屑の婚約者が嫌で家出したら幸せになりました

maruko

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4 私がヒロインでいいじゃない!

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 アルディオーレ・スロワンは転生者であった。
 しかし前世から少しばかり考えの足らない女で逆ハー大好きバッチコーイの性格であった。

 彼女が前世を思い出したのは御歳5歳の頃である。
 スロワン家の庭を侍女に付き添われお散歩満喫中に、そこに設えた人口の池、いつの間にか住み着いた蛙がぴょんと飛び出てアルディオーレの顔に張り付いた。

「ギャー」

 貴族の子女とは思えぬ声で叫んだと共に流れ込む前世の記憶。目の奥に星がチカチカ光る感覚でその記憶は現れた。
 そして気づいたのがここはラノベの世界で、自身はその物語内のモブであるという事だった。

 アルディオーレは許せなかった、どうして私がモブなのよ!

 最初に思った感想がそれであった。

 このラノベのヒロインはアルディオーレの侍女だ。彼女はアルディオーレが10歳の時にスロワン侯爵家にやって来る、そしてアルディオーレの専属になるのだが、兎に角彼女は聡く10歳とは思えない美貌の持ち主で、仕事面でも段々と頭角を表し、スロワン侯爵が気に入り全面的にバックアップをして平民ながら学園に入学するのだ。そして数多の攻略対象者とキャッキャッウフフと学園生活を満喫する。アルディオーレの登場は小説内でも寂しいものだった。最初の登場シーンはヒロインの子供の頃の回想で、セリフは「お前今日からよろしくね」だったし、次の登場シーンは、同じ年のヒロインが攻略対象者と学園の掲示板に張り出されたテストの順位を見るシーン。攻略対象者が1位、ヒロインは2位という結果「あ~負けちゃったぁ、でも次は頑張る!」とヒロインが言ったあと「お嬢様は何位かしら?」とそう言って張り出された後方を見る。掲示板には優秀者20名しか載らないので、アルディオーレは漏れてしまった。それに絶望するアルディオーレの横顔を見てヒロインが「まぁお嬢様顔色が悪いわ、大丈夫ですか?」と声をかけ「大丈夫よ、お前2位なんて凄いわね。主の私も鼻が高いわ」って言う。

 ⋯⋯⋯⋯2つのセリフのみの登場。
 このラノベを前世で読んだ時アルディオーレが思ったのは「この人侯爵令嬢なのに侍女に負けるの?ダサッ!」

 だった。そのダサい女に生まれ変わるって何だそりゃ~~~~と一晩中吠えた。

 因みにラノベ内ではヒロインは転生者で、その世界が乙女ゲームの中だと気付いて自身が幸せになる為に頑張るっていうあらすじなのだが、ヒーローとヒロインの名をアルディオーレは、ど忘れしてしまった。
 何故かモブの自分のセリフは忘れていないのに。
 中途半端な記憶だが、アルディオーレは思う。前世の記憶があるならば自分がヒロインでもいいんじゃない?

 幸いにしてラノベ内で説明のあったゲームの攻略対象者の、親の職業は何となく覚えていた、あくまでも何となくだ。
 だったら学園に入ればなんとかなるかもしれない!
 その為には父親にヒロインのバックアップをさせてはならない!
 ヒロインが転生者なのか、そうでないかはわからないが即ご退場願おう。そう思って10歳まで過ごしてきた。

 往々にしてヒロインが馬鹿では駄目だと思いアルディオーレは勉学にも励んだし、マナーなども必死に会得した。

 そしてやってきました10歳の誕生日の翌日、到頭ヒロインが現れた。アルディオーレは態と異常なほどに彼女を嫌がり屋敷から追い出すことには成功した。だがここで大きな誤算。
 普段、教養面でも貴族の子女としても申し分なく育ったアルディオーレの、侍女を追い出す様の突然の奇行。それにスロワン侯爵と侯爵夫人は慄き、悪魔が取り憑いたのでは?と考え領地療養を決定してしまいアルディオーレは領地へと強制的に行かされた。ヒロインも退場したがモブの自分も退場する事になった。
 誤解だ、何処も悪くないと訴えたが信じてもらえず実に6年も領地に追いやられ、学園入学に間に合わなかった。
 それでも領地で落ち込み大人しくしていたアルディオーレを侯爵は悪魔憑きが治ったと判断して、王都に迎えてくれた。
 遅ればせながら入った学園、アルディオーレはそれまでの遅れを取り戻すべく攻略対象者の接触は手段を選ばなかった。

 なりふり構わずあっちこっち手を付けまくったら、元々モブのアルディオーレなのに簡単に攻略されてくれる男達。
 アルディオーレは笑いが止まらなかった。

 だが、小説の中にそんなシーンはなかったはずなのに、モブのアルディオーレがヒロインの様に掻き回したからなのか予想外のことが起こる。

 攻略対象者のルイス・マーモンが卒業式で断罪をぶちかました。だが断罪と言っても中途半端でしかもまだルイスが話してる途中で、お相手のハッシュ・グランバスは「承知致しました」と言って退場してしまった。

 その夜は本来なら卒業パーティーがあったのに、一連のルイスのやらかしでアルディオーレは名が出てしまい(ルイスが自分の最愛だと名前を出した)参加できなかった。

 気を取り直して自分に堕ちた男達を次の日集めて家で大騒ぎのパーティーをした翌日。

 父親に呼ばれ修道院に入れると宣言されてしまった。

「お前は悪魔が憑いていたのだな」

 ボソッと呟く父の声。
 違う違う!とアルディオーレは否定して、正直に前世の話をしてみたが、大きな溜息を吐かれて、両腕を侯爵家の騎士に掴まれ馬車に乗せられた。引き摺られながら父の執務室を出る時に、父が執事に耳打ちしているのが見えた。

「助けてよ、私は幸せになる為に頑張ったのよ。それがだっただけじゃない」

 馬車の中で祈るアルディオーレ。
 到着して降ろされたのは修道院ではなく病院だった。
 そこで隔離され、アルディオーレが外に出られたのは彼女が50歳になった年であった。
 病気が治ったと判断されたわけではなく、父親が亡くなって入院措置費を払えなくなった為であった。





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