探偵と助手の日常<短中編集>

藤島紫

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本日のおやつは、さつま芋パイです。

ラテの約束 2

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 傘のつゆ先が、紗川がいる場所をとらえている。そのまま振り下ろされれば間違いなく、当たる。
 唐突に滑るように傘が軌道を変えた。
 紗川が腕を傘の曲面に添わせるようにして動きを変えたせいだ。
 そして、払う。
 長い髪の先が宙に浮く。
 腰を落とした紗川が、低い位置から俊夫との距離を詰める。

「あ――」

 俊夫の傘が、水たまりに落ちた。
 雨粒さえ止まっているように感じた一瞬。
 俊夫の体が崩れた。
 紗川がオイルをたっぷりと纏ったゴム手袋を俊夫の側頭部に当てたのだ。車で確認をしたのちに、移動しながら裏表をひっくり返していたらしい。オイルで重さを得た手袋はブラックジャックとまではいかぬものの、紗川が武器とするには手ごろだったのだろう。
 のちに、軽度な脳震盪を起こさせるのに適度な重さだったのだと聞くことができたが、この時の三枝には、紗川が何をしたのか分からなかった。
 頭を大きく揺らされ、俊夫がふらつく。
 黒く長い髪が雨を纏いながら三枝の視界を覆う。まるで古い映画のフィルムの一コマ一コマのように、俊夫が崩れ落ちていく。
 長い時間のように感じたが、しかし瞬きをする程度のわずかの間の出来事。
 三枝の視界にかかっていた黒い髪の最後のひと房が消え、全てが見渡せた。
 雨の中に凛と立つ紗川からは、何ひとつ感情を見つけることができない。

 冷たいほどに、無だった。

 三枝はただ、その横顔を呆然と見上げていた。
 リボンがほどけてしまったせいで、長い髪が雨に濡れて頬に張り付いている。

「はい、はーい。ご苦労様です。まずは、傷害未遂の現行犯逮捕という事で」

 その場にそぐわない明るい声が、緊張を崩した。
 木崎が俊夫に手錠をかける。
 それと同時に、周辺から警官がばらばらと表れてきた。

「え、え……」

 三枝は全く状況が理解できず、慌てて辺りを見渡す。
 紗川が両の指先をこめかみに差し入れるようにして雨で顔に張り付いた髪を後ろに流す。
 まるでオールバックにしたかのようで、いつもよりも怖そうだった。
 しかし戸惑う三枝に向けてくる視線はいつもと変わらない。

「逃亡の恐れがある容疑者をこれだけの人数で歩かせるわけにはいかないだろう? 当直の皆さんの護衛付きだったわけだ」
「そうなんですか?」

 三枝は目を見開く。

「なあ、英司」
「うん?」
「おそらく、岸さんは軽い脳震盪を起こしていると思うんだが……僕はとっさに手に持っていたゴム手袋を投げただけだっただろう?」
「そうだねぇ。あんなものを凶器にできるようなひとは、よっぽどの古武術の達人でもない限りは無理なんじゃないかな」




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2018.9.28 改稿
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