私の婚約者を奪おうとしないでくださいっ!【R18】

Rila

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第二章:私の心を掻き乱さないでくださいっ!

66.王家への不信感②

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一度不安を持ってしまうと、次第にそれは膨らんでいく。
今はまだミレーユは王宮内に閉じ込められているが、いつ外に出てくるかも分からない。
ロジェと婚約が決まれば、野に放たれ再び自由を手にさせてしまうことになる。
そうなれば同じことを繰り返すはずだ。

(今回の事で、私……王女殿下に恨まれているのかも。それにエルネスト様も。報復なんてされたりしないかな……。どうしようっ!)

「ごめん、不安にさせるような話だったよな」
「……っ」

こういった場合、嘘でも『大丈夫』と答えた方がいいのかもしれない。
だけど色々な感情が渦巻いてしまい、すぐには言葉が出て来なかった。
エルネストは震えている私の手をぎゅっと握ってくれているので、今の私の心情は伝わっているのかもしれない。
彼の体温を感じているせいか、この手に守って貰っているようで少しだけ安心感を持つことが出来た。

(私の傍にはエルネスト様がいてくれる)

不安はあるけど、この手を離したくはない。
矛盾した感情ではあるけど、どちらとも私の本当の気持ちだ。

「私はフェリシアにそんな顔ばかりさせているな」
「それは……」

「今、大丈夫なんて言葉を伝えても気休め程度にしかならないことは分かっている。だけど、いつか必ず全ての不安を取り除くから。どうかその日まで、一緒に戦って欲しい」
「……え?」

エルネストの言葉に耳を疑った。
待っていて欲しいではなく、一緒に戦って欲しいと聞こえた。
私は驚いた顔でエルネストを見つめた。

「戦うって聞こえたのですが……聞き間違え?」
「聞き間違えでは無いよ。今の君の顔を見ていたら考えが変わった。待たせているだけでは、更なる不安を与えるだけだと気付いたからな」

(え?一体何を言っているの?)

エルネストが何を考えているのか全くわからなくて、私は困惑した表情を窺わせていた。

「ここで話を戻すけど、エルデン家は王家を恨んでいる。娘を傷付けた姉上に怒りを向けるのは、親として当然な感情だろう。それ以上に、いくら抗議をしても一切考えを改めようとしない陛下に対しての不満の方が強いようだ」
「私も、公爵家に同情してしまいます」

「誰が聞いても納得出来る話では無いからな。姉上の行動はあまりにも常軌を逸している。既に貴族からも多くの苦情が出ているし、意見すら言えない平民の中にも同じような考えを持った者は少なからずいるはずだ。不満が増せば、この国の未来への不安へと繋がっていく。それが膨らみ過ぎたらどうなると思う?」
「えっと、爆発……、反発が起こる?」

「正解だ。この国に住んでいる者からしたら他人ごとではない問題だ。いつ自分が被害者になるかもしれない。最初は姉上の問題だけだったが、他のことにも飛び火して様々な不満が出始めているのも事実だ。このままだといずれ収集が付かなくなり、悪い事が起こるかもしれない。その前に陛下を王座から引きずり下ろそうという者達が出てきたら。それを率いる者が有力貴族達だったら、どうなると思う?」

エルネストの話を聞いて、全身に鳥肌が走る。
今彼は有力貴族達と言った。
それは一つの貴族ではなく、複数を指している言い方だ。
こんなにも詳細に話すという事は、既にそういった事態になっているのではないかと感じてしまう。

「ごめん。フェリシアを怖がらせたくて話しているわけではないんだ。そのことだけは分かって欲しい」
「……はい。何か、とんでもないことが起こるのでしょうか?」

「察しが良いね。いくら説得しても考えを改めようとしない以上、行動を起こさなくては変えられないからね。実は今回、フェリシアに同行することを決めたのは、エルデン公爵に会いに行く口実を作りたかったからなんだ。その為に君を利用してしまい、悪かったと思っている。ごめん」
「……っ」

少し戸惑ってしまったが、特に怒りの感情は生まれなかった。
先程の話に圧倒させられていて、感情が少し麻痺してしまっているのかもしれない。
そして、どこかほっとしている。
イルメラとの対立がなくなったからなのだろう。

「だけど、私が君を好きだという気持ちは本当だ。イルメラ嬢に君が利用されるのは気に入らなかった」
「エルネスト様だって、私のことを利用しようとしたくせにっ」

私が思わず鋭い突っ込みを入れてしまうと、エルネストは困った顔をしていた。

「先程の話は、イルメラ様もご存知なんですか?」
「いや、彼女は何も知らないはずだ。公爵は何も話さないまま、イルメラ嬢をどこかの子息に娶らせようとしていたからな。出来れば早く隣国に逃がしたいのだろう。留学もそれが絡んでいたと聞いている。向こうで気に入る子息がいれば、すぐにでも婚約を進めようと考えていたようだからな」

「でも、イルメラ様が好きなのって……」

私は戸惑った顔でエルネストを見つめていた。
彼女が慕っているのは恐らくエルネストだ。
そして彼自身もその気持ちに気付いているのだろう。

「何故彼女が私に心を向けているのか、正直分からない」
「ええ!?」

困った顔を見せるエルネストに、私は思わず声を上げてしまう。

「なんだ、その顔は」
「だって……、ずっと近い距離にいたんですよね?」

(エルネスト様って案外鈍感だったりするのかな……)

「確かにお茶会やパーティーなどで見かけることはあったが、個人的にそれ程深く関わったことはないぞ」
「そうなんですか?」

「昔のイルメラ嬢は内気なところがあったから、学園で見かけた時、私の知る人物とは随分と変わっていて驚いたことはあったが」
「昔は内気だったんだ。今は全然そんな感じしませんね」

私がそんなことを呟いていると、エルネストがじっと私のことを見つめていることに気付き、ドキッとした。

「今日彼女の前で、私がフェリシアに求婚した話をしようと考えいる」
「は……?」

「諦めて貰うには一番手っ取り早い」
「なんで、急にそんな話になるのですかっ!」

「フェリシアはまだ婚約を認めてくれないから、婚約者だとは言えないからな」
「それはそうですが……」

いきなりそんなことを言われて、私はかなり戸惑っていた。

「密談も聞いてしまった以上、それくらいは協力して貰わないと」
「うっ……、私誰にも言いませんっ!」

(戦うってそういう意味だったの!?)

エルネストの口角が僅かに上がる。
私は焦った様子で咄嗟に答えた。

「ああ、そうしてくれ。そうでないと関係ない者まで巻き込むことになってしまう」
「……っ」

(嵌められた……!)

エルネストが腹黒いことを私は忘れていた。
だけど、こんな大変な話、私なんかに話してしまって良かったのだろうか。
裏を返せば、私のことを信頼してくれていると言うことにはならないか。
そんなことを勝手に考えていると、私の心は急にドキドキしてきてしまう。

「安心して。フェリシアを危険なことに巻き込んだりはしないよ」
「でもさっき一緒に戦うって」

「私のことを、信じていて欲しいという意味合いもある。昨日キスを受け入れてくれ時、フェリシアの心は私に向いていると思ったんだけど、あれは私の勝手な自惚れだったか?」
「ち、違いますっ、あれは……」

エルネストの自惚れなんかでは無い。
私が彼に惹かれているのは本当のことで、キスをされた時、心が通じあったような気がして嬉しかった。
誤解されたくなくて、私は必死になって否定していた。

「あれは?」
「……受け入れたのは私です。あの時、嫌ではなかったし」

急に恥ずかしくなって来て顔を俯かせてしまう。
それからすぐに「フェリシア、顔を上げて」と言われ、私は素直に従った。
すると目の前にエルネストの顔があり、碧い瞳に心を射貫かれる。
次の瞬間には、唇に何かが押し当てられていた。
昨日感じたあの柔らかい感覚だった。

「……っ」

触れたのは一瞬だけ。
エルネストは唇を剥がすとそのまま私のことを優しく抱きしめてくれた。

「卑怯な真似をしていることは分かっている。こんなことをしたら、フェリシアが私のことを嫌いになるかも知れないということも……」

エルネストの声はどこか弱々しく聞こえた。
普段と違う雰囲気に、私は少し戸惑ってしまう。

「だけど、そうなことをしてでも私はフェリシアのことが欲しい。君だけは絶対に諦めたくないんだ」

エルネストの言葉を聞いて、私は手を彼の背中に回し、ぎゅっと抱きしめていた。
離したくないという感情は、私の中にもあった。

今の話から察するに、エルネストは大きな行動に出ようとしていることは間違いない。
恐らく、その中心的位置に彼はいる。
それは大それた行動であり、失敗すれば彼であっても無事では済まない筈だ。

もしエルネストに何かあったら、と思うと怖くて堪らない。
だから私はこんなにも強く、彼を抱き留めているのだろう。
離れないで、という思いを込めて。




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感想 127

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みんなの感想(127件)

fioretta7
2023.02.11 fioretta7

主人公がロジェのことを見限ってエルネストのことを受け入れるのが早くて、なんだか気持ち的についていけないのです。エルネストもいまひとつ魅力を感じられなくて・・・。
ほわわーんとしていても実は芯の強い子で、ロジェを渡さない!って王女とやり合う感じのヒロイン像が好きなので。
ロジェは自業自得ではあるのですが、いろんな悪意に囲まれて、ほんとに気の毒に思ってしまいます。

解除
のあーる
2023.01.30 のあーる

タイトルについて、他の方がロジェがシア(婚約者)を奪わないでっていうようにも見えるって感想を書かれていて、なるほどなぁ。と思っていたら今度はイルメラもエルネスト(婚約者候補)を奪わないでって状態になってきていて、相関図が入り組んだ感じになっていますね。恋愛ものでありつつ様々な思惑が入り乱れてサスペンス的で続きが気になります。

解除
nico
2023.01.30 nico

あれ?意外とロジェとイルメラいい感じ?
打倒!悪女!!
共闘してるうちに…💗
主人公よりイルメラいいんでない(笑)

解除

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