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第一章

玄関で。

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[郁三side]

 親睦会で、同じ学部の人たちと海の近くでBBQをすることになった。こんなイベントに参加できる自分が、東京での生活に馴染めていると実感でき浮かれていたのだ。だが結局、多数の悲恋話を聞くはめになった。そして当たり前に、BBQの途中で具合が悪くなり、河津くんに「ごめん。先に帰る」と声をかけ、トボトボ歩いて駅へと向かった。
 どうにかマンションへ辿り着き、リビングのソファに横になる。すぐに吉野が出てきて助けてくれると思った。でも部屋はシンとしたままで、何の物音もしない。気分の悪さが我慢できずに吉野の部屋をノックする。「吉野?吉野いますか?」と問いかけながら。買い物にでも行ったのだろうか。ドアノブを回してみたが鍵が掛かっていた。
 再びソファに戻りぐったりと横になる。身体の中に入り込んだ鬱々としたものを、早く身体から追い払いたかった。だからジーンズを脱いで靴下を脱いで、タオルケットをかぶって、下着の中に手を入れる。吉野がしてくれる動作を思い出しながら、自分の陰茎を上下にしごいた。元々性欲が皆無だった僕は中学の時も、高校の時も、自慰をしたことがなかった。正確にいえば、何度か挑戦したが、成功したことがなかった。勃つのだが上手く出せないのだ。結局そんな日は夢精をしてしまい、朝方こっそりと下着を洗っていた。もう大学生だし、吉野にしてもらえば上手く出せるし、彼を真似て触れば自分でもできるはずだ。硬く大きくなった陰茎からは、先走りだって滲んでいる。しかし、出せない。苦しい。気分が悪い。代わりだと言うようにポロポロと涙が溢れ落ちた。

 ガチャリと玄関ドアが開く音がした。ドサっドサっと荷物を置く音も聞こえる。吉野だ。吉野が帰ってきた。自慰が上手くできずに泣いている姿を見られたくなくて、とにかく涙を拭った。下着の前を膨らませたまま、玄関へ行く。
「よしの、くるしい、たすけて、よしの」
 縋るように駆け寄ってしまう。吉野はいつものタキシードではなく、ごく普通のオリーブ色のチノパンに薄手の白いニット姿だ。
「郁三さま?大丈夫ですか?すみません。お帰りはもう少し遅いと伺っていましたので、出掛けておりました」
 そう言いながら、まだ靴も脱いでないのに僕を抱き寄せてくれる。そして玄関先にしゃがんで膝をついて、僕の下着をスルッと下ろしてくれた。
「ご自分でしてみたのですか?」
「でも、でも、上手くできなくて……」
 吉野は躊躇いもせず、俺のモノを咥えてくれた。ここが玄関だなんて、まるで関係ないかのように。吉野の熱い口の中のねっとりとした湿度が気持ちよく「ひゃっ」と身体が震える。右手は根元を、左手はTシャツの中に入ってきて乳首を弄った。
「はぁはぁ」と息が乱れ、吉野の肩に手を置いてしがみつく。口の中で浅く深くと出し入れされれば、どんどんと欲望が高まっていく。
「よしの、ちくびやめて……触ら、ないで」
 止めては、くれない。
「へん、へんだから、ねぇ触らないで……」
 止めるどころか突起をコリコリと摘まむように弄られ、甘い痺れが身体中に走る。
「やっ」
 裏筋を舐められ、先端の割れ目を舌で突かれ、長い指が包み込むようにしごいてくれて。足がガクガクとし、吉野の肩に置いていた指に力が入ってしまう。
「んっ、きもち、いい。あっ、よしの、よしの、あっ、もう、もう、で、でちゃうっ!」
 口の中に出すまいと腰を引いたのに、吉野がしっかりと根元を握っていたから、そのまま吐精してしまった。残滓までも舐めとってくれ、吉野は僕から手を離し靴を脱ぎ洗面所に行く。水が流れ出ている音が聴こえた。僕はまだ玄関に敷かれたラグの上で、下半身を露わにしたまま丸まっているのに。

 吉野が玄関に戻ってきた。まだ丸まっている僕に「両手をあげてください」と言うから、素直に従ってバンザイをした。簡単にTシャツを脱がされ真っ裸にされ、ヒョイっとお姫様抱っこで抱き上げられる。
「え?吉野?」
「BBQと伺っていましたので、風呂の支度をしてあります。どうぞお入りください」
 抱っこで風呂場まで連れていかれ「ごゆっくり」とドアを閉められた。
 入浴剤の入った湯にボーと浸かっているとドアが軽くノックされ、吉野が顔を出す。そして「洗って差し上げますよ」と返事を待たず入ってきた。さっきのニット姿から、いつものタキシードに着替えが済んでいる。また濡れてしまうだろうに、ズボンの裾を捲り、腕まくりしたシャツにベストを羽織った姿で「さぁ、湯船から出てください」と僕を急かす。湯から上がりシャワーの前に座れば、髪と身体を洗ってくれた。背後から触られる手つきに感じてしまい、さっき出したばかりのくせに、僕の陰茎は形を変える……。吉野の手が股間に伸びてきた。泡だらけの手で擦ってくれる。吉野のシャツもズボンも、また濡れてしまう。
「立ってこちらを向いてください」
 また咥えてもらえるのだと、期待してしまった。
「右足を湯船の縁に乗せて」
 僕は指示されるままに動いてしまう。泡だらけの長い指で気持ち良くなるよう、しごいてくれると思ったから。なのに、その手はもっと後ろの孔を触り始める。
「え?吉野?」
「大丈夫ですから」
 耳元に口を寄せ、そう囁かれた。後孔の入れ口を撫でるように吉野の指が這う。
「え?やだ、そんなとこ、あっ」
 中指が僕の中に入り込んできた。痛くはないが異物感を強く感じ「ぐっ」と呻く。中指は第二関節まで中に入ってきた。そして周りの壁を触るかのようにゆっくりと蠢く。そんな汚いところを触らないでと思うのに、なぜか酷く興奮した。「よ、よしの」呼吸を乱している吉野に話しかける。
「……こ」
 はっきり聴こえなかったが、吉野は誰かの名を呼んだ後、急に我に返ったような顔をした。そして中指を後孔にいれたまま、反対の手で僕の陰茎を強く激しく乱暴にしごいた。
「んぁっ」
 僕はあっけなく、風呂場のタイルに白濁を飛ばしてしまう。吉野は僕の身体にくまなくシャワーをかけ、泡を洗い流してくれた。
「はい、おしまいです。先に出てください」
 ドアを開け脱衣所へと僕を追い出す。用意されていたバスタオルを肩にかけ包まってもなお、脱衣所に立ち尽くしてしまう。風呂場からは吉野が濡れたシャツやズボンを脱ぐ音が聴こえたから。僕はそのまま聴き耳を立てる。だから、吉野が息を荒くして「ぁっ」と小さく声を溢しながら自慰する音を聞いてしまった。「はぁはぁ」という息遣いも、グチュグチュという音も「んっ」と達した呻き声も、白濁がベチャと床に落ちた音までも、全部聞いてしまった。
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