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第十二話 レイン視点・聖女は、王国にお怒りの様子です
しおりを挟むレイン視点で一度3週目の話が出てきていますが、それよりも2,3日前の時間帯、2週間目の途中の話になります。
**********************
「おはよう」
聖女はそういって朝食の席に着いた。侍女と、護衛として誰かが術師が数人いるのだが、教会内での食事の時は、だいたいは私も傍にいた。
昼食は、他の研究室から出てきた術師たちと共に食堂で聖女も食べられるが、どうも朝の時間帯はあまり人と会話したくないらしく、静かにこうやって客室で食べることにしていた。
ところで、驚いたことに聖女は最初から口に入れるものに関しては、解毒の魔法をしっかりかけていた。
「いただきます」
どうやら食べ物や料理に関わった人に感謝を示す、神の世界での挨拶だそうだが、両手を合わせて詠唱することで、見事に聖魔法をかけていた。一応、銀食器も使っているが、あの強力な聖魔法には呪いさえはじかれるだろう。
初日から見事に魔法をかけていたからこそ、「魔法?!んなもんがあるのか」と言われた時にはズッコケそうになった。
「レイン、ちょっと食べる前に頼んでもいいか?」
「はい。どうしたのですか?」
ちなみに、私は護衛として勤めているため、一緒にはお食事をしない。代わりに、テーブルマナーチェックをしている。昼食時の食堂の時は、聖女の頼みでやめているが。
「昨日話になっていた巫女ともし会話ができるなら、してみたい。取次ぎをお願いできるだろうか?」
「どんなに急いで面会申し込みをすると1か月以上かかります。重要なのですか?」
「そんなにか。なら、できれば、議会での挨拶の前に、どんな伝言を神から授かったのか確認したかったのだが」
確かに重要な頼みだろう。巫女がいる教会の体制は、ずいぶん古くからあるため、どこまで柔軟に対応してくれるかはあまり自信がなかった。だが、聖女が急いでいるとなれば、動いてくれる可能性もないとは言えない。
「かしこまりました。至急、巫女たちの方へ連絡をしてみますが、あまり期待をしないでください」
私はそういうと、メモに走り書きをしてサインをし、侍女の一人にドビュに渡すように頼む。あいつなら、うまいこと調整してくれるだろう。ホッチポッチにこき使われているところ、仕事を増やして申し訳ないが。
それからは、いつも通り食事が始まり、サヤが新聞記事を読み上げていた。聖女は料理ばかりに目をやっているが、聞いていないわけではないらしく、時々、疑問を口にはさむこともある。
しかし、ちょっと今朝はちがった。
「オコメランド王国議会、増税の来年実施を明日可決の見通し...」
バンッ
ビクッと新聞から顔をあげたサヤが目を見張り、私も同じくテーブル叩いた聖女を見た。
「おい、なんだって? もう一度言ってくれ」
絶世の美女で間違いであろう聖女が、低い声でうなった。てっきり戦いには素人だと思っていたが、聖女は殺気を放っていた。あまりの威圧感と突然の出来事のあまりサヤは、息をするのを忘れて、読み上げることができない。
「聖女様、増税を来年実施すると議会が明日可決するそうです」
代わりに自分が、サヤと聖女の間に割って入った。おそらく、無意識に放たれた殺気をもろに浴びたサヤには、酷だと感じたからだ。
「レイン、議会に抗議書を提出し、同時にメディアにもその抗議書を送ったことを通達しろ」
「...どのような抗議書を送ればよろしいでしょうか?」
なぜ、そのようなことを聖女が望むのか、頭を回転させながら、少なくとも聖女の望みを聞き出す。
「まず、聖女が増税に反対であり、今回の増税は民の生活を全く考えておらず、教会の聖女は議会の決定を許さないことを明確に一文目に書け」
「教会の顔として言うのですね?」
念のために聞く。つまり、聖女は、今自ら教会の代表者として立とうとしていることを意味した。これまでは、保護される立場であり、守られるだけだった。しかし、組織の矢面に立とうとされている。
「ああ。国と対立しても、教会は大丈夫か?」
「大丈夫とは、ちょっと今の状況だと言えないですかね。本格に対立するまでには、今のままではマズいです。それに、教会の顔として言われると、教会内も一枚岩ではないので、もめるかもしれません」
「そうか。なら教会の顔ではなく、俺個人が反対していると書け。それなら、すぐにできるな?」
「かしこまりました。しかし、どうしてそこまで反対され、それを行動として示すのか、お伺いしてっも宜しいでしょうか?」
別に政治家の仕事であり、議会の仕事であるのに、わざわざ聖女は口を挟んだ。聖女は巡錫で数多くの軌跡と呼ばれるような聖魔法を街ごとかけてきたが、それだけではないつもりらしい。
「反対の理由か。一言で言えば、気に食わないからだ。増税なんかしたら、金が動かなくなって貧しくなるだろ!」
聖女は、ブスッとフォークをマッシュポテトに突き立てた。
「二文目以降には、『君は船なり。民は水なり』、この意味をわからないんだったら、政治家として他人の上に立つな。また血税を民からいただけると思うな。この国をこれ以上貧しくするな。これは警告であり、増税を強行するんだったら、俺が呪ってやる。とでも、書いて送れ」
「聖女様、お怒りなのはわかりました。丁寧にしたためておきますね」
そんな乱暴な口調で書けるわけないだろ、と私は内心毒づく。聖女がお怒りなのはごもっともだし、そうやって民のために怒ってくださるのは、嬉しいのだが。そんなヤバい手紙、誰が書きたいと思うだろうか。これも、ドビュに投げようかな...。
「ああ、そうしておいてくれ」
「それと、聖女様。朝食の時は、テーブルマナーを守る約束ですよ」
「......」
マッシュポテトからフォークを抜いた聖女は、チッと舌打ちした。せっかくの美貌なのに、品としては台無しだ。最近わかってきたが、そう、聖女は色眼鏡なく見れば、思いやりはあるのにとにかく口が悪い。
「にしても『君は船なり。民は水なり』とは、どんな意味なのですか?」
聞いたことのない諺だが、おそらく、この世界に来る前の神の世界にいたときに使っていた言葉だろう。
「君主は、船である。船は、たしかに水の上にある。しかし、一度水が荒れ狂えば、船はひっくり返ってしまう。そういう例えだ。民に氾濫されれば、君主もひっくり返るという警告だ」
もう穏やかな表情に戻った聖女は、きれいな所作で朝食の続きを食べ始めた。こうやって喋らなければ、文句のつけようのない完璧なる美女だろう。
私もう一度戻ってきた侍女にメモを渡して、再度ドビュの下へお使いに走らせる。後で、ドビュの困り顔が思い浮かんだが、でもまぁ、仕事は手を抜かずにこなしてくれるだろう。
ちなみに、翌日ドビュは目が血走り隈を目の周りにつくって現れることになった。
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