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相談室の慌ただしい日常5
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「在宅はあたしが教えたの。こういう選択もあるよって。在宅療養を望む人は約7割、終末を迎えたいって言う人は約2割って言うデータがあるけど。実際にはほとんどの人が医療機関で療養するし、そこで亡くなるんだけど……」
「それを実現するだけの医療制度がないから仕方がないのかもしれません」
「そうね。でも、そのためのあたし――相談員でしょ」
若王子さんは優しく微笑んだ。
彼女が患者から好かれるのは、美人だから、ではない。きっと、この優しさが患者を癒すのだろう。
「看護ステーション、在宅クリニック、かかりつけ薬局……色々手配したよ。家族ともなんども話し合って、万全の体制を整えた」
「だから、先月の残業はこれまでの中で一番になってしまったのですね」
「あはは、そのせつはご心配をおかけしました。でも、頑張りが結果に直結しないことってよくあることだよね。結局、犬飼さんは何も利用しないままだった」
退院して3日目に亡くなったのなら、新しい薬の処方も必要なかっただろう。退院時に出される薬も余っていたかもしれない。
犬飼さんは、本人が望んだ通り、家族に囲まれて亡くなったのだろうか。
「あたしにできることは、あと一つのわがまま……病院の人たちに内緒にすることだけ。もちろん、調べればすぐにわかることだけど……連絡窓口として、必ずあたしを通してもらえれば、犬飼さんが死んだことを知る人は最小限で済むでしょ」
ポケットの中の折り紙のカエルが、重く感じた。
早く家に帰れますように。
そんな子供たちの願いは確かに叶ったかもしれない。
だが……犬飼さんは、もういない。
「だからね、あたしはこの秘密をずっと守るつもり。あなたたちも、うかつに言っちゃダメだからね」
優しい人だなと思う。
いや、若王子さんに限らず、相談員は皆、優しすぎる。
私は若王子さんのデスクの上を見た。
そこにはたくさんの折り紙がある。
私は、子供の字で書かれた犬飼さんの回復を願う文字と、まるで記号のような、わんわんヒーローの絵を思い出した。
そうだ。
犬飼さんはきっと、悲しませたくなかった。
自分の死を内緒にして欲しいと言ったのは、誰にも悲しんで欲しくなかったからだ。
元気になった子供たちはやがて、病院で会った年寄りのことは忘れるだろう。
そうして、元気に日々を重ねていく。
犬飼さんの願いは、みんなが幸せに生きていくことだったはずだ。
「そうだ、ところで――」
と、若王子さんが口を開いた瞬間、悲鳴が上がった。
私たちがいた職員用の相談室出入り口の反対側、患者向けのカウンターからだ。
「お前じゃ話にならないっ! 責任者、出せっ!!」
「それを実現するだけの医療制度がないから仕方がないのかもしれません」
「そうね。でも、そのためのあたし――相談員でしょ」
若王子さんは優しく微笑んだ。
彼女が患者から好かれるのは、美人だから、ではない。きっと、この優しさが患者を癒すのだろう。
「看護ステーション、在宅クリニック、かかりつけ薬局……色々手配したよ。家族ともなんども話し合って、万全の体制を整えた」
「だから、先月の残業はこれまでの中で一番になってしまったのですね」
「あはは、そのせつはご心配をおかけしました。でも、頑張りが結果に直結しないことってよくあることだよね。結局、犬飼さんは何も利用しないままだった」
退院して3日目に亡くなったのなら、新しい薬の処方も必要なかっただろう。退院時に出される薬も余っていたかもしれない。
犬飼さんは、本人が望んだ通り、家族に囲まれて亡くなったのだろうか。
「あたしにできることは、あと一つのわがまま……病院の人たちに内緒にすることだけ。もちろん、調べればすぐにわかることだけど……連絡窓口として、必ずあたしを通してもらえれば、犬飼さんが死んだことを知る人は最小限で済むでしょ」
ポケットの中の折り紙のカエルが、重く感じた。
早く家に帰れますように。
そんな子供たちの願いは確かに叶ったかもしれない。
だが……犬飼さんは、もういない。
「だからね、あたしはこの秘密をずっと守るつもり。あなたたちも、うかつに言っちゃダメだからね」
優しい人だなと思う。
いや、若王子さんに限らず、相談員は皆、優しすぎる。
私は若王子さんのデスクの上を見た。
そこにはたくさんの折り紙がある。
私は、子供の字で書かれた犬飼さんの回復を願う文字と、まるで記号のような、わんわんヒーローの絵を思い出した。
そうだ。
犬飼さんはきっと、悲しませたくなかった。
自分の死を内緒にして欲しいと言ったのは、誰にも悲しんで欲しくなかったからだ。
元気になった子供たちはやがて、病院で会った年寄りのことは忘れるだろう。
そうして、元気に日々を重ねていく。
犬飼さんの願いは、みんなが幸せに生きていくことだったはずだ。
「そうだ、ところで――」
と、若王子さんが口を開いた瞬間、悲鳴が上がった。
私たちがいた職員用の相談室出入り口の反対側、患者向けのカウンターからだ。
「お前じゃ話にならないっ! 責任者、出せっ!!」
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