偽装婚約〜それでも私は幸せになる

maruko

文字の大きさ
6 / 45

6

 ライラは中途半端な時間に眠りについたものだから、当然の事ながら中途半端な時間に目が覚めた。
 時計を見ると午後11時
 これっていつもなら夢の中を漂う時間だ。
 もぞもぞと起き上がる。
 ベッドのシーツの上に寝ていたから、寒いし服は皺くちゃだし。オマケに起き上がった途端にグゥとお腹が鳴った。

「はぁ~失恋してもお腹は空くんだ」

 そう思った途端昼間の屈辱を思い出した。

「あっ!」

 ライラは父に伯爵の事を聞くのだったと、時計を見ながら父はまだ起きてるかなと皺くちゃな服のまま部屋を出た。

 そこで吃驚!

 ジルが部屋を出た扉の横で座り込んだままうつらうつらと首を前に揺らしながら眠っていた。

「ジル!」

 咄嗟に肩を揺らしてライラはジルを起こした。

「はわっ⋯あっ!お嬢様。申し訳ありません、ついうっかり」

「ずっとここにいたの?」

 ジルなら有り得ると思ってライラが聞くとジルは誤魔化すように「いえいえ」と手を振りながら否定した。でも絶対にジルはここでライラから声がかかるのを忠実に待ってくれていたのだとライラは確信している。
 ジルは子供の時からそういう子だった。
 自分こそそんな事を知っていたのについうっかり忘れてしまっていた。
 実にげに恐ろしきは失恋なりだ。

「ごめんねジル、もう部屋に戻って休んで。お腹も空いたでしょう?」

「それはお嬢様もですよね。何か用意して来ます」

「ありがとう、でもちょっとお父様に話があるの、だから先に食べてて。時間が掛かると思うから。付いてこなくていいからね」

 ライラはそう言ってジルの手を握ってそのまま立たせた。

 父の執務室に行くと中から話し声が微かに聞こえた。ノックをすると「誰だ」と父の声がする。

「お父様、ライラです。急ぎのお話があるの」

「ライラ?」

 ガタッと中から音がして少し間が空いて扉が開いた。父自ら扉を開けてくれたようだ。

「どうしたんだ?今日は夕食にも下りてこなかったと聞いたぞ。具合でも悪いのかと思ったがメアリーとジルが大丈夫というから」

 父は心配そうにライラの顔を覗き込みながら肩に手を置いて言った、メアリーはライラの母の名だ。

「入ってもいい?」

「あぁどうぞ、何だ急ぎの話って。明日では駄目なのか?」

「そう⋯だめなの」

 中に入ると家令のドットとメイド長のミリーが居た。

「二人もいたのね」

 中に入るとライラはそのままソファに座った。
 気を利かせてミリーがお茶を淹れてくれる。空腹のライラには有難かった、お茶の温かさが身体に染みる。
 父が机の上の書類などを纒めたのか、何かをドットに渡してからライラの向かいに腰掛けた。

「どうしたんだ」

 ライラは二人の使用人が気にはなったが、おそらく知っているだろうと思いきって父に訊ねた。

「お父様、私にルクルト伯爵家から縁談があるって本当ですか?」

「お前っ何故それを!熱っ!」

 父はライラの言葉に動揺してカップを自分のひざに落としてしまった。暫くバタバタとミリーやドットが慌てて片付けたりしていたが、落ち着いた頃を見計らってもう一度訊ねると、父は縁談がある事を認めた。

「そうですか」

「今何とか断ろうとしているんだ、心配せずとも私に任せておけばいい」

「お断りするのですか?」

「当たり前だろ!私よりも年上の男に如何してお前を嫁がせなきゃならないんだ!常識的に考えて有り得ない!」

「でも伯爵様ですよね」

「ウッ!⋯⋯いや、でも、何とかするから」

 父はライラに只管何とかすると繰り返していたが、ライラは厳しいのだろうと思った。
 普通に考えてもこの身分社会で、貴族からの縁談を年の差だけで断るなんて出来るはずがない。
 よっぽど大きな商会なら大きなつてもあり断れるかもしれないが、父の営むハッセル商会は中の中ちゅうのちゅう。小さくはないがかと言って大きいわけでもない。
 儲かってはいるが大金持ちではない、そんなところだった。

「お父様、私にもつてがあります。だから私の為に無理しないで」

「⋯⋯ライラ」

 ライラは父がライラの為に貴族に反感を買って大切にしてきた商会を手放す方が辛かった。
 兎に角、レオの言った言葉が本当だと分かったのだ。

 ライラは取り敢えずお嬢様に会ってみようと思った。






あなたにおすすめの小説

報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜

矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』 彼はいつだって誠実な婚約者だった。 嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。 『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』 『……分かりました、ロイド様』 私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。 結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。 なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。

【完結】ご安心を、2度とその手を求める事はありません

ポチ
恋愛
大好きな婚約者様。 ‘’愛してる‘’ その言葉私の宝物だった。例え貴方の気持ちが私から離れたとしても。お飾りの妻になるかもしれないとしても・・・ それでも、私は貴方を想っていたい。 独り過ごす刻もそれだけで幸せを感じられた。たった一つの希望

拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】 僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。 ※他サイトでも投稿中

もうあなた達を愛する心はありません

佐藤 美奈
恋愛
セラフィーナ・リヒテンベルクは、公爵家の長女として王立学園の寮で生活している。ある午後、届いた手紙が彼女の世界を揺るがす。 差出人は兄ジョージで、内容は母イリスが兄の妻エレーヌをいびっているというものだった。最初は信じられなかったが、手紙の中で兄は母の嫉妬に苦しむエレーヌを心配し、セラフィーナに助けを求めていた。 理知的で優しい公爵夫人の母が信じられなかったが、兄の必死な頼みに胸が痛む。 セラフィーナは、一年ぶりに実家に帰ると、母が物置に閉じ込められていた。幸せだった家族の日常が壊れていく。魔法やファンタジー異世界系は、途中からあるかもしれません。

どう見ても貴方はもう一人の幼馴染が好きなので別れてください

ルイス
恋愛
レレイとアルカは伯爵令嬢であり幼馴染だった。同じく伯爵令息のクローヴィスも幼馴染だ。 やがてレレイとクローヴィスが婚約し幸せを手に入れるはずだったが…… クローヴィスは理想の婚約者に憧れを抱いており、何かともう一人の幼馴染のアルカと、婚約者になったはずのレレイを比べるのだった。 さらにはアルカの方を優先していくなど、明らかにおかしな事態になっていく。 どう見てもクローヴィスはアルカの方が好きになっている……そう感じたレレイは、彼との婚約解消を申し出た。 婚約解消は無事に果たされ悲しみを持ちながらもレレイは前へ進んでいくことを決心した。 その後、国一番の美男子で性格、剣術も最高とされる公爵令息に求婚されることになり……彼女は別の幸せの一歩を刻んでいく。 しかし、クローヴィスが急にレレイを溺愛してくるのだった。アルカとの仲も上手く行かなかったようで、真実の愛とか言っているけれど……怪しさ満点だ。ひたすらに女々しいクローヴィス……レレイは冷たい視線を送るのだった。 「あなたとはもう終わったんですよ? いつまでも、キスが出来ると思っていませんか?」

【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます

衿乃 光希@書籍が発売されます
恋愛
卒業パーティーの最中、婚約者から突然婚約破棄を告げられたシェリーヌ。 婚約者の心を留めておけないような娘はいらないと、養父からも不要と言われる。 シェリーヌは16年過ごした国を出る。 生まれた時からの側近アランと一緒に・・・。 第18回恋愛小説大賞エントリーしましたので、第2部を執筆中です。 第2部祖国から手紙が届き、養父の体調がすぐれないことを知らされる。迷いながらも一時戻ってきたシェリーヌ。見舞った翌日、養父は天に召された。葬儀後、貴族の死去が相次いでいるという不穏な噂を耳にする。恋愛小説大賞は51位で終了しました。皆さま、投票ありがとうございました。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

君に愛は囁けない

しーしび
恋愛
姉が亡くなり、かつて姉の婚約者だったジルベールと婚約したセシル。 彼は社交界で引く手数多の美しい青年で、令嬢たちはこぞって彼に夢中。 愛らしいと噂の公爵令嬢だって彼への好意を隠そうとはしない。 けれど、彼はセシルに愛を囁く事はない。 セシルも彼に愛を囁けない。 だから、セシルは決めた。 ***** ※ゆるゆる設定 ※誤字脱字を何故か見つけられない病なので、ご容赦ください。努力はします。 ※日本語の勘違いもよくあります。方言もよく分かっていない田舎っぺです。