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馴染みを失った故郷

思考をまとめるためにメモを書き散らす

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 美桜はドサリとソファに倒れ込んだ。

 過去問を解いていた時、気になることがあった。だから美桜にしては珍しく過去問を放り出し、調べ物に没頭していた。
 インターネットと聖書を駆使しての調べ物だった。聖書は幼稚園時代に景品で貰ったものだったが、長らく呼んでいなかった。7年ぶりに読むと、ふりがなの多さが目についた。

 バビロン捕囚で預言された期間は70年。ビルの言っていた予言の期間も70年。単なる偶然の一致か、必然か。
「荒廃した理由をビルは教えてくれなかった」
 美桜はブツブツ呟き始め、目をつむった。
「話してくれていた時のビルは普通に私の顔を見ていた。虫歯で苦しんでいるような表情だった。でも急に黙った時は私に背を向けた」
 美桜は瞑っていた目を開いた。
「後ろめたい何かがあるとか? 人に背を向ける時の心理は脈アリか居心地の悪さ、避けたい相手だと思っている」

 美桜は浮かぶ思考を次々と付箋に写し、机に貼り始めた。
「居心地が悪いと感じる時のパターン」
「考え方や価値観が合わない」「疲れる」「落ち着かない」
「落ち着かない時の心理は?」
「思い込みが激しい」「不安を感じている」
「ビルは口元を手で隠していた」
「嘘を隠したい」「恥ずかしい」
「嘘を隠したい心理は?」
「隠し事がある」「プライドが高い」「保身」
「プライドの高さ故に隠したいことがある?」「保身の理由はきっと浅緑と私の保護者だったから、その立場を守るため」「荒廃の理由が知られれば、ビルの立場が危うくなる何かがあった」
「荒廃した当初、ビルは11歳」「原因はビルの親、もしくは親戚?」「世間に大きな影響がある=良家の出身?」
「『ビル』は『ウィリアム(熱烈な守護者)』の愛称、もしくは略称」「名前が祖先から継いだ者である可能性」「ウィリアムという名前には王室のイメージがある」

 これ以上付箋を机に貼ることが出来なくなった時、美桜は我に帰った。冷静になってから読み直すと、荒唐無稽だ。ほとんどが憶測。こう考えると情報収集に長けている探偵ってすごい。

 明後日の方向に向かっていたような思考を現実世界に戻しながら美桜は、夜ご飯を作り始めた。太る上に健康にはあまり良くないが、ラーメンでいいかな。少し疲れた。
 お湯を沸かしている間に、冷蔵庫から玉子と刻みネギを取り出す。今夜はゆで卵じゃなくて、徳島風に生卵でいいかな。

 テケテンとスマホが鳴った。電話に出るとお父さんだった、珍しい。
「何?」
「ユーチョーブの依頼がある。浅緑 夕魅とのコラボだ」
 出演に関して私に選択肢が与えられたことはない。顔出ししないことに関しては譲らずにいるけど。
「分かった。いつ?」
「12月31日。大晦日の生放送」
「了解」と私は電話を切った。
 お湯が沸騰している。麺を鍋に入れた後、私は手帳に予定を書き込んだ。
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