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しおりを挟む「彼女は、生け贄にしないのかい?」
猫は、自身の顔を手で擦りながら自分のご主人に問う。
ヒールは、リサに人間が来たことが、初めてだと伝えたが、それは嘘だった。村では、森へ行った娘や息子が消えていくという噂がたっている。
「そうだね、今は分からないかな」
ヒールは、リサのおやすみの言葉を思い出し、微笑む。寝る挨拶をしてくれた人間は、初めてだった。
「ご主人様が、分からないと言うなんて珍しいこともあるのね」
「そうだね、でも僕は彼女が作ったご飯を食べたいと思ってしまったんだ」
「そう、本来の目的を忘れないようにね」
「分かってるよ」
ヒールは、猫の言葉を理解したと言うようにゆっくりと猫の首を撫でる。猫は、気持ち良さそうにご主人様に体を託し、瞼を閉じる。
「ねえ、リリー、家族って何なんだろうね」
ヒールは、リリーを撫でたまま天井を見上げる。
ヒールの母親は、魔女だった。森の奥にひっそりと住み、時々訪ねてくる村人に薬を分け与えて生活していた。そして、その村人の1人の男に恋をして僕を産んだ。
しかし、その男には婚約者がいた。母親は、不倫相手だったのだ。
母親は、最初はその男の婚約者を呪った。自分の愛する人を奪った女を。僕の髪の毛を媒体にして、母親は、婚約者を呪った。その時の反動だろうか、僕は歩けないような体と白く赤い瞳を持つようになった。
母親は、婚約者を呪い殺すことに成功をした。そして、その男が自分の元に戻ってくると信じていた。
しかし、男が母親の元に帰ることはなかった。
そして、母親は、僕に虐待をするようになった。
「気持ち悪い」
母親は、僕の容姿を見てそう呟いた。屋敷を気まぐれに訪ねてくる村人達もそうだった。僕を見た瞬間震え上がり逃げ出すのだ。
だから、僕は彼女に驚いた。
「病気って言ってたけどそんなにひどいの?」
「今みたいに少し咳きが出たり、体に力が入らないだけだよ。大したことじゃない」
「それは、大したことだわ、普通に心配よ」
心配してくれるのは、君だけだったから。
「一時的に、寒さを感じなくなる魔法だから安心して。掃除をしてくれたお礼だから」
「本当だわ! 暖かくなった。ありがとうヒール。そして、おやすみなさい」
おやすみと言ってくれたのは、初めてだったから。
だから、きっとだから……。
本当は、彼女を村へ帰したくなかった。ずっと屋敷に閉じ込めてしまいたかった。魔法で雨を降りつつけさせることは簡単にできた。でも。
「しょうがないわね、明日村に帰って何か食べ物を作って持ってくるわ。嫌いな物とか好きな物とかあるかしら?」
「特にはないかな、そもそもクッキー以外食べてこなかったからね」
「分かったわ。いくつか作って持ってくる」
彼女の料理を食べるには、彼女の村へ帰さなければならない。ヒールは、仕方なく明日天気が晴れる呪文を呟いた。
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