幽霊事務局長の穏やかな日常=大病院の平和は下っぱ事務員と霊が守ります=

藤島紫

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病院職員たちの昼時の日常2

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 ため息をつきつつ、パスタにフォークを絡めていると、桐生さんが綺麗な姿勢で「食品とされた命をわたしのエネルギーに換えさせていただきます」と、まるで武士のような姿勢で挨拶をしているところだった。パスタに向かって。
 ちなみに、宗教的なものではなく、幼稚園の頃に教えられて以来続けている習慣らしい。
 真面目すぎるのもここまでくると尊敬に値する。

「えーと……いただきます」

 フォークを置いて一言。
 それからもう一度食事を再開する。
 やれやれと思いながら、丁寧にパスタを絡めている桐生さんを見る。桐生さんがやっていることは決して間違いではない。いちいち面倒くさいけど。

「ところでさー」

 と、隣の桐生さんに声をかけようとしたのだが、めずらしい。桐生さんは食事の手を休め、中庭の一点を見ていた。
 真似してそっちを見てみるが、なにもない。
 いつも通り、緑が生い茂っている。
 あるいは猫でも入り込んでいるのだろうか。クロネコが病院に住み着いているらしいと聞いたことがあるが――と、目を凝らしてみると、木陰に黒い猫がいた。
 中庭は立ち入り禁止エリアだから、猫には居心地がいいのだろうが、病院に猫はいただけない。アレルギーの人もいる。
 クロネコは縁起が悪いからダメだという人もいるが、色で差別をするのは良くない。

「あのう……」

 猫を追い払いに行ったのかと納得していると、後ろから声をかけられた。
 未就学児と思われる女の子を連れた若いお母さんだ。

「はい、どうしましたか?」

 私は職員として恥ずかしくないよう、丁寧に答えた。

「病院の人ですよね」
「はい」

 うなずきながらも、内心冷や汗だくだくだ。
 職員だが、私はまだまだ下っ端なのだ。難しい質問には答えられない。
 よし。いざとなったら桐生さんに助けてもらおう。
 安心してください、奥さん。この未来の事務局長、桐生千颯君はとても優秀ですよ、はっはっは!

「失礼。一時、離席します」
「え」

 ちょっと待ってと言うより先に、桐生さんが席を離れてしまった。
 パスタは食べかけだ。なら絶対に帰ってくるはずだ。
 帰ってくるのは分かっているけど、私を一人にしないで欲しい。
 ちらりと母子を見る。
 若いお母さんは私だけを見つめている。
 いやあ、そんな熱いまなざしで見つめられると照れますなあ――などと、ウハウハできるような状況ではないことは一目瞭然だ。
 まいった。私がわかる範囲の質問であることを切に願う。

「――えっと……どうかしましたか?」

 よし、分からない時は愛嬌で乗り切ろう。
 よく言うではないか、女は度胸、男は愛嬌。
 世間様では逆かもしれないが、女性看護師が強い病院ではこちらが正しい。
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