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怪我人たちの静かならざる日常2
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完璧超人な桐生さんにも苦手なことはいろいろあるらしい。
私は中庭に面したカウンター席で、中庭で日向ぼっこをしているクロネコを眺めた。
平和だ。
とてもあんな大捕物があったとは思えないほど、いつも通りだ。
互いが包帯に巻かれているのが目に入らなければ、あんな騒ぎはなかったのではないかと思ってしまうほどだ。
桐生さんは肩で、私は頭だ。
頭を殴られ、私は脳震盪を起こして意識を失った。
血も出ていたが、MRIとCTとレントゲンの検査の結果、異常はなく、すっかり元気だ。
ちなみに、肩の骨にヒビが入ってしまった桐生さんは、実は私よりも重症だ。
どうやらカートの接触事故を防ぐ時にラックにぶつけて小さなヒビが入っていたところを、元気な爺さんを抑えるのに無茶をして悪化したということらしい。
いやあ、あの爺さん、どんだけ元気だったのだろうか。
それにしても、あの元気すぎるふるまいが、実は症状の一つだと聞いた時は、驚いた。病気になれば弱る、元気がなくなるものだと思っていたのだが、中にはその逆に見える言動をする患者もいるらしい。
「レビーってさ。怖いんだな」
「来週には院内向けに認知症講演会をするそうです」
「マジか。まあ、今回は俺らだったからよかったけど、女性スタッフじゃとても太刀打ちできねえだろ。知ってることは大事だよな」
私がつぶやくと、桐生さんは頷いた。
あの爺さんは、神経内科の患者でレビー小体型認知症だった。
近年、社会問題になりつつ「怒れる年寄り」はひょっとすると、病が作り出した怪獣なのかもしれない。
レビー小体型認知症は、症状の一つに反社会的行動が挙げられるそうだ。もちろん、すべての患者がそうなるわけではないだろうし、程度も異なるだろう。
当事者である私たちはこうして療養に努めているわけだが、お偉方は毎日のように会議でいそがしい。
とにかく大人しくしていろと、二人揃って朝ラン出勤を禁止されてしまった。
完治したころには太っていそうで心配だ。筋肉も落ちていそうだし、何もすることがないときはそわそわしてしまう。
おかげでこの土日は余計なことばかり考えてしまった。
「なあなあ、桐生さんってさ、俺のカミさんと息子、会ったことあったっけ」
海老クリームパスタをくるくると巻き取りながら、できる限りさりげなく問いかけた。
土日、チキンブイヨンを作りながら私はずっと、そればかりを考えていた。
殴られ、意識を失う直前、カウンター下の薄い板の向こう側で、桐生さんが言っていたことが気になって仕方がなかったのだ。
――亡くなった奥さんと息子さんに顔向けができないっ!!
桐生さんはものすごく怒っていたし、必死だった。
あんなに感情的に声を荒げている桐生さんを見たことがなかった。
「いえ、面識はありません。失礼ながら、友利さんがご結婚されていたことも――あの時初めて知ったので」
「え、マジで。言ったことなかったっけか」
「ありませんでした」
結婚してる、子供がいる、最初の頃は桐生さんが苦手だったとはいえ、そんな話すらしていなかったのか。
何かと桐生さんのせいにしていたが、私にも相当問題があった。
変わらず接し続けてくれている桐生さんには頭が上がらない。
「じゃあ、カミさんと息子が事故ったって連絡来た時、ビビっただろ。ま、俺の同級生もほとんど独身だしな。桐生さんも、まだそういうの、意識してない感じ? 実は彼女がいたりとか……って、こういうのってセクハラだっていうなら答えなくていいけど」
「通常、仕事でする話題としてはセクハラに該当する可能性があり不適切ですが、今、わたしに関しては不快ではないのでセクハラには該当しません」
「そりゃ良かった。で、いるの?」
私は中庭に面したカウンター席で、中庭で日向ぼっこをしているクロネコを眺めた。
平和だ。
とてもあんな大捕物があったとは思えないほど、いつも通りだ。
互いが包帯に巻かれているのが目に入らなければ、あんな騒ぎはなかったのではないかと思ってしまうほどだ。
桐生さんは肩で、私は頭だ。
頭を殴られ、私は脳震盪を起こして意識を失った。
血も出ていたが、MRIとCTとレントゲンの検査の結果、異常はなく、すっかり元気だ。
ちなみに、肩の骨にヒビが入ってしまった桐生さんは、実は私よりも重症だ。
どうやらカートの接触事故を防ぐ時にラックにぶつけて小さなヒビが入っていたところを、元気な爺さんを抑えるのに無茶をして悪化したということらしい。
いやあ、あの爺さん、どんだけ元気だったのだろうか。
それにしても、あの元気すぎるふるまいが、実は症状の一つだと聞いた時は、驚いた。病気になれば弱る、元気がなくなるものだと思っていたのだが、中にはその逆に見える言動をする患者もいるらしい。
「レビーってさ。怖いんだな」
「来週には院内向けに認知症講演会をするそうです」
「マジか。まあ、今回は俺らだったからよかったけど、女性スタッフじゃとても太刀打ちできねえだろ。知ってることは大事だよな」
私がつぶやくと、桐生さんは頷いた。
あの爺さんは、神経内科の患者でレビー小体型認知症だった。
近年、社会問題になりつつ「怒れる年寄り」はひょっとすると、病が作り出した怪獣なのかもしれない。
レビー小体型認知症は、症状の一つに反社会的行動が挙げられるそうだ。もちろん、すべての患者がそうなるわけではないだろうし、程度も異なるだろう。
当事者である私たちはこうして療養に努めているわけだが、お偉方は毎日のように会議でいそがしい。
とにかく大人しくしていろと、二人揃って朝ラン出勤を禁止されてしまった。
完治したころには太っていそうで心配だ。筋肉も落ちていそうだし、何もすることがないときはそわそわしてしまう。
おかげでこの土日は余計なことばかり考えてしまった。
「なあなあ、桐生さんってさ、俺のカミさんと息子、会ったことあったっけ」
海老クリームパスタをくるくると巻き取りながら、できる限りさりげなく問いかけた。
土日、チキンブイヨンを作りながら私はずっと、そればかりを考えていた。
殴られ、意識を失う直前、カウンター下の薄い板の向こう側で、桐生さんが言っていたことが気になって仕方がなかったのだ。
――亡くなった奥さんと息子さんに顔向けができないっ!!
桐生さんはものすごく怒っていたし、必死だった。
あんなに感情的に声を荒げている桐生さんを見たことがなかった。
「いえ、面識はありません。失礼ながら、友利さんがご結婚されていたことも――あの時初めて知ったので」
「え、マジで。言ったことなかったっけか」
「ありませんでした」
結婚してる、子供がいる、最初の頃は桐生さんが苦手だったとはいえ、そんな話すらしていなかったのか。
何かと桐生さんのせいにしていたが、私にも相当問題があった。
変わらず接し続けてくれている桐生さんには頭が上がらない。
「じゃあ、カミさんと息子が事故ったって連絡来た時、ビビっただろ。ま、俺の同級生もほとんど独身だしな。桐生さんも、まだそういうの、意識してない感じ? 実は彼女がいたりとか……って、こういうのってセクハラだっていうなら答えなくていいけど」
「通常、仕事でする話題としてはセクハラに該当する可能性があり不適切ですが、今、わたしに関しては不快ではないのでセクハラには該当しません」
「そりゃ良かった。で、いるの?」
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