても、まともに取り合ってはくれない。姉上の前で少し厳しい態度を見せれば、反省すると思っているようだが。あれは……、姉上ではなく、私を黙らせるための演技だったのかもしれないな」
「…………」
エルネストの話を聞いていると、陛下に対しての不信感が更に増していく。
以前エルネストは、自分は陛下の信頼を得ていると私に話してくれたことがあった。
あれは私を安心させるために、言ってくれた嘘だったのかもしれない。
(エルネスト様もすごく苦労しているんだ……)
「あのっ、ところでイルメラ様は王女殿下に何をされたんですか?」
「そのことだが、詳細は私も聞かされてはいないんだ。だけどそのことがきっかけで学園に来なくなったのは間違いなさそうだ」
「じゃあ留学っていうのは……」
「暫く王都から離れて、落ち着いた生活を送らせたかったのだろうな。ここにいる限り、嫌な記憶を思い起こしてしまうから」
今の話を聞いていると、私よりもイルメラの方が酷い目に遭っていたように聞こえてきてしまう。
一体何をされたのだろう。
一番悪いのはミレーユであることには間違いないが、国王が下した身内への処分の甘さが、全ての原因に繋がっている気がしてならない。
何をしても許されると思い込み、更にミレーユの行動はエスカレートする。
そして王族であるミレーユには誰も意見を言えない。
家族を守りたいという気持ちは分からなくも無い。
辛い処罰を下すのは、心苦しいことだとも思う。
一度目なら百歩譲って理解出来たとしても、ミレーユは一切反省する様子など無く、同じ事を何度も繰り返している。
そして悪いことだという認識を一切持っていない。
そこに問題があるのだと思う。
(エルネスト様は何度も訴えているのに、その言葉を聞かないなんて……。それって分かっているのに、知らんぷりしてるってことだよね)
そんなことを考えていると、次第にひしひしと怒りが込み上げてくる。
私は掌をぎゅっと握りしめ、その怒りを拳に閉じ込めようとした。
だけど言わずにはいられなくなり、口を開いてしまう。
「……許せません。王女殿下も、何もしない陛下も」
私は不敬に当たるような発言をしている。
しかも隣にいるのは王家の人間だ。
だけどあまりにも理不尽すぎて、我慢することが出来なかった。
「そうだな。フェリシアの意見に同意だ。一番の悪は父上だと私も感じている。あの姉上をずっと野放しにしていたせいで、多くの人間を巻き込んで混乱を生ませている。本来、国を束ねる者の筈なのに、これでは本末転倒だ」
エルネストの厳しい発言に「ははっ」と乾いた笑みが溢れてしまう。
だけど王族の中にもまともな意見を持った者がいるのだと知り、少しほっとしていた。
「王女殿下の事をずっと容認し続けて、貴族の中で反発とか起こらなかったんですか?」
私が問いかけると、エルネストは困ったような顔を見せた。
「当然起きてるよ。ここまで騒ぎになって、不満が起きない方がおかしい。イルメラ嬢の件で、公爵はかなり激怒して王宮にまで乗り込んで来たくらいだ。そのことで他の貴族もここぞとばかりに苦情を伝えてきた。そこで父上が取ったのは、姉上を隣国の王子に嫁がせるという決断だったんだ」
「……そう、だったんだ」
「姉上の悪事は隣国にも伝わっていて、大抵の国は理由を付けて断ってきた。まあ、当然だよな。あんな害悪しか無い人間、誰だって傍に起きたくはないだろう」
「…………」
エルネストの侮蔑を込めた言葉から、心底ミレーユの事を嫌っているのが伝わってくる。
ある意味一番振り回されているのは彼なのかも知れない。
いつも尻拭いをさせられて、監視をするように命じられて。
「フェリシアは知っているのか分からないけど、姉上と婚約するはずだった隣国の第三王子。かなり癖のある人間だと噂が囁かれていたようだけど、あれは婚約を回避するために隣国が流したデマだ」
「……は?」
「それ程嫌だったってことだ。こちらから解消したいと申し出た時、即日無条件で受け入れたからな。あの国は元々我が国に借りがあって、仕方なく第三王子を差し出したんだろう」
(そんな理由があったんだ……)
隣国にまで知られる程の悪名って、私が思っている以上にミレーユは危険人物なのかもしれない。
ロジェはそんなミレーユと婚約なんてして大丈夫なのだろうか。
不意に頭の中にロジェの顔が思い浮かび、心配になってしまう。
ロジェのことは許せないと思った時期もあったけど、もう終わったことだ。
今の話を聞いて、私の中で一つ大きな不安が増えた。
もしこのままエルネストとの婚約が正式に決まってしまえば、陛下と顔を合わす機会も多くなるだろう。
こんなことを容認している人間を、好きになんてなれるはずがない。
それに認めたくもない。
(やっぱり私、エルネスト様とは婚約なんて出来ないよ……)
「……どうして?」
衝撃的な話を聞いてしまい、私の顔は強ばっていた。
「原因は他でもない姉上だよ。不祥事の殆どは、大抵あの人絡みのことだから」
「……っ」
今の話を聞いて、不意に噂話を思い出した。
以前イリアは、ミレーユとイルメラの仲は最悪だと話していた。
エルデン家と言えば有力貴族の中のひとつであり、王家であっても敵には回したくない相手なはずだ。
イルメラに手を出せば、厄介なことになることくらい容易に想像出来たはずなのに。
(それとも、何か別の理由があったのかな……)
ミレーユは以前、私とロジェが仲が良い姿を見ただけで機嫌を損ねたと話していた。
そんな一時の感情で動くような人間だ。
ミレーユにとっては、周りの事情なんて関係ないのだろう。
ただ己の心が満足出来れば、他人を傷つけても、不快にさせても一切気にならない。
そんな風に思うと、思わず顔を引き攣らせてしまう。
「呆れるよな。あの人は後先考えずに、自分の感情だけで行動する。周りがどうなろうとお構いなしだ。不祥事を起こしても、父上が守ってくれると思っている。実際そうだからな。数日の謹慎で大体済まされる」
「なんか、それってすごくずるいですね」
今の私の表情には、嫌悪感が混じっているかもしれない。
「全くな。私がいくら陛下に進言しても、まともに取り合ってはくれない。姉上の前で少し厳しい態度を見せれば、反省すると思っているようだが。あれは……、姉上ではなく、私を黙らせるための演技だったのかもしれないな」
「…………」
エルネストの話を聞いていると、陛下に対しての不信感が更に増していく。
以前エルネストは、自分は陛下の信頼を得ていると私に話してくれたことがあった。
あれは私を安心させるために、言ってくれた嘘だったのかもしれない。
(エルネスト様もすごく苦労しているんだ……)
「あのっ、ところでイルメラ様は王女殿下に何をされたんですか?」
「そのことだが、詳細は私も聞かされてはいないんだ。だけどそのことがきっかけで学園に来なくなったのは間違いなさそうだ」
「じゃあ留学っていうのは……」
「暫く王都から離れて、落ち着いた生活を送らせたかったのだろうな。ここにいる限り、嫌な記憶を思い起こしてしまうから」
今の話を聞いていると、私よりもイルメラの方が酷い目に遭っていたように聞こえてきてしまう。
一体何をされたのだろう。
一番悪いのはミレーユであることには間違いないが、国王が下した身内への処分の甘さが、全ての原因に繋がっている気がしてならない。
何をしても許されると思い込み、更にミレーユの行動はエスカレートする。
そして王族であるミレーユには誰も意見を言えない。
家族を守りたいという気持ちは分からなくも無い。
辛い処罰を下すのは、心苦しいことだとも思う。
一度目なら百歩譲って理解出来たとしても、ミレーユは一切反省する様子など無く、同じ事を何度も繰り返している。
そして悪いことだという認識を一切持っていない。
そこに問題があるのだと思う。
(エルネスト様は何度も訴えているのに、その言葉を聞かないなんて……。それって分かっているのに、知らんぷりしてるってことだよね)
そんなことを考えていると、次第にひしひしと怒りが込み上げてくる。
私は掌をぎゅっと握りしめ、その怒りを拳に閉じ込めようとした。
だけど言わずにはいられなくなり、口を開いてしまう。
「……許せません。王女殿下も、何もしない陛下も」
私は不敬に当たるような発言をしている。
しかも隣にいるのは王家の人間だ。
だけどあまりにも理不尽すぎて、我慢することが出来なかった。
「そうだな。フェリシアの意見に同意だ。一番の悪は父上だと私も感じている。あの姉上をずっと野放しにしていたせいで、多くの人間を巻き込んで混乱を生ませている。本来、国を束ねる者の筈なのに、これでは本末転倒だ」
エルネストの厳しい発言に「ははっ」と乾いた笑みが溢れてしまう。
だけど王族の中にもまともな意見を持った者がいるのだと知り、少しほっとしていた。
「王女殿下の事をずっと容認し続けて、貴族の中で反発とか起こらなかったんですか?」
私が問いかけると、エルネストは困ったような顔を見せた。
「当然起きてるよ。ここまで騒ぎになって、不満が起きない方がおかしい。イルメラ嬢の件で、公爵はかなり激怒して王宮にまで乗り込んで来たくらいだ。そのことで他の貴族もここぞとばかりに苦情を伝えてきた。そこで父上が取ったのは、姉上を隣国の王子に嫁がせるという決断だったんだ」
「……そう、だったんだ」
「姉上の悪事は隣国にも伝わっていて、大抵の国は理由を付けて断ってきた。まあ、当然だよな。あんな害悪しか無い人間、誰だって傍に起きたくはないだろう」
「…………」
エルネストの侮蔑を込めた言葉から、心底ミレーユの事を嫌っているのが伝わってくる。
ある意味一番振り回されているのは彼なのかも知れない。
いつも尻拭いをさせられて、監視をするように命じられて。
「フェリシアは知っているのか分からないけど、姉上と婚約するはずだった隣国の第三王子。かなり癖のある人間だと噂が囁かれていたようだけど、あれは婚約を回避するために隣国が流したデマだ」
「……は?」
「それ程嫌だったってことだ。こちらから解消したいと申し出た時、即日無条件で受け入れたからな。あの国は元々我が国に借りがあって、仕方なく第三王子を差し出したんだろう」
(そんな理由があったんだ……)
隣国にまで知られる程の悪名って、私が思っている以上にミレーユは危険人物なのかもしれない。
ロジェはそんなミレーユと婚約なんてして大丈夫なのだろうか。
不意に頭の中にロジェの顔が思い浮かび、心配になってしまう。
ロジェのことは許せないと思った時期もあったけど、もう終わったことだ。
今の話を聞いて、私の中で一つ大きな不安が増えた。
もしこのままエルネストとの婚約が正式に決まってしまえば、陛下と顔を合わす機会も多くなるだろう。
こんなことを容認している人間を、好きになんてなれるはずがない。
それに認めたくもない。
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