幽霊事務局長の穏やかな日常=大病院の平和は下っぱ事務員と霊が守ります=

藤島紫

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救急外来の日常6

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 白髪混じりの、ロマンスグレーの髪を丁寧に撫で付けた紳士が、一分の隙もなく立っている。
 いつもカフェに行く時に目に入っていた肖像画、そのものの厳格そうな雰囲気の老紳士だ。
 こちらを見る目は厳しそうだったが、目が合ったとたん、彼は穏やかに微笑んだ。

「え……」

 そして、更に表情を和らげて笑う。
 まるでひょうきんな親父だ。
 思っていたイメージとはまるで違う表情に驚いていると、彼はステップを踏むような軽い足取りで階段を下りていく。
 踊り場までやってきた彼は、壁を指さした。
 その先を目で追う。
 だがそこには何もない。
 しいて言えば、壁に塗られた塗料がはげかけていることくらいだろうか。
 いったいどういう事かと視線を戻すと、そこにいたのはクロネコだった。

「おまえ……」

 結城事務局長は何処に行ったんだ。
 階段を降りるために足を動かす。
 と、同時にざわめきが耳に入った。
 上を見上げると、先ほど桐生さんとここを上った時同様に、3階の病棟からあふれた人々がそこで話をしている。
 一様に不安そうだ。
 そういえば、つい先ほどまで、音が消えていたような不思議な感覚だった。
 見下ろすと、クロネコがしっぽで床を叩いている。さっさと来いと言わんばかりだ。

「やれやれ……」

 生意気な猫だ。

「でも礼を言うよ」

 私は階段を駆け下り、ドアの前でクロネコに声をかける。もちろん、上に聞こえないように小さな声で。

「ちょっと、頭に血が上りすぎていたみたいだからな」

 誰もが冷静さを欠いている。
 ならば、私まで冷静さを欠いていたらうまくいくものもうまくいかない。
 落ち着いて患者とその家族の対応にあたろう。

「行くか」

 職員専用エリアから、患者のためのエリアへ。
 ドアノブを回した。
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