4 / 61
4
マイナが話を聞くと、元洗濯メイドのサミルは勢い良く自分の要望を述べたそうだ。
「マリウス様の子だというので、叩き出そうと思いましたが、このまま放置していいものでもないと思い、マリウス様宛に手紙を書かせました。差出人を私にすればオリビア様が対処してくださると思い送りました。サミルには少しお金を渡して帰しましたが監視を付けております」
「そう、ありがとう。助かったわ」
オリビアはマイナからリバーへと視線を移すと、彼は手帳を開いて報告を始めた。
「マリウス様の従者に聞き取りをしております。彼には今、カセラ伯爵家へと報告に向かわせました。どうやら出会いはご学友がきっかけのようです」
マリウスの従者への聞き取りをリバーは細かく書き留めていた。
今から1年半前、オリビアの叔父からマリウスはかなりの嫌味を毎日のように言われていたという。それが子供ができない件だった。
この叔父はオリビアの父、ユリウスの異父弟だ。少しややこしい家系になるが、オリビアの祖父と祖母は従姉の間柄で結婚したのだが、父が生まれてすぐに離縁している。その祖母が生家に帰り婿を迎え、生まれたのがその異父弟になる。
マリウスに出会う前にも散々自分の息子を婿にしろと言われていたオリビアは、血の濃さを理由に断っていた。
そのせいでおそらくマリウスに辛く当たっていたのだろう。何とかフォローしているつもりだったが甘かったようだ。
マリウスは昨年まで文官として王宮で勤めていたから、その時に関わりがあったのだと知った。
「マリウス様はご友人の知り合いの医者に頼んで、ご自身の体を調べようとしたそうです。ですが調べる子種をなかなか出せずに、その時にたまたま居合わせたメイドとあれこれ手伝ってもらってるうちにそういう事になったようです」
「⋯そういう事って」
オリビアは呆れてしまったが、きっかけが叔父というのが何とも歯がゆく、それ以上は言葉が出なかった。それからリバーに目線で先を促した。
「その一度で身篭ったらしいと従者は言っております。その事をマリウス様も従者もすっかり忘れていた頃に、この家でその女が働いていた事に従者は驚いたそうです」
「ちょっと待って、では体の関係があった後に、そのサミルという人はここで働き始めたの?」
「オリビア様、それは違います」
マイナがリバーへの質問を代わりに答えた。マイナが言うにはサミルは辞めるまで1年は働いていた。
そこで初めてオリビアはマリウスの浮気自体が何やら怪しいものに思えてきた。
その表情でリバーが察したのだろう、続きというより纏めを話してくれた。
「オリビア様おわかりでしょうか?マリウス様の浮気のきっかけは仕組まれたもののようです。初めからマリウス様に近づいて子種を受けたのでしょう。ですがその一度で身ごもった女をマリウス様は捨て置けなかったようですし、それと⋯自分に子種があった事をとても喜んでいたそうです」
「!」
オリビアはその報告は聞きたくなかった。
胸がギュウっと鷲掴みにされたように感じた。
どうやらその後、マリウスはその女の為に家を用意して、産婆の手配もしたらしい。
その後三日に一度はその家に通っていたのだと聞かされた。
そうして半年前、男の子が生まれたのだという。
今回マリウスは領地の冬籠りの為に、サミルに纏まったお金を渡していた。だが彼女はマリウスが長期で来ないことを失念していて貰ったお金を使い切ったらしい。
お金がなくなり二ヶ月待ってもマリウスが来なかった為、侯爵家にお金の無心にやって来たという。
冬籠りの期間は約三ヶ月だった。
渡された大金を彼女は一ヶ月で使い切った計算になる。一体幾らのお金を渡したのだろうか?
オリビアが帳簿を開こうと立ち上がると、リバーがメモを渡してきた。
マリウスが彼女への手当として渡していたのは、侯爵家のお金ではあるがマリウスの予算からの捻出のようだった。
「愛する人」
「「えっ?」」
オリビアの呟きにマイナとリバーが聞き返した。
「マリウスは彼女を愛する人だと言っていたわ」
「「⋯⋯⋯」」
オリビアの言葉に二人はどう返していいか分からずにいた。二人もまたユリウスの事を知っているからだ。
「リバー、取り敢えず書類だけは準備しておいてくれる?まだマリウスから話を聞いていないの。話し合う前にいなくなってしまったから」
「オリビア様、居場所は分かります」
リバーの言葉にオリビアは首を横に振る。
マリウスは近いうちに帰ってくると確信していたからだ。
わざわざ連れ戻そうとは思わないし、行く気もなかった。
報告を聞いたオリビアはただ虚しく惨めな気持ちが募るばかりだった。
たとえ出会いがお粗末ながらも仕組まれたものだとしても、その過程で一度であっても体の関係になったのに、マリウスにはオリビアに対して罪悪感はなかったのだろうか?
健康のためにと言って毎朝散歩をしていたマリウス。そんな彼の為にオリビアは料理長に頼んで食事も特別なものを用意してもらっていた。それなのにそれが愛人に会いに行く為の方便だったなんて思わなかった。
真面目なマリウスが嘘をつくはずないなんてただの思い込みだった。
そんなマリウスのどこに誠実さがあるのだろう?
叔父から嫌味を言われていたのは何もマリウスだけではない。
オリビアは親戚や家門の者たちから、結婚して半年後くらいからずっと言われ続けてきた。
特に最近はマリウスを追い出そうとする者達を諫めてもいた。
それらの全てに耐えていたのはオリビアがマリウスを愛していたからだ。
その全てが無駄な事だったのだと知った。
今オリビアは無性に母に会いたくなった。
「マリウス様の子だというので、叩き出そうと思いましたが、このまま放置していいものでもないと思い、マリウス様宛に手紙を書かせました。差出人を私にすればオリビア様が対処してくださると思い送りました。サミルには少しお金を渡して帰しましたが監視を付けております」
「そう、ありがとう。助かったわ」
オリビアはマイナからリバーへと視線を移すと、彼は手帳を開いて報告を始めた。
「マリウス様の従者に聞き取りをしております。彼には今、カセラ伯爵家へと報告に向かわせました。どうやら出会いはご学友がきっかけのようです」
マリウスの従者への聞き取りをリバーは細かく書き留めていた。
今から1年半前、オリビアの叔父からマリウスはかなりの嫌味を毎日のように言われていたという。それが子供ができない件だった。
この叔父はオリビアの父、ユリウスの異父弟だ。少しややこしい家系になるが、オリビアの祖父と祖母は従姉の間柄で結婚したのだが、父が生まれてすぐに離縁している。その祖母が生家に帰り婿を迎え、生まれたのがその異父弟になる。
マリウスに出会う前にも散々自分の息子を婿にしろと言われていたオリビアは、血の濃さを理由に断っていた。
そのせいでおそらくマリウスに辛く当たっていたのだろう。何とかフォローしているつもりだったが甘かったようだ。
マリウスは昨年まで文官として王宮で勤めていたから、その時に関わりがあったのだと知った。
「マリウス様はご友人の知り合いの医者に頼んで、ご自身の体を調べようとしたそうです。ですが調べる子種をなかなか出せずに、その時にたまたま居合わせたメイドとあれこれ手伝ってもらってるうちにそういう事になったようです」
「⋯そういう事って」
オリビアは呆れてしまったが、きっかけが叔父というのが何とも歯がゆく、それ以上は言葉が出なかった。それからリバーに目線で先を促した。
「その一度で身篭ったらしいと従者は言っております。その事をマリウス様も従者もすっかり忘れていた頃に、この家でその女が働いていた事に従者は驚いたそうです」
「ちょっと待って、では体の関係があった後に、そのサミルという人はここで働き始めたの?」
「オリビア様、それは違います」
マイナがリバーへの質問を代わりに答えた。マイナが言うにはサミルは辞めるまで1年は働いていた。
そこで初めてオリビアはマリウスの浮気自体が何やら怪しいものに思えてきた。
その表情でリバーが察したのだろう、続きというより纏めを話してくれた。
「オリビア様おわかりでしょうか?マリウス様の浮気のきっかけは仕組まれたもののようです。初めからマリウス様に近づいて子種を受けたのでしょう。ですがその一度で身ごもった女をマリウス様は捨て置けなかったようですし、それと⋯自分に子種があった事をとても喜んでいたそうです」
「!」
オリビアはその報告は聞きたくなかった。
胸がギュウっと鷲掴みにされたように感じた。
どうやらその後、マリウスはその女の為に家を用意して、産婆の手配もしたらしい。
その後三日に一度はその家に通っていたのだと聞かされた。
そうして半年前、男の子が生まれたのだという。
今回マリウスは領地の冬籠りの為に、サミルに纏まったお金を渡していた。だが彼女はマリウスが長期で来ないことを失念していて貰ったお金を使い切ったらしい。
お金がなくなり二ヶ月待ってもマリウスが来なかった為、侯爵家にお金の無心にやって来たという。
冬籠りの期間は約三ヶ月だった。
渡された大金を彼女は一ヶ月で使い切った計算になる。一体幾らのお金を渡したのだろうか?
オリビアが帳簿を開こうと立ち上がると、リバーがメモを渡してきた。
マリウスが彼女への手当として渡していたのは、侯爵家のお金ではあるがマリウスの予算からの捻出のようだった。
「愛する人」
「「えっ?」」
オリビアの呟きにマイナとリバーが聞き返した。
「マリウスは彼女を愛する人だと言っていたわ」
「「⋯⋯⋯」」
オリビアの言葉に二人はどう返していいか分からずにいた。二人もまたユリウスの事を知っているからだ。
「リバー、取り敢えず書類だけは準備しておいてくれる?まだマリウスから話を聞いていないの。話し合う前にいなくなってしまったから」
「オリビア様、居場所は分かります」
リバーの言葉にオリビアは首を横に振る。
マリウスは近いうちに帰ってくると確信していたからだ。
わざわざ連れ戻そうとは思わないし、行く気もなかった。
報告を聞いたオリビアはただ虚しく惨めな気持ちが募るばかりだった。
たとえ出会いがお粗末ながらも仕組まれたものだとしても、その過程で一度であっても体の関係になったのに、マリウスにはオリビアに対して罪悪感はなかったのだろうか?
健康のためにと言って毎朝散歩をしていたマリウス。そんな彼の為にオリビアは料理長に頼んで食事も特別なものを用意してもらっていた。それなのにそれが愛人に会いに行く為の方便だったなんて思わなかった。
真面目なマリウスが嘘をつくはずないなんてただの思い込みだった。
そんなマリウスのどこに誠実さがあるのだろう?
叔父から嫌味を言われていたのは何もマリウスだけではない。
オリビアは親戚や家門の者たちから、結婚して半年後くらいからずっと言われ続けてきた。
特に最近はマリウスを追い出そうとする者達を諫めてもいた。
それらの全てに耐えていたのはオリビアがマリウスを愛していたからだ。
その全てが無駄な事だったのだと知った。
今オリビアは無性に母に会いたくなった。
あなたにおすすめの小説
旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?
白雲八鈴
恋愛
我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。
離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?
あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。
私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?
〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。
藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」
憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。
彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。
すごく幸せでした……あの日までは。
結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。
それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。
そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった……
もう耐える事は出来ません。
旦那様、私はあなたのせいで死にます。
だから、後悔しながら生きてください。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全15話で完結になります。
この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。
感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。
たくさんの感想ありがとうございます。
次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。
このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。
良かったら読んでください。
願いの代償
らがまふぃん
恋愛
誰も彼もが軽視する。婚約者に家族までも。
公爵家に生まれ、王太子の婚約者となっても、誰からも認められることのないメルナーゼ・カーマイン。
唐突に思う。
どうして頑張っているのか。
どうして生きていたいのか。
もう、いいのではないだろうか。
メルナーゼが生を諦めたとき、世界の運命が決まった。
*ご都合主義です。わかりづらいなどありましたらすみません。笑って読んでくださいませ。本編15話で完結です。番外編を数話、気まぐれに投稿します。よろしくお願いいたします。
※ありがたいことにHOTランキング入りいたしました。たくさんの方の目に触れる機会に感謝です。本編は終了しましたが、番外編も投稿予定ですので、気長にお付き合いくださると嬉しいです。たくさんのお気に入り登録、しおり、エール、いいねをありがとうございます。R7.1/31
*らがまふぃん活動三周年周年記念として、R7.11/4に一話お届けいたします。楽しく活動させていただき、ありがとうございます。
裏切りの先にあるもの
マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。
結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。
愛は全てを解決しない
火野村志紀
恋愛
デセルバート男爵セザールは当主として重圧から逃れるために、愛する女性の手を取った。妻子や多くの使用人を残して。
それから十年後、セザールは自国に戻ってきた。高い地位に就いた彼は罪滅ぼしのため、妻子たちを援助しようと思ったのだ。
しかしデセルバート家は既に没落していた。
※なろう様にも投稿中。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。