幽霊事務局長の穏やかな日常=大病院の平和は下っぱ事務員と霊が守ります=

藤島紫

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ひび割れそうになる日常 4

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 結城事務局長は実際にはどんな人だったのだろう。
 肖像画や本からの印象だと、桐生さんみたいな真面目すぎるくらいに真面目な優秀な人だったんだろうというイメージなんだが……
 北階段で一度だけ見た姿からは、厳格そうな印象を受けない。どちらかと言うと優しそうでひょうきんな親父ってイメージだ。

「結城事務局長は人を選ぶ際、人柄に非常にこだわったそうです。それは事務員だけではなく、医師や看護師にまで及んだそうです。当院の医師の離職率が他院と比べて低いのは、そのころに徹底的に教育環境を整えたからだと絹井先生がおっしゃっていました。ただ、それでも新人には過酷な環境だったそうですが……」
「ああ、その辺はちゃんと覚えてるぞ。当時、研修医だった絹井先生が救命医になりたいって話したことが女のくせに生意気だと言われたって話だろ。って、あ、ごめん。脱線したかな」
「いえ、問題ありません。ただ、このような背景があるため、行政の責任を問う声も当然上がると考えられます」

 その通りだ。
 学校で起きたとはいえ、工事を請け負った企業とその親会社であり検査の不正を働いた化学メーカー、そしてその企業と繋がっていた行政。
 誰が医療費を払うのか。
 学校内の事故だから学校保険か、不正を働いた企業か、汚職に手を染めた行政か。

「最終的には企業と行政がそれぞれ負担することになるかと思われますが……」
「だろうな。しっかし、そうなると決着がつくまで医療費が支払われないってことだろ」
「はい」
「まずいな、こりゃ」

 今回は一度に多くの患者がいたため、周辺の複数の医療機関で対応している。
 だが、医療費がいつ支払われるか分からない状況では、どこも受け入れたがらない。
 決着がつくまで、医療機関は無報酬で診察を行うことになるからだ。
 医療だって、サービス業だ。
 ボランティアじゃない。

「となるとあれか……民間の医療機関には託せないから全部うちが請け負うことになるのか」
「こちらだけでは対応しきれないので、一時的に付属診療所に外科系の窓口を作って対応することも検討されているようです」
「ってことはアレか。短期アルバイトの募集をかけるってことか。ドクターの」
「応援医師と言って下さい」
「それ、別枠で予算回してもらえんのかな。回してもらえなかったら、常勤のドクターが過労で倒れるだろ」
「それは元事務局長の手腕にかかっているでしょうね」

 人事業務である以上、これは事務方の仕事だ。

「んじゃ、それは期待するか。有難いことにうちはやめるドクターが少ないからベテランが揃ってるのが強みだよなあ。おかげで経験積みたいドクターが集まりやすい」
「そうですね。結城事務局長が土壌を作ってくださったおかげで、この病院は人材に恵まれています」
「管理職は人を管理するのではない、人が働きやすくなるよう環境を管理するのが仕事だっていう、結城事務局長の考えは好きだよ。定期的にアンケートとって、集計とるこっちは面倒臭いけど。働きやすいから、一般的に離職率が高い医師も看護師もやめないし。辞めないからどんどんスキルが向上していって、誰にとっても、良い病院になっていってるなと思うよ」
「30年の成果と言えるでしょうね。話が横にそれてしまいましたがーー30年前はこの病院は開業が危ぶまれるほどに人材が集まらなかった。本では開業のための勇気事務局長の尽力ーー人を集め、体系を整えたことの説明に注力されていますが、別の側面から見ると、それだけ難航していたということは、相当騒がれていたと言うことでしょう」
「騒がれていたって言うと……当時の汚職が、か」
「はい。ほとんど情報がないので推測するしかないのですが……友利さん。思い出していただけませんか。今日見かけた壁のひび割れを」

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