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2 馬鹿娘と馬鹿息子
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その日グランバス伯爵家は家中が大騒ぎになった。
伯爵と伯爵夫人が一晩所用で家を開け、その決定を告げるため娘の部屋に行くと軟禁していた筈の娘が居なくなっていた。
使用人も総出で屋敷中を探し回っていると、そこへ呑気に嫡男がニヤけた顔で帰宅した。
「お前は!どこに行っていたんだ!ハッシュを見張っていろと言っただろう」
「え~何だよ帰ったそうそう」
「ハッシュが居ないんだ、このばかもーーん」
伯爵の拳が嫡男にクリーンヒット、そのまま壁に激突した。頬を押さえて涙目の嫡男は怯えながらも怒鳴る。
「なっ何だよ!出かけるなとは言わなかったじゃないか」
その屁理屈に伯爵はギリギリと歯軋りした。
(まさかこいつもあの娘に骨抜きなのか?)
信じていなかった話が脳裏に湧いて伯爵は息子に確かめた。
「お前、何処に行っていたんだ?まさかスロワン侯爵家ではあるまいな?」
「まさか!行くわけないじゃないか」
だが言葉とは裏腹に瞳が完全に泳いでいる。これはクロだ!確信した伯爵は娘が抜け出した執務室の、自身の椅子に腰掛け思いっきり背凭れに体を預け天井を見上げた。
グランバス伯爵家には18年前男女の双子が産まれた。
姉のハッシュ弟のサッシュ二人とも手塩にかけて育て上げたつもりだった。
それがここに来てハッシュに問題が起きた、それなのにサッシュまで。
伯爵は、育て方が悪かったのかと、天井を見上げたままで頭を左右に振って片手を目に当てて嘆いた。
それは1週間前の事だった。
二人の学園の卒業式、その日伯爵は領地に赴いていて妻が参列していた。
その日答辞を読むのはハッシュの婚約者、マーモン侯爵家のルイス。その賛辞を侯爵に後日言わなければならない為、しっかりと内容を把握して置かなければならない。
本来なら夫婦揃って行く予定だったが領地で問題が起きて伯爵は帰宅が間に合わなかったのだ。
卒業式から妻は体毎突進するように帰宅したとその夜帰宅した伯爵に執事が報告した。
実は何があったかは帰る途中で妻からの早馬で報せは入っていた。
なんとルイスは壇上からハッシュに婚約破棄を突きつけたと言うではないか!
ルイスは子供の頃から眉目秀麗、頭脳明晰、物腰の柔らかな令息で、王子ではないのに物語の王子の様だと不敬宛らに貴族令嬢達の注目の的だった。
そんなルイスが選んだのがハッシュだった。
国内でも裕福なマーモン侯爵家からの申し込み、伯爵が浮かれてしまうのは無理もない話だった。
ハッシュには嬉しいだろうと娘の気持ちなど聞きもせず、何があってもルイスに逆らうなと言い含めてきた。
二人が学園の2学年になって長い間療養していたというスロワン侯爵家の娘が編入してきて、世話係になったと聞いた。それから暫くしてからハッシュはルイスと婚約を解消してくれと懇願するようになった。
理由はその侯爵家の令嬢アルディオーレとルイスが友人の距離感ではないと言う。
かと言って何か間違いでもあったのかと伯爵が聞くとそれは解らないなどと曖昧なハッシュ。
それでは侯爵家に話も持っていけない。
サッシュに聞いても別段不適切でもないと言っていたから、ハッシュにはもう少し様子を見ろと伯爵は言い含めておいた。
それがここに来て婚約破棄騒動だ。
だが卒業式の次の日の夜、顔を腫らしたルイスと憮然としたマーモン侯爵が揃って態々我が家にやってきて、婚約破棄は間違いだったと訂正をして謝罪してくれた。折角婚約続行になったにも関わらず肝心のハッシュが嫌がる。それから伯爵は反省するまで部屋でおとなしくしていろと言いつけた。
(どうしてだ?
婚約破棄は訂正されたから夏には結婚式だ
貴族の婚姻は家と家との結びつきだとあれ程口酸っぱく教えこんでいたのに、まぁ婚約のキッカケはルイスが選んだからと政略とは当て嵌らぬが、その後はグランバスとマーモンで共同事業を立ち上げたからもう今更婚約が無かった事には出来ない。
どれ程の損害かわかっているのか?
ハッシュが嫌と言っても嫁がせるつもりだったのに、あの馬鹿娘!
それとこの、目の前に転がってる役立たずの馬鹿息子!
ハッシュの言ったことはどうやら本当だったようだ。小奴もあの娘に陥落されてるのか?早々に喝を入れねばならん。
それにしても幾ら侯爵令嬢でもアルディオーレはいただけない。
これ以上馬鹿息子が嵌まらぬように手綱を握れとサッシュの婚約者に進言せねばな)
伯爵は只管己の考えのみで突き進んでいく。
伯爵と伯爵夫人が一晩所用で家を開け、その決定を告げるため娘の部屋に行くと軟禁していた筈の娘が居なくなっていた。
使用人も総出で屋敷中を探し回っていると、そこへ呑気に嫡男がニヤけた顔で帰宅した。
「お前は!どこに行っていたんだ!ハッシュを見張っていろと言っただろう」
「え~何だよ帰ったそうそう」
「ハッシュが居ないんだ、このばかもーーん」
伯爵の拳が嫡男にクリーンヒット、そのまま壁に激突した。頬を押さえて涙目の嫡男は怯えながらも怒鳴る。
「なっ何だよ!出かけるなとは言わなかったじゃないか」
その屁理屈に伯爵はギリギリと歯軋りした。
(まさかこいつもあの娘に骨抜きなのか?)
信じていなかった話が脳裏に湧いて伯爵は息子に確かめた。
「お前、何処に行っていたんだ?まさかスロワン侯爵家ではあるまいな?」
「まさか!行くわけないじゃないか」
だが言葉とは裏腹に瞳が完全に泳いでいる。これはクロだ!確信した伯爵は娘が抜け出した執務室の、自身の椅子に腰掛け思いっきり背凭れに体を預け天井を見上げた。
グランバス伯爵家には18年前男女の双子が産まれた。
姉のハッシュ弟のサッシュ二人とも手塩にかけて育て上げたつもりだった。
それがここに来てハッシュに問題が起きた、それなのにサッシュまで。
伯爵は、育て方が悪かったのかと、天井を見上げたままで頭を左右に振って片手を目に当てて嘆いた。
それは1週間前の事だった。
二人の学園の卒業式、その日伯爵は領地に赴いていて妻が参列していた。
その日答辞を読むのはハッシュの婚約者、マーモン侯爵家のルイス。その賛辞を侯爵に後日言わなければならない為、しっかりと内容を把握して置かなければならない。
本来なら夫婦揃って行く予定だったが領地で問題が起きて伯爵は帰宅が間に合わなかったのだ。
卒業式から妻は体毎突進するように帰宅したとその夜帰宅した伯爵に執事が報告した。
実は何があったかは帰る途中で妻からの早馬で報せは入っていた。
なんとルイスは壇上からハッシュに婚約破棄を突きつけたと言うではないか!
ルイスは子供の頃から眉目秀麗、頭脳明晰、物腰の柔らかな令息で、王子ではないのに物語の王子の様だと不敬宛らに貴族令嬢達の注目の的だった。
そんなルイスが選んだのがハッシュだった。
国内でも裕福なマーモン侯爵家からの申し込み、伯爵が浮かれてしまうのは無理もない話だった。
ハッシュには嬉しいだろうと娘の気持ちなど聞きもせず、何があってもルイスに逆らうなと言い含めてきた。
二人が学園の2学年になって長い間療養していたというスロワン侯爵家の娘が編入してきて、世話係になったと聞いた。それから暫くしてからハッシュはルイスと婚約を解消してくれと懇願するようになった。
理由はその侯爵家の令嬢アルディオーレとルイスが友人の距離感ではないと言う。
かと言って何か間違いでもあったのかと伯爵が聞くとそれは解らないなどと曖昧なハッシュ。
それでは侯爵家に話も持っていけない。
サッシュに聞いても別段不適切でもないと言っていたから、ハッシュにはもう少し様子を見ろと伯爵は言い含めておいた。
それがここに来て婚約破棄騒動だ。
だが卒業式の次の日の夜、顔を腫らしたルイスと憮然としたマーモン侯爵が揃って態々我が家にやってきて、婚約破棄は間違いだったと訂正をして謝罪してくれた。折角婚約続行になったにも関わらず肝心のハッシュが嫌がる。それから伯爵は反省するまで部屋でおとなしくしていろと言いつけた。
(どうしてだ?
婚約破棄は訂正されたから夏には結婚式だ
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どれ程の損害かわかっているのか?
ハッシュが嫌と言っても嫁がせるつもりだったのに、あの馬鹿娘!
それとこの、目の前に転がってる役立たずの馬鹿息子!
ハッシュの言ったことはどうやら本当だったようだ。小奴もあの娘に陥落されてるのか?早々に喝を入れねばならん。
それにしても幾ら侯爵令嬢でもアルディオーレはいただけない。
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