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マイナが話を聞くと、元洗濯メイドのサミルは勢い良く自分の要望を述べたそうだ。
「マリウス様の子だというので、叩き出そうと思いましたが、このまま放置していいものでもないと思い、マリウス様宛に手紙を書かせました。差出人を私にすればオリビア様が対処してくださると思い送りました。サミルには少しお金を渡して帰しましたが監視を付けております」
「そう、ありがとう。助かったわ」
オリビアはマイナからリバーへと視線を移すと、彼は手帳を開いて報告を始めた。
「マリウス様の従者に聞き取りをしております。彼には今、カセラ伯爵家へと報告に向かわせました。どうやら出会いはご学友がきっかけのようです」
マリウスの従者への聞き取りをリバーは細かく書き留めていた。
今から1年半前、オリビアの叔父からマリウスはかなりの嫌味を毎日のように言われていたという。それが子供ができない件だった。
この叔父はオリビアの父、ユリウスの異父弟だ。少しややこしい家系になるが、オリビアの祖父と祖母は従姉の間柄で結婚したのだが、父が生まれてすぐに離縁している。その祖母が生家に帰り婿を迎え、生まれたのがその異父弟になる。
マリウスに出会う前にも散々自分の息子を婿にしろと言われていたオリビアは、血の濃さを理由に断っていた。
そのせいでおそらくマリウスに辛く当たっていたのだろう。何とかフォローしているつもりだったが甘かったようだ。
マリウスは昨年まで文官として王宮で勤めていたから、その時に関わりがあったのだと知った。
「マリウス様はご友人の知り合いの医者に頼んで、ご自身の体を調べようとしたそうです。ですが調べる子種をなかなか出せずに、その時にたまたま居合わせたメイドとあれこれ手伝ってもらってるうちにそういう事になったようです」
「⋯そういう事って」
オリビアは呆れてしまったが、きっかけが叔父というのが何とも歯がゆく、それ以上は言葉が出なかった。それからリバーに目線で先を促した。
「その一度で身篭ったらしいと従者は言っております。その事をマリウス様も従者もすっかり忘れていた頃に、この家でその女が働いていた事に従者は驚いたそうです」
「ちょっと待って、では体の関係があった後に、そのサミルという人はここで働き始めたの?」
「オリビア様、それは違います」
マイナがリバーへの質問を代わりに答えた。マイナが言うにはサミルは辞めるまで1年は働いていた。
そこで初めてオリビアはマリウスの浮気自体が何やら怪しいものに思えてきた。
その表情でリバーが察したのだろう、続きというより纏めを話してくれた。
「オリビア様おわかりでしょうか?マリウス様の浮気のきっかけは仕組まれたもののようです。初めからマリウス様に近づいて子種を受けたのでしょう。ですがその一度で身ごもった女をマリウス様は捨て置けなかったようですし、それと⋯自分に子種があった事をとても喜んでいたそうです」
「!」
オリビアはその報告は聞きたくなかった。
胸がギュウっと鷲掴みにされたように感じた。
どうやらその後、マリウスはその女の為に家を用意して、産婆の手配もしたらしい。
その後三日に一度はその家に通っていたのだと聞かされた。
そうして半年前、男の子が生まれたのだという。
今回マリウスは領地の冬籠りの為に、サミルに纏まったお金を渡していた。だが彼女はマリウスが長期で来ないことを失念していて貰ったお金を使い切ったらしい。
お金がなくなり二ヶ月待ってもマリウスが来なかった為、侯爵家にお金の無心にやって来たという。
冬籠りの期間は約三ヶ月だった。
渡された大金を彼女は一ヶ月で使い切った計算になる。一体幾らのお金を渡したのだろうか?
オリビアが帳簿を開こうと立ち上がると、リバーがメモを渡してきた。
マリウスが彼女への手当として渡していたのは、侯爵家のお金ではあるがマリウスの予算からの捻出のようだった。
「愛する人」
「「えっ?」」
オリビアの呟きにマイナとリバーが聞き返した。
「マリウスは彼女を愛する人だと言っていたわ」
「「⋯⋯⋯」」
オリビアの言葉に二人はどう返していいか分からずにいた。二人もまたユリウスの事を知っているからだ。
「リバー、取り敢えず書類だけは準備しておいてくれる?まだマリウスから話を聞いていないの。話し合う前にいなくなってしまったから」
「オリビア様、居場所は分かります」
リバーの言葉にオリビアは首を横に振る。
マリウスは近いうちに帰ってくると確信していたからだ。
わざわざ連れ戻そうとは思わないし、行く気もなかった。
報告を聞いたオリビアはただ虚しく惨めな気持ちが募るばかりだった。
たとえ出会いがお粗末ながらも仕組まれたものだとしても、その過程で一度であっても体の関係になったのに、マリウスにはオリビアに対して罪悪感はなかったのだろうか?
健康のためにと言って毎朝散歩をしていたマリウス。そんな彼の為にオリビアは料理長に頼んで食事も特別なものを用意してもらっていた。それなのにそれが愛人に会いに行く為の方便だったなんて思わなかった。
真面目なマリウスが嘘をつくはずないなんてただの思い込みだった。
そんなマリウスのどこに誠実さがあるのだろう?
叔父から嫌味を言われていたのは何もマリウスだけではない。
オリビアは親戚や家門の者たちから、結婚して半年後くらいからずっと言われ続けてきた。
特に最近はマリウスを追い出そうとする者達を諫めてもいた。
それらの全てに耐えていたのはオリビアがマリウスを愛していたからだ。
その全てが無駄な事だったのだと知った。
今オリビアは無性に母に会いたくなった。
「マリウス様の子だというので、叩き出そうと思いましたが、このまま放置していいものでもないと思い、マリウス様宛に手紙を書かせました。差出人を私にすればオリビア様が対処してくださると思い送りました。サミルには少しお金を渡して帰しましたが監視を付けております」
「そう、ありがとう。助かったわ」
オリビアはマイナからリバーへと視線を移すと、彼は手帳を開いて報告を始めた。
「マリウス様の従者に聞き取りをしております。彼には今、カセラ伯爵家へと報告に向かわせました。どうやら出会いはご学友がきっかけのようです」
マリウスの従者への聞き取りをリバーは細かく書き留めていた。
今から1年半前、オリビアの叔父からマリウスはかなりの嫌味を毎日のように言われていたという。それが子供ができない件だった。
この叔父はオリビアの父、ユリウスの異父弟だ。少しややこしい家系になるが、オリビアの祖父と祖母は従姉の間柄で結婚したのだが、父が生まれてすぐに離縁している。その祖母が生家に帰り婿を迎え、生まれたのがその異父弟になる。
マリウスに出会う前にも散々自分の息子を婿にしろと言われていたオリビアは、血の濃さを理由に断っていた。
そのせいでおそらくマリウスに辛く当たっていたのだろう。何とかフォローしているつもりだったが甘かったようだ。
マリウスは昨年まで文官として王宮で勤めていたから、その時に関わりがあったのだと知った。
「マリウス様はご友人の知り合いの医者に頼んで、ご自身の体を調べようとしたそうです。ですが調べる子種をなかなか出せずに、その時にたまたま居合わせたメイドとあれこれ手伝ってもらってるうちにそういう事になったようです」
「⋯そういう事って」
オリビアは呆れてしまったが、きっかけが叔父というのが何とも歯がゆく、それ以上は言葉が出なかった。それからリバーに目線で先を促した。
「その一度で身篭ったらしいと従者は言っております。その事をマリウス様も従者もすっかり忘れていた頃に、この家でその女が働いていた事に従者は驚いたそうです」
「ちょっと待って、では体の関係があった後に、そのサミルという人はここで働き始めたの?」
「オリビア様、それは違います」
マイナがリバーへの質問を代わりに答えた。マイナが言うにはサミルは辞めるまで1年は働いていた。
そこで初めてオリビアはマリウスの浮気自体が何やら怪しいものに思えてきた。
その表情でリバーが察したのだろう、続きというより纏めを話してくれた。
「オリビア様おわかりでしょうか?マリウス様の浮気のきっかけは仕組まれたもののようです。初めからマリウス様に近づいて子種を受けたのでしょう。ですがその一度で身ごもった女をマリウス様は捨て置けなかったようですし、それと⋯自分に子種があった事をとても喜んでいたそうです」
「!」
オリビアはその報告は聞きたくなかった。
胸がギュウっと鷲掴みにされたように感じた。
どうやらその後、マリウスはその女の為に家を用意して、産婆の手配もしたらしい。
その後三日に一度はその家に通っていたのだと聞かされた。
そうして半年前、男の子が生まれたのだという。
今回マリウスは領地の冬籠りの為に、サミルに纏まったお金を渡していた。だが彼女はマリウスが長期で来ないことを失念していて貰ったお金を使い切ったらしい。
お金がなくなり二ヶ月待ってもマリウスが来なかった為、侯爵家にお金の無心にやって来たという。
冬籠りの期間は約三ヶ月だった。
渡された大金を彼女は一ヶ月で使い切った計算になる。一体幾らのお金を渡したのだろうか?
オリビアが帳簿を開こうと立ち上がると、リバーがメモを渡してきた。
マリウスが彼女への手当として渡していたのは、侯爵家のお金ではあるがマリウスの予算からの捻出のようだった。
「愛する人」
「「えっ?」」
オリビアの呟きにマイナとリバーが聞き返した。
「マリウスは彼女を愛する人だと言っていたわ」
「「⋯⋯⋯」」
オリビアの言葉に二人はどう返していいか分からずにいた。二人もまたユリウスの事を知っているからだ。
「リバー、取り敢えず書類だけは準備しておいてくれる?まだマリウスから話を聞いていないの。話し合う前にいなくなってしまったから」
「オリビア様、居場所は分かります」
リバーの言葉にオリビアは首を横に振る。
マリウスは近いうちに帰ってくると確信していたからだ。
わざわざ連れ戻そうとは思わないし、行く気もなかった。
報告を聞いたオリビアはただ虚しく惨めな気持ちが募るばかりだった。
たとえ出会いがお粗末ながらも仕組まれたものだとしても、その過程で一度であっても体の関係になったのに、マリウスにはオリビアに対して罪悪感はなかったのだろうか?
健康のためにと言って毎朝散歩をしていたマリウス。そんな彼の為にオリビアは料理長に頼んで食事も特別なものを用意してもらっていた。それなのにそれが愛人に会いに行く為の方便だったなんて思わなかった。
真面目なマリウスが嘘をつくはずないなんてただの思い込みだった。
そんなマリウスのどこに誠実さがあるのだろう?
叔父から嫌味を言われていたのは何もマリウスだけではない。
オリビアは親戚や家門の者たちから、結婚して半年後くらいからずっと言われ続けてきた。
特に最近はマリウスを追い出そうとする者達を諫めてもいた。
それらの全てに耐えていたのはオリビアがマリウスを愛していたからだ。
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今オリビアは無性に母に会いたくなった。
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