探偵と助手の日常<短中編集>

藤島紫

文字の大きさ
8 / 89
本日のおやつは、さつま芋パイです。

お芋のドーナツ召し上がれ 2

しおりを挟む
(殺人事件ってことか?)

 ならば探偵助手としてしっかり話を聞いている必要がある。
 しかし三枝は無関心を装って動き、話の邪魔にならないよう静かにカップを置いた。立ち上がりぎわに紗川をちらりと見ると、小さく頷いる。
 これは合図だ。
 三枝は自分の椅子に腰を下ろした。

「心配しすぎだと、紗川さんは笑うかもしれませんが、私は気が気ではないんです。妻が殺されるのではないかと」

 ため息混じりに言う俊夫の顔からは、最初の明るさが消えていた。

「妻に言い寄る連中は異常です。あいつらは妻が身につけたもの、触れていたものを真っ先に欲しがる。妻を――美子を自分のものにしたいと思っているんです。これを見てください」

 俊夫はスマートフォンを操作してSNSを表示した。

「これは、うちのショップのページです。男性ユーザーと思われるリプライが複数ついています」

 三枝も身を乗り出してそれを覗いてみた。
 まるでアイドルに群がるファンのように、写真を絶賛している。

(あー……こりゃ、勘違いするな)

 ホームページで商品よりもモデル――妻の良子がメインになっている写真が多い理由が分かった気がした。
 SNSのフォロワーたちは、商品よりもモデルになっている女性を見ていたからだ。
 セクシーなポーズや、きわどいところまで見せている写真には称賛の言葉が特に多い。
 入浴剤やランタンの紹介では、美子が入浴している写真があげられているため、それが顕著だった。

「妻にはこういう写真は控えるよう言っているのですが、一向に聞き入れる様子がありません」
「彼女にしてみれば、評判がいいのになぜ辞める必要があるのか、という事でしょうからね」
「そうなんですよ。それに、店の住所を公開していますから、実際に来てしまったことも何度もあります。強引にデートに誘われたことも……」

 俊夫はため息をついた。

「妻は、女が店をやるからにはそういう客が一定数いる事は仕方がないと言っていますが、放っておいていいはずがない。脅しの言葉も『死ね』『殺すぞ』と過激ですし……」
「なるほど。それは心配です」
「紗川さん、そう思っていただけるのですね。お願いします。うちに来て妻に会っていただけませんか」
「奥様に、ですか?」

 俊夫は頷く。
 自分がいない間にどういう会話があったのかは不明だが、それにしても、家に来てくれとは唐突ではないだろうか。

「一緒に説得して欲しいんです」
「写真の撮り方について、ですか?」
「もちろんそれもありますが、警察にも行った方がいいんです。私がいない間、何があるかわかりません。今日は店が休みだから大丈夫かもしれませんが、営業日は……」
「随分急ですね」
「申し訳ない。でも何かあってからでは遅い。できるだけ早く手を打ちたいんです」
「岸さんの不安なお気持ちは分かりました。しかし、わたしで良いのでしょうか。失礼ですが知り合って間もない。それほど信頼関係が築かれているとは思えません」

 紗川はセミナーで知り合ったと言っていた。しかも昨日の話だ。
 俊夫は三枝の方を見ることなく、紗川に頭を下げた。

「縁のない人だからよかったんです。先ほどお話したとおり、妻は輸入雑貨の小さな店を経営しています。近所には快く思わない主婦も多い。ましてや外聞の悪い話なので……近くの人には聞かせたくないことだったんです」
「なるほど。赤の他人だからこその気楽さ、と言うわけですね。岸さんのご自宅はさいたま市の見沼区でしたね」

 三枝には俊夫の気持ちがわかるような気がした。
 商売をやるうえで噂話ほど厄介なものはない。

(もしかしたら……岸さんは相談相手を求めて、セミナーに参加したのかもしれないな)

 そこで紗川と出会えたのは僥倖と言えるだろう。

(安心しなよ、オジサン。うちの先生、寝起きは最悪だけと仕事は一流だからさ)

 不安そうにしている俊夫に、三枝は心の中でエールを送った。

(あ、そっか。先生が「依頼人」じゃなくて「客」って言ったのは……まだ依頼人じゃないって意味だったんじゃ……)

 俊夫が相談と言って話し始めたのは今だが、セミナーでそれをにおわせることを言っていたのではないだろうか。彼がおしゃべりなのはこの短時間でも分かった。本人は言ったつもりはなくても、口に出していた可能性がある。

「分かりました」

 紗川が頷いた。

「ご自宅に伺います。詳しい内容は、奥様も交えて改めてお話しいただけますか?」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

私の優しいお父さん

有箱
ミステリー
昔、何かがあって、目の見えなくなった私。そんな私を、お父さんは守ってくれる。 少し過保護だと思うこともあるけれど、全部、私の為なんだって。 昔、私に何があったんだろう。 お母さんは、どうしちゃったんだろう。 お父さんは教えてくれない。でも、それも私の為だって言う。 いつか、思い出す日が来るのかな。 思い出したら、私はどうなっちゃうのかな。

処理中です...