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幽霊事務局長の穏やかな日常 2
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私には猫に見え、桐生さんには結城事務局長が見えた。
「結城事務局長とクロネコ……二体の幽霊がいたのではないかと考えられます。幽霊の正しい単位が不明なので、二体と言っているのは暫定的表現です」
「単位はいいけど。別々にいるって?」
「もしも猫がわたしの前に現れたら、病院内から猫を追い払うことを優先するでしょう」
だろうなあ。
「そして、結城事務局長が友利さんの前に現れたら……」
桐生さんが言葉を止めたことで気づいた。
「一回だけ結城事務局長の姿を見たよ。ひょうきんなおっさんっていう印象だった。なに、まさかそう言うこと? 俺だと全然偉い人って認識持ってくれないからとか」
「違います。怖かったのではないでしょうか」
「こわい? 幽霊が俺を怖がんの? なんで」
ひょっとして、自分でも知らなかったが、実は陰陽師だったとか霊能者だったとか、そう言うオチがあるのだろうか。
「友利さんには、感情を見透かされてしまうからです」
「は?」
桐生さんがわずかに眉を寄せた。
「何で桐生さんが困ってんの?」
「……そう言うところですよ、友利さん」
「は?」
首をかしげると、桐生さんの眉間のシワがさらに深くなった。
「わたしは表情に乏しいせいか……昔からなにを考えているのかわからないと言われました。これまでの人生で、友人と呼べる人は片手で数えるほどしかいません」
いない、と言い切られるより、微妙な数字を言われる方がリアルで切ない。
「ですが、友利さんは友人でもないのに私がなにを考えているのか汲み取ってくださいました」
「友人でもないのにって。さりげなくひどいこと言ってねえ?」
「友利さんは大切な同僚です」
うん、確かに間違いなく同僚なのだが……もう少し言い回しってものがあるんじゃないか?
とは言え、桐生さんには全く悪意がないのはわかっている。
「んで、それはいいとして。俺だと考えてることが分かっちゃうから、結城事務局長的には嫌だったってことか」
「結城事務局長は表情豊かな方です」
「コミュ力高いって言うならそうだろうな……で、いろいろ気づかれたら怖いって? 何だそりゃ」
そう笑い飛ばすが、正直なところ、助かったと思っていた。
もしも私の目の前に現れたのがクロネコではなく結城事務局長だったら、なんでコイツなんだと思ったに違いない。
こいつが幽霊になれたなら、どうして私の家族は――と、妬ましく思ってしまうだろう。全く関係がないことなのに。
クロネコだったからこそ、そんな考えを持たずに済んだ。
「ま、でも、明確にわかってることもあるじゃん」
少しだけ温くなってきたカフェラテをゆっくりと飲む。
腹の中から温かさが広がる。
「明確にわかっていること、ですか?」
「そ。俺らの新しいお役目。ビビるよな」
庶務課長から伝えられたこと――それは、私たちに課せられた、新たな役割だった。
――院内守護係
警備を担当する委託業者がいる。
ゆすりタカリに対応する警察OBがいる。
ところが、彼らは職員ではない為、複数の部署にまたがるような出来事や、突発的なトラブルに対して迅速に動くことができない。
委託業者はその立場故に、警察OBは年齢が影響している。
折り紙のカエルの件では院内の評価が非常に高かったらしい。
一方で、役員レベルでは建物の構造に関することで評価された。短時間で用意したにもかかわらず完成度の高い資料を用意したことや、自分たちで勝手に動きまわらないで上の判断を仰ごうとしたことも好ましく思われた。
その結果、私たちに役割を与え、同様の仕事--もしくはより高い成果を求められることとなった。
それが、院内守護係、と言う新しい係だ。
ちなみに、これまでの私たちの業務はそのままで、これが上乗せされることになる。
病院内の平和を守るポジションだ。
「俺らは、俺らのできる範囲で、病院の平和のために頑張ろうぜ」
景気づけに乾杯でもするかと、カップを持ち上げた時だ。
向かい側のベンチに、誰かが座っているのが見えた。
「結城……事務局長」
ロマンスグレーの髪を丁寧に撫でつけた、気難しそうな顔の男性が、座っていた。
スーツは丁寧にプレスされ、余計な皺ひとつない。
地味だが、どこにも隙のない男性だ。
だが、彼はふにゃりと笑った。
「え……」
膝の上に、クロネコが乗る。
結城事務局長はクロネコに話しかけている。
言っている内容は全く聞こえないが、猫にデレデレなのはよくわかった。
「桐生さん……猫、見えてる?」
「はい。結城事務局長がクロネコを撫でて幸せそうなお顔をされています」
「……幸せそうって言うか、あれって、ただデレデレしてるだけだと思うけど」
「そうですか?」
桐生さんがわたしの方に目を向けて静かに細めた。
「非常に穏やかな……幸せそうな顔をしているように見えます」
幸せそうな顔か。
確かにその通りだ。
病院の屋上にさす日の光は暖かい。
もう少し、眺めていようか。
幽霊事務局長の、穏やかな日常を。
「結城事務局長とクロネコ……二体の幽霊がいたのではないかと考えられます。幽霊の正しい単位が不明なので、二体と言っているのは暫定的表現です」
「単位はいいけど。別々にいるって?」
「もしも猫がわたしの前に現れたら、病院内から猫を追い払うことを優先するでしょう」
だろうなあ。
「そして、結城事務局長が友利さんの前に現れたら……」
桐生さんが言葉を止めたことで気づいた。
「一回だけ結城事務局長の姿を見たよ。ひょうきんなおっさんっていう印象だった。なに、まさかそう言うこと? 俺だと全然偉い人って認識持ってくれないからとか」
「違います。怖かったのではないでしょうか」
「こわい? 幽霊が俺を怖がんの? なんで」
ひょっとして、自分でも知らなかったが、実は陰陽師だったとか霊能者だったとか、そう言うオチがあるのだろうか。
「友利さんには、感情を見透かされてしまうからです」
「は?」
桐生さんがわずかに眉を寄せた。
「何で桐生さんが困ってんの?」
「……そう言うところですよ、友利さん」
「は?」
首をかしげると、桐生さんの眉間のシワがさらに深くなった。
「わたしは表情に乏しいせいか……昔からなにを考えているのかわからないと言われました。これまでの人生で、友人と呼べる人は片手で数えるほどしかいません」
いない、と言い切られるより、微妙な数字を言われる方がリアルで切ない。
「ですが、友利さんは友人でもないのに私がなにを考えているのか汲み取ってくださいました」
「友人でもないのにって。さりげなくひどいこと言ってねえ?」
「友利さんは大切な同僚です」
うん、確かに間違いなく同僚なのだが……もう少し言い回しってものがあるんじゃないか?
とは言え、桐生さんには全く悪意がないのはわかっている。
「んで、それはいいとして。俺だと考えてることが分かっちゃうから、結城事務局長的には嫌だったってことか」
「結城事務局長は表情豊かな方です」
「コミュ力高いって言うならそうだろうな……で、いろいろ気づかれたら怖いって? 何だそりゃ」
そう笑い飛ばすが、正直なところ、助かったと思っていた。
もしも私の目の前に現れたのがクロネコではなく結城事務局長だったら、なんでコイツなんだと思ったに違いない。
こいつが幽霊になれたなら、どうして私の家族は――と、妬ましく思ってしまうだろう。全く関係がないことなのに。
クロネコだったからこそ、そんな考えを持たずに済んだ。
「ま、でも、明確にわかってることもあるじゃん」
少しだけ温くなってきたカフェラテをゆっくりと飲む。
腹の中から温かさが広がる。
「明確にわかっていること、ですか?」
「そ。俺らの新しいお役目。ビビるよな」
庶務課長から伝えられたこと――それは、私たちに課せられた、新たな役割だった。
――院内守護係
警備を担当する委託業者がいる。
ゆすりタカリに対応する警察OBがいる。
ところが、彼らは職員ではない為、複数の部署にまたがるような出来事や、突発的なトラブルに対して迅速に動くことができない。
委託業者はその立場故に、警察OBは年齢が影響している。
折り紙のカエルの件では院内の評価が非常に高かったらしい。
一方で、役員レベルでは建物の構造に関することで評価された。短時間で用意したにもかかわらず完成度の高い資料を用意したことや、自分たちで勝手に動きまわらないで上の判断を仰ごうとしたことも好ましく思われた。
その結果、私たちに役割を与え、同様の仕事--もしくはより高い成果を求められることとなった。
それが、院内守護係、と言う新しい係だ。
ちなみに、これまでの私たちの業務はそのままで、これが上乗せされることになる。
病院内の平和を守るポジションだ。
「俺らは、俺らのできる範囲で、病院の平和のために頑張ろうぜ」
景気づけに乾杯でもするかと、カップを持ち上げた時だ。
向かい側のベンチに、誰かが座っているのが見えた。
「結城……事務局長」
ロマンスグレーの髪を丁寧に撫でつけた、気難しそうな顔の男性が、座っていた。
スーツは丁寧にプレスされ、余計な皺ひとつない。
地味だが、どこにも隙のない男性だ。
だが、彼はふにゃりと笑った。
「え……」
膝の上に、クロネコが乗る。
結城事務局長はクロネコに話しかけている。
言っている内容は全く聞こえないが、猫にデレデレなのはよくわかった。
「桐生さん……猫、見えてる?」
「はい。結城事務局長がクロネコを撫でて幸せそうなお顔をされています」
「……幸せそうって言うか、あれって、ただデレデレしてるだけだと思うけど」
「そうですか?」
桐生さんがわたしの方に目を向けて静かに細めた。
「非常に穏やかな……幸せそうな顔をしているように見えます」
幸せそうな顔か。
確かにその通りだ。
病院の屋上にさす日の光は暖かい。
もう少し、眺めていようか。
幽霊事務局長の、穏やかな日常を。
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ありがとうございます。
こちらこそ、
最後までお読みいただき、
本当にありがとうございました!!
退会済ユーザのコメントです
しおんぼんさん、ご覧いただきありがとうございます。
長編に直すと決めた時は13万文字くらいいくかと思いましたが、このくらいで済んで良かったです。
お陰様でなんとか完結できました。
ありがとうございます〜!!