闇千夜の系譜・櫻花の理(ことわり)〜鬼は永久(とわ)に最愛の女を探し彷徨う〜

和刀 蓮葵

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一枚の封筒

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栗色の艶のあるテーブルは大きく、猫足の下には大きな猩々緋色しょうじょうひいろの絨毯が敷かれている。全面に花や蕾、葉が織られたオール・オーバーパターンの絨毯は豪奢で素晴らしい。
一人掛けのソファは背もたれも座面もフカフカで居心地が良さそうだ。金色と深緑のゴブラン織りでこちらも絨毯に負けないぐらい素晴らしい。

ここだけ異世界に迷い込んだと思う程、部屋の作りは西洋的で、床も畳ではなく板を使用している。栗色の床は磨かれて、艶や光沢があり、この部屋は特別な部屋だとすぐに分かる。

テーブルの上には、白磁の花瓶に生けられた菊の花は鮮やかで、この部屋の雰囲気をより一層盛り上げる。
そんか華やかで贅を凝らした空間に三人の老人と朔耶はソファに座り、対峙していた。

昼過ぎの訪問の筈が「、早く用事が終わったのでこちらに来た」と悪びれもせず、厚顔無恥はこの事か?はたまた、傍若無人か?と、言いたくなるほどだった。
けど、屋敷の事を普段から取り仕切る東雲を始め、元気で体力のある歌弥や、年の功で細かい事にも目配り、気配りが出来る八重さんのおかげで、長老連中が来る予定の数刻も前から完璧にもてなしの準備は終わっていた。

玄関まで続く道の枯れ葉は掃き、朝露で着物を濡らさないように拭き取られ、玄関の花は綺麗に生けた。
菓子と飲み物は既に準備され、いつでも出せるように盆に乗せてある。
そして、一番、重要な部屋がこの客間だ。先代の西洋好きが、好きを極めた結果この一部屋だけは他の部屋とは違う。
元は畳の部屋だったが、畳の上に絨毯だと湿気で畳が駄目になると聞き、その為、畳を取り除き、わざわざ板を張り、そして、家具等を置いていった。
家具もそして、置いてある小物も西洋の物たちだ。
そんな、部屋の塵や埃を取り除き、小物一点、一点を磨き、花を朝摘んだ瑞々しいものを生ける。

そう言えば、東雲も歌弥もいつも言っているが、この部屋の掃除だけはあまり気乗りしないらしい。置いてるものがケタ違いなのだ。家具もだが小物も値段も庶民からしたら目玉が飛び出るほどのものばかりで、泥棒に入られたらおしまいだ。
けど、番犬代わりの煌がいるので(犬ではないけど)入られても、煌が嬉々として追いかけ周り、ボロボロにして、警察に突き出すか、外に投げ捨てるだろう。頼もしかぎりだ・・・・・・


朔耶は客間に案内し、ソファ座り、長老連中の小言と自慢と、朔耶を貶める発言を三人で交互に繰り返して話す。その、どうでもいい会話を聞きながら部屋の事や、煌の事を考えて心の中で笑った。
「そうそう、昨日の妖の件ご苦労だった。響士郎殿の予定だったのだが、その日は、館山殿開催の夜会があって、響士郎殿は行けなくなってしまい困っていたんだが、流石、殿・・・・・・助かったぞ?」
白い顎髭を撫でながら、下卑た笑いにも等しい表情で朔耶を見る。その、蔑みの顔を向けられて朔耶は、チラッと相手の顔を見ると深々と頭を下げる。
「いえ、当主として当然の事をしたまでです。響士郎様の役にたったのなら良かったです」

響士郎義兄様が祓う予定だったのは本当だ。本人もそのつもりで準備していた。
けど、突然、義兄様が夜会に出席しなければいけないとなり、その穴埋めを「暇な当主」として知られている私に当てられた。

その夜会も本人に黙っていたまま返事したり、準備してしたそうで、代わりに祓うことを告げた時に詫びを入れられた。
まぁ、館山財閥の夜会は規模も大きいし、人脈作りにはうってつけの夜会だ。「怠慢で堕胎的な当主」より、顔も格好も令嬢達や御婦人達から熱い眼差しをされ、話をすれば知的でウイットに長け、紳士達から一目置かれる義兄様がいいに決まっている。

人脈作りは義兄様に任せ、私は日陰者として生きる事に何ら苦はない。むしろ、そっちを好む。
正直、夜会や茶会といった人と人のやり取りや、裏の裏を読んで相手を貶める、自分を優位にする世界は御免被りたい。ただでさえ、今も、息がしづらいのに、これ以上、息が出来なければ窒息死してしまう。
なら、私は「怠慢で堕胎的な当主」として、笑い者にされ、指をさされている方がいい。
そこには手に入らないと思っている「自由」があるから・・・・・・

「昨日の報告等は先程話した内容で間違いないです。他に何かありますか?」
感情の一切こもらない声で、本来の目的である「報告」をし、早々にお帰り頂こうと思い、他の用件を聞く。ないのであれば、他の用事などこちらで、でっち上げて私はこの部屋から出ればいい。後は勝手に帰るだろう。
「ご苦労、ご苦労・・・・・・・そうそう、一件、当主殿に参加して欲しい夜会が御座いましてな・・・・・・・・」

人の良さそうな好々爺のような顔なのに、三人の中で一番の腹黒な長老が、着物の懐から一枚の手紙を取り出す。
和紙で出来た封筒を一枚、テーブルに置く。
「今、海運業者で成功して勢いのある、羽佐間気船がパーティーを開くようで、参加して欲しいと貰いましてな?この件は時子殿もぜひ行ってきて欲しい、壬生雀院の力を更に強固にして欲しいと言ってましてな・・・・・勿論、参加しますな?」

時子殿・・・・・・義兄様の母君で、世代当主、私の父の本妻。表立って力を誇示はしてないが、陰から、特にこの長老連中を使って私に色々としてくる。
私怨の度合いが他の人より、人一番強い。壬生雀院の頂点である当主に、誰よりも一番近い人間と見たされた響士郎義兄様。
そして、その、母親になる筈だった。けど、当主相続の儀で失敗。そして、当主になったのは芸者の母から生まれた私。
水泡に帰す・・・・・が、一番相応しい言葉なのかもしれない。伯爵の娘で、壬生雀院の当主の妻、息子が当主ならこれ以上の輝かしい事はないだろう。その為に様々な画策をしていた。それが、あの儀式で一瞬になくなった。

面白くもない事この上なく、当主になった私を勿論、当主と見なすこともなく、早々に命を奪い、新たな当主を選ぶ儀式をさせようと、あの手この手を使い始めた。
それを危惧した、先代当主とその母親、そして、私の母は様々な対策を考えてくれた。
そして、本来なら当主となる筈だった響士郎義兄様が味方にもなってくれた。
その御蔭で、私は今も当主として生きている。
攻撃の手は多少、緩まっているとは言え、完全になくなってはいない。

「羽佐間気船の勢いは承知してます。縁を繋ぐ役割しかと承知しました。時子様にもそのようにお伝え下さい」
「結構、結構・・・・・
何かを含む様な語尾に警戒しながらも、平常心を心掛ける。
悪鬼跋扈あっきばっことまではいかなくても、それに近い存在の長老連中に顔色一つ変えてはいけない。ほんの少しでも弱さを見せると、これ幸いと、攻撃を開始する。

東雲や煌、歌弥達と平穏な生活を継続する為には、私は物わかりの良い人形を演じる必要がある。それで彼奴等が満足するなら、それに越したことはない。
「心得ました」
頭を深く下げ、承った事を表す。低頭平身ていとうへいしんする姿は長老連中には、さぞ、気持ちのいいものだろう。当主の肩書を持ちながらも、その存在は塵芥と変わらず。自分達のいいように掌で転がし、扱う。自分達の見栄と権力の為に人が死のうが、壊れようが関係なしに生きている連中には、うってつけの操り人形だ。

そして、私もそれを分かっているが、何もしない。正確には何も出来ないが正しい。
切っ掛けも、勇気もない。ただ、願うのは静かに暮らす事。だから、私は何も言わない、見せない、行動を起こさない。

「うむ、頼んだ・・・・・さて、我々も忙しいので、帰るとするか・・・・かねの方は銀行に振り込んでおくから好きにすれば良い。観劇でも着物でも好きな事に使えばいい・・・・

杖を使い、立ち上がると三人はニヤニヤと笑いながら部屋を出ていく。朔耶は立ち上がり三人を見送る為に頭を下げる。入り口には東雲がおり、三人を玄関まで案内していく姿が見えた。
襖が閉まる音を聞いて、朔耶は先程まで座っていたソファにドカッと倒れ込む様に座った。
背もたれに頭を預け、天井を見る。

━━━━━━━疲れた
感情も考えも分かりきっている相手と言えど、相手にするには疲れる。まだ、妖と対峙していたほうが幾分かマシだ。人間を相手にしている時の疲労感は半端ない。
・・・・・・・そう言えば、昨日の妖は生霊だったな。新聞に何処かの奥方が昏倒して意識不明だと載っていた。本当に人間は恐ろしい生き物だ。

朔耶は天井を見あげたまま、ため息をした。人の裏側ばかりを見続けているせいか、人を心から信用出来ないのが正直辛い。
自分の母親は完全な味方だったが、この世にはすでにいない。
先代当主はいる事はいるが、ほぼ、隠居状態。関わりがないに等しい。
なら、自分の味方は屋敷にいる、東雲や煌達式神だけだろう。
その味方にまで裏切られたら私は本当に生きていけないかもしれない・・・・・・

再び、深いため息をする。すると、襖が開き、東雲が苛々した表情で部屋に入ってくる。
「朔耶様、あの年寄連中は帰りました。全く、「茶がぬるい」だの、「菓子ぐらいハイカラな物を出せ」だの、あーだ、こーだ、グチグチ、グチグチ・・・・・・五月蝿い!本当に五月蝿い連中です!」
きっと、廊下から玄関、外に出て姿が見えなくなるまで、長老連中はここぞとばかりに言ったのだろう。人と人を比べ、完璧な状態でのもてなしも真逆の事を言って貶め、何でもいいからケチをつける。
それを相手する東雲は、笑顔で受け答えしたのだろう。笑顔で青筋を作り、持ち上げた口の端を引き攣らせたに違いない。
東雲の気苦労が痛いほど分かるから何も言えない。言えるのは感謝ぐらいだ。

「ありがとう、東雲・・・・・貴方がいてくれて本当に良かった」
「有り難う御座います朔耶様・・・・・・あら?その封筒は何でしょう?」
テーブルに乗せられた封筒に気づく東雲に、朔耶はソファに預けていた体を起こし封筒を取る。
一度、開封された封筒の中からカードを一枚抜き取り、ざっと文字を読んで頭に叩き込むと、すぐに東雲に渡す。

「羽佐間気船のパーティーがあるみたいで、その招待状です。時子様が「参加」する様にと仰っていてね・・・・・向こう側から言ってくるのだから、参加せざる負えないでしょう。すみませんが準備を任せましたよ」
「ダンスパーティーで・・・・・・服装はドレス?ドレス!!こうしちゃいられないわ!!準備しなきゃ!!」
招待状の中を見て、服装の指定を見ていた東雲は顔を上げると、急いで受け取った招待状を朔耶に返す。

主人が唯一、綺麗に着飾れるのは、こうした夜会やお呼ばれした時。それも、一族絡みでなく、人脈作りや羽振りの良さを見せつける、見栄で呼ばれるような赤の他人が主催のモノだけ。
数少ないドレスの手入れは欠かさないが、痛みや解れがないか、シワがあるなら火熨斗ひのし(アイロン)を当てなくては・・・・・・

「朔耶様、失礼します。私、急ぎの用が出来ましたから!!・・・・・・・・・歌弥!歌弥!仕事が出来ましたよ~~」
襖を閉め、こちらにも聞こえる声で歌弥を呼ぶ。
すると、遠くから「は~い」と声が聞こえる。
二人の明るい声と「任せてください!姉さま!」と頼もしい声が遠ざかりながら聞こえてくる。

クスッと笑ってしまう。二人は本当に中のいい姉妹のようだ。式神同士で血のつながりなどないのに、仲が良く、阿吽の呼吸で行動する。関心してしまう。
仲の良い姉妹のような東雲と歌弥に、ガサツで乱暴だが、心根は優しい煌。みんなをまとめるお母さんのような存在の八重。
そして、私の仕事を支えてくれるしっかり者の伊勢いせ

みんな、血の繋がりなど一切ない。ましてや人にあらず。式神という、傍から見たら便利な道具ととらえる人もいるが、私はそうと思わない。
家族以上の信頼ある大切な仲間だ。
私の事を第一に考え、行動する。本当に有り難い存在だ。

そんな、大切な存在を守る為なら、夜会やパーティーの一つや二つ参加するしかない。
参加しても基本、壁の花になればいいし、そもそもあまり話しかけられることもない。
長老連中や一族の大半が、私のあることない事を言い、華族連中からは爪弾き者。
話しかけるのは、蔑みたいか、単純に興味があるかだろう。
つまらないモノに参加するより、屋敷で静かにお茶を飲みながら読書したいのが本音だ。

「はぁ~~~頑張るかぁ・・・・・・・」
気乗りしないが参加しないと・・・・伊勢に日程の調整をお願いしないと。
服装は東雲と歌弥に任せよう。確実に二人ならしてくれる。

再び深いため息をして、朔耶はソファの背もたれに体を預けるとズルズルと体を滑らして、不自然な姿勢で暫く部屋に籠もっていた。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

厭味爺の長老連中は基本、厭味ばかりです。天邪鬼的なもので、完璧なもてなしでも絶対、厭味を言いまくる。そんなジジイが三人いれば、まぁ~~五月蝿いでしょう。それを笑顔で対応する東雲と朔耶。
もし、ここに煌がいたらちゃぶ台クラッシュ間違いなしです。が、そこを分かっているから絶対に、近寄らせない徹底ぶりです。

さて、壁の花、確実なのにダンスパーティーに参加せざるおえない朔耶はどんなドレス姿を披露してくれるのか?
そして、ヒーローいつ出るねん!!大丈夫!そのうち出るから!!

ここまで読んで下さってありがとうございます
登録等して頂ければ幸いです。
評価がモチベーションアップです。宜しければ応援お願いします。応援で狂喜乱舞しております。
応援してくださる皆様方、本当にありがとうございます
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