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簪と装身具
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何だか嵐の予感?
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
シュッ・・・・
シュッ・・・・
軽い音がする。障子からは日差しの明るさで部屋全体が明るい。
綺麗に拭かれた畳の上にきちんと正座し、白い絹の着物を一寸の隙なく着用する。
白い絹の手袋をした手では墨をする。
朔耶は墨をする作業は嫌いではない。ゆっくりと丁寧にしていくと墨は思い通りの濃さに変化する。最初は水の透明から、薄墨、濃墨と変わる。どれだけ濃くするかは、墨をする自分次第だが、濃ければ濃いほどいい。全てを覆い隠すような、拒絶するような、何かあったのに何もなかったように振る舞う色が朔耶は好きだった。
清めた水は時間をかけ墨に変える。墨を筆に付け、細長い紙に文字なのか、絵なのか、記号なのか、摩訶不思議なモノを書き込んでいく
サラサラと筆と紙の擦れる音が心地よく、無心で書いていく。狂うことなく丁寧に決められた通りに書いていく。
一つでも間違いがあると、本来の力は発揮されない。それどころか自分の身の安全が保証されない。間違いなく丁寧に書いていく。
時間も忘れ書き続けていると、突然、襖がバーンッと開き、慌てた様子の煌が現れる。
集中していただけに、突然の事に驚き、持っていた筆を強く紙に押さえつけてしまい「グシャ」となってしまう。
「朔耶!!大変だ!!」
まくしたてるような、鬼気迫る様子に只事ではないと感じ取った。
けど、それは一瞬で変わる。突然、現れた煌から遅れる事数秒、今度は東雲が現れて、煌の頭を思いっ切り叩いた。
「この、大馬鹿!!あんたの頭は油揚げで出来てんのっ!!霊符を書いている時は襖を開けるなとあれだけ言ってんでしょうがぁ!!」
「うっせぇ!!ガラ女!歌弥が大慌てで「朔耶様!大変ですぅ~」って言っていたんだ!一大事だろう!」
「最後まで確認してからにしなさいよ!!早とちりすぎんのよ!!」
二人の言い争いを見ていた朔耶は、それだけで我に返り持っていた筆をコトッと置いて、廊下でいまだに言い争っている二人の方に体を向ける。
「二人とも分かったから・・・・・・で、どうして大変なのか順に説明して?」
「だから、あれだよ!そう~~あ~~」
「あんたはお黙り!朔耶様、私が説明します」
ギッと睨む東雲に恐れをなしたのか煌は「あ゛~~」と言って、頭を掻いてしまった。
何か気まずい事があると頭を掻くのは煌の癖でもある。
「先程、火澄征一郎様がお見えになりました。客間にお通しし、お待ちいただいております」
「火澄・・・・・・・・」
━━━━━━━火澄征一郎・・・・・・・
その名前を聞いて、心臓が強い鼓動を刻む。忘れる筈なんてない。夢や妄想で片付けたいと何度思ったことか・・・・・・
けど、薬が見せ幻かもしれない。そう思い、過ごした。霊符なんて沢山あるから要らないのに、気持ちを落ち着かせる為に沢山書いてしまった。
相手の名前を聞いた途端、様子が変わった主を不審に思い、東雲と煌は顔を見合わせる。
「朔耶様?」
少しだけ遠慮がちに名前を呼ぶと、それに気づいた朔耶は東雲の顔を見る。
感情の全てを何処かに捨てた、一切感情の読めない表情を東雲達に向ける。
その顔は朔耶が何かを思い、考えても、それは願いが叶わないと思った時に現れる表情だ。
「・・・・・どうされますか?言い訳はこちらで考えます。火澄様にはお帰りいただきますか?」
「いや・・・・・・・いつかは会わないとと思っていた相手だから・・・・・・今、行きます。着替えを・・・・・・いや、このままでいい」
自分の今着ている着物を見て思い直した。持っているのは地味で正直、上等なモノはあまりない。
式服やこうした霊符を書く時は、それなりの良いものを持っている。そして、今、着ているものは絹の白い着物。真っ白でシミ一つない。これなら可笑しいと思われることもない。
立ち上がり、廊下に出る為に歩き出す。すると、東雲と煌は左右に分かれる。本当に、こんな時だけは息の合った動きを見て、少しだけ頬が緩む。
知った我が家の廊下を歩き、一つの襖の前まで来る。そこでは歌弥がお盆を持って左右にウロウロと歩いていた。
「歌弥?どうしました?」
「朔耶様!東雲姉さん・・・・・・」
少しだけ困った顔をした歌弥がこちらを見上げる。
「お茶をお出ししたのですが、お菓子も出した方がいいのか・・・・・あと、緑茶をお出ししたけど紅茶の方がよかったのかと悩んでしまって・・・・・」
自身なさげに項垂れて、告白する内容が少々可愛い内容なので、東雲は少しだけ笑い歌弥の頭を優しく撫でる。
「大丈夫ですよ。お茶ありがとうございますね。あとはこちらで対応するので、玄関の掃除をお願いしますね」
「えぇ、歌弥ありがとう。東雲の言う通り玄関の掃除をお願いします。お客様に帰られる時も気持ちよく帰っていただくように、綺麗にお願いしますね」
大好きな二人から褒められて、「玄関の掃除」と言う大役を願い出られたのだ。歌弥は下がった眉が段々と上がり、はにかみながらも嬉しそうにしながら「任せてください」と笑顔になる。
お盆を抱いたまま軽く、頭を下げるとそのまま玄関の方まで行ってしまう。
「・・・・・・・行きましょう」
歌弥に見せていた優しい顔は一瞬で無表情に変わる。
それは、東雲も同じだった。
果たして、この部屋からは、鬼が出るのか蛇が出るのか・・・・・・
朔耶は軽く息を吸い込むと襖の取ってに手置いて開いた。
最初に見えたのは間仕切り替わりの衝立だ。折り畳み式で、木や和紙を使った物は、畳と同じくらいの大きさだ。
そして、その向こう側に来客用のソファやテーブルがある。
「お待たせしました」
そう、声をかけて朔耶達は部屋に入る。すると、ソファに優雅に座り、お茶を静かに飲んでいた一人の男性がこちらに気付いて笑いかける。
仕立ての良い三つ揃えは黒茶色の細い縞模様に、臙脂の襟紐で垢抜けている。長身と体格の良さで洋装の良さを引き立てている。
切れ長の目や、高い鼻梁は端正な容姿で、そこに加えられた泣きぼくろが絶妙な色気を生み出す。
薄暗い場所で見た彼と、陽の下で見た彼とは雰囲気が全然違う。
けど、朔耶には忘れたくても忘れられない思い出を植え付けられた人物としてしか見れず、ほんの少しだけ後ろに下がってしまう。
朔耶の様子を機敏に察知し、征一郎はすぐに立ち上げたり挨拶をする。
「体調は大丈夫でしょうか?壬生雀院の当主殿?あの時は何も出来ずすみません」
軽く頭を下げる征一郎に、最初に声をかけたのは東雲だった。
「此方こそこちらから出向かわないといけませんのに・・・・・当主を介抱して頂きありがとうございます。すっかり体調も良くなりました」
「なら、よかったです。実は・・・・・仕事の依頼で来まして・・・・・当主殿と話をさせていただけませんかね?」
後ろに控えていた喪服姿の女性が、持っていた封筒を朔耶達に見えるように見せる。
すると、東雲はすぐに反応し朔耶の方を見る。
「朔耶様・・・・・・」
「・・・・・・東雲・・・・話をするので退出して下さい」
「・・・・・・畏まりました」
軽く頭を下げると、少しだけ違和感のある朔耶を何度か見ながらも部屋を出ていく。
すると、喪服姿の女性もテーブルに封筒を置くと、征一郎達に頭を下げて部屋を出ていく。
「・・・・・・・・」
「壬生雀院朔耶さん・・・・・まずは、謝罪をさせてください」
征一郎が一歩、一歩ゆっくり歩み、朔耶の前に来ると、落ち着いた声色で朔耶の名前を呼び、深々と頭を下げた。
「?!!ひ、火澄殿!!」
征一郎が近づいてきた時に、更に後ろに下がってしまった。そして、もう一度下がろうとした時に、突然の謝罪に足が止まってしまう。
「言い訳に聞こえるかもしれないけど、あの時は緊急措置だった。確かに、時間が経てば薬の効果はなくなる。けど、早く助けたかったから、発散させる為と言え、朔耶様に無体を働いたのは紛れもない事実・・・・・・すまなかった・・・・・」
誰かが自分に対して頭を下げることはほぼない。「お前が悪い」「なぜ、お前に頭を下げる必要がある?」と言われ、逆に私が頭を下げることの方が多かった。
だから、目の前の事に対してどう、接するのが正しいのか分からない。
朔耶は目の前で深々と頭を下げた征一郎をただ、見つめるだけだった。そして、この場に合う言葉が思い浮かばず、けど、何かを言わないといけないと、頭の中で色々と悩んだ挙句、出てきた言葉は素っ気ないものだった。
「大丈、夫です・・・・・分かりましたから・・・・・・頭を上げてください・・・・・・」
言葉を言うのに、相手を見ることが恥ずかしくて、顔ごと違う方向を見て話す。顔から火を吹きそうなほど熱く、きっと、真っ赤になっている。そんな顔を見られたくないのもあるのか、相手を見れない気持ちもあるのか、征一郎に向かって顔を背けた。
「ありがとう・・・・・・この事は私と朔耶様との秘密でいいですね?」
安心した様子で顔を上げ、先程の強張った声から一変、春のような温かい声色で朔耶に語りかける征一郎に朔耶は頷くしかなかった。
「よかった・・・・・立ち話も辛いでしょう?さっ、座りましょう」
笑った顔は朗らかで、心の枷がなくなったせいか更に清々しさもある。反面、朔耶の表情は困ったけど、何も出来ない自分に対する諦めの表情が垣間見える表情だ。
そんな、朔耶の様子を伺いながらもそっと、朔耶の側に来て、腰に手を置き、気づかぬうちに握り締めていた手を優しく触り、ソファまでエスコートする。
「!っ・・・・・・・」
頭で色々考えていたせいもあるからか、音もなく、征一郎が側まで来て、体をそっと触り、エスコートする事に驚き顔を上げてしまう。
征一郎と目が合い見つめ合う。笑っている目は何かがチラチラと見える。熱くて、何かを欲するようなモノが・・・・・・・・
嫌な気分はしない。けど、何かこそばゆくて、恥ずかしくなるような感じがして、朔耶は目を逸らしてしまった。
部屋の主は自分なのに、今だけは征一郎が主のような感じだ。案内されるまま朔耶は二人掛けのソファに座らされる。そして、何故か、征一郎も隣に座る。
「ぇ?」
思わず出た言葉に朔耶は気まずくなり、サッと顔を背けてしまった。
「・・・・・・あと、もう一つ謝らないといけないことがあってね・・・・・・・」
征一郎は朔耶の言葉を聞かなかったフリをして、背広の内ポケットから、白い布に包まれた物を取り出し朔耶の前に持ってくると、ゆっくり布を広げる。
「?!!あっ!!それは・・・・・」
それは、なくしたと思った銀細工の簪が出てきた。
「あの時は、朔耶様を無事に帰す事が優先だと思ってまして・・・・・返しそびれました。きっと、お探ししてましたよね?」
熱く、何かを欲するモノは消え、只、申し訳ないと思う気持ちの視線を向ける。
「はい・・・・・・」
探していたのは本当だ。あの後、パーティーの主催である羽佐間気船の社長にも確認した。
けど、そんなモノは届いてないと言われ、落胆していた。
「大事なものなんですか?瞳が潤んでますよ?」
「あっ・・・・・・すみません。その、簪は父・・・・先代当主が母に贈った物なんです。母の形見として譲ってもらったもので・・・・・・見つかって本当に良かった・・・・・・・」
無意識に襟元を掴み目を閉じてしまう。数少ない母親の形見がまた一つ、無くなることなく見つかり安堵する。
「そうですか・・・・・・そうなら尚更早く返さなければいけなかったですね・・・・・」
征一郎は包んでいた布を取り払い、簪を朔耶の束ねていたマガレイト結びの髪に差した。
「あの時も思いましたが、よくお似合いですよ・・・・・この簪の花は何かご存知で?」
征一郎の行動に驚き、反らしていた顔を思いっ切り征一郎に向ける。簪を差したままの手で、簪の細工を触りながら、優しい笑みをしているが、何か見え隠れする視線に戸惑う。
「いえ・・・・・分からないです。想像上の花でしょうか?」
「これは「ネリネ」と言われる花です。遠い異国・・・・・・一年中、真夏の国の花なんですよ」
「一年中、真夏?想像が出来ません。火澄様は物知りなんですね・・・・・・勉強になります」
四季がある我が国と違い、夏しかない国など想像が出来ない。けど、遠い異国ならそんな国もあるかも知れない。
朔耶は驚いたが、まだ知らぬ事を教えてもらい、何故か嬉しかった。自分の知らぬことを知っていて、教えてくれる人など周りには殆どいなかった。
それどころか、教えるのに意地悪されたり、叩かれたり、食事を抜かれることが殆どで、無条件で教えてくれるなどなかったから、こうして無条件で教えてくれることに嬉しさもあるが、少しだけ戸惑いもある。
「花言葉は「忍耐」や・・・・・・「また会う日を楽しみに」と言った言葉があります。父君は母君に会えることを楽しみにしていたのでしょう。かく言う私も、楽しみにしてました」
征一郎の言葉に朔耶は混乱してしまう。何故、楽しみなのか分からない。先代当主と母なら分かる。けど、火澄様が楽しみにすることなど意味が分からない。
朔耶が内心困り、どう、対応したらいいのか分からなくて固まっているのを分かりながら、征一郎は簪を弄る手を止めないまま、何かを思い出したように「あっ!」と言い、朔耶と向い合せになっていた体をテーブルの方に方向を変える。
やっと、征一郎の視線や手がなくなったことに安堵するが、何かを思い出した言葉に少しだけ不安を覚える。征一郎の視線の先には、先程の付き人が置いていった封筒があり、封筒は歪に、一部分だけが盛り上がっている。
征一郎は封筒の中から一つの箱を取り出す。
桐箱で何が納められているかも分からない。一体、何が納められているのか、検討もつかない。
「お詫びと言ってはなんですが・・・・・・・朔耶様に似合うと思ってついつい・・・・・・」
蓋を取り、中身を見せる。中に入っていたのは何かの花と花を形どった装身具だ。
銀細工の葉や蔓があり、花弁は白地だけの花弁と、同じく白地の花弁と紫の花弁が入った陶器を使用し、貴重な真珠まであしらってある。
「こ、れは?火澄様?」
見ただけでもわかる。とても高価で「詫び」の対価としては余りにも分不相応な品だ。
「是非とも、朔耶様に身に着けて頂きたいと思ってしまい・・・・・受け取って貰えませんか?」
笑顔で言われてしまい、朔耶は驚いた。
「そんな!こんな高価な品・・・・・・とてもじゃないですが受け取れません!!」
「いいえ、是非、受け取ってください。それに、これからする「仕事」の依頼にも関わる事なので・・・・・・」
首を左右に振り否定したが、「仕事」と聞いて動きを止める。
「仕事?」
「はい。是非、お知恵を貸していただきたい・・・・・・私ではやく」「長老殿達っっ!!言ったでしょう!!朔耶にはわたっ・・・・・・・・・あれ?」
「「!!」」「?」「「「ぇっ?」」」
突然の乱入者に朔耶と征一郎、そして、乱入者である響士郎の三人は、三者三様の驚きと制止をしてしまう。
「響士郎義兄様?」
「朔耶?あれ?長老殿達でない?」
「長老殿達?響士郎義兄様?」
「響士郎様ぁ~~・・・・・って、あ・・・・遅かったぁ~~~」
遅れてやって来たのは半分涙目の歌弥だった。息を切らし慌てた様子で部屋の中に入って来た。
そして、固まる三人を最初は見ずに、切羽詰まった声を出し、響士郎の名を呼んでいたが、雰囲気の可笑しい様子を察知し、よくよく見て更に悲壮感を漂わせる。
歌弥の様子を見て、「不味い」といち早く察知した響士郎は何とかする。
「あ~~慌てたからか喉が渇いたなぁ~・・・・」
わざとらしく咳をして場をつくろう響士郎に、助け舟を出したのはまさかの征一郎だった。
「私も、何だか喉が渇きました~~歌弥さん!お茶のお代わりいいですか?」
二人して変な抑揚の付け方をした、舞台台詞みたいな言い方に、目をまん丸にした歌弥だったが、いち早く察知し、頭をすぐに下げる。
「只今、お持ちします!!」
風を切るようにその場から走っていく。その機敏な動きに、朔耶は益々混乱してしまう。
「・・・・・・すまなかった。仕事の事で話をする為に来たのだが、歌弥と話をしていたら、変に誤魔化されてね・・・・・・また、長老連中が来たのかと思ったら頭に血が昇ってしまって・・・・確認もせず部屋に入ってしまった・・・・・貴方もすみません。お見苦しいところをお見せしました」
大島の対の着物姿の響士郎は、征一郎に向かい頭を下げる。
それみ見た征一郎は持っていた箱を朔耶に押し付けるように持たせると、すっと、立ち上がり頭を下げる。
「壬生雀院響士郎殿とお見受けする。私は火澄征一郎と申します。本日は朔耶様に仕事の依頼で参りました」
「火澄?あぁ、武の貴族の火澄ですか?武の貴族が何ゆえに壬生雀院家に依頼される?」
「依頼」と聞いて、響士郎の雰囲気が一気に冷たくなる。
そうだろう。武の筆頭貴族の火澄家が、呪術の筆頭である壬生雀院家に仕事の依頼をするのだ。聞いたことのない話だ。
だが、どこ吹く風を決め込む征一郎は、そんな雰囲気に怖気づくことなく話を進める。
「きっと、響士郎殿の仕事の依頼と私の仕事の依頼は同じかと思います・・・・・・そう、例えば・・・・大塚卿相の事とか?」
「!!ほぉ・・・・・話を聞きましょうか?火澄殿?」
響士郎の不敵な笑みに対して、征一郎は満面の笑みで答える。
「朔耶・・・・すまなかったね。置いてけぼりをしてしまって。今から私のする話と、火澄殿の仕事の話は同じ相手だ」
「はい・・・・・・響士郎義兄様・・・・・」
朔耶は無理矢理、押し付けられた箱を何故か胸元に持っていき自分に押し付ける。
話が全く見えない。二人は理解しているが、私は分からない。大塚卿相?確か外務大臣の筈。そんな人が仕事と何の関わりがあるの?
不安が増すばかりだ。無意識に縋るように抱きしめている箱の中身は確か「仕事」に関わると言っていた事を朔耶は思い出す。
「歌弥がお茶を持ってくる。話はそれからだ」
「はい、分かりました」
朔耶はただ、響士郎の指示に従うしかなかった。
当主と言われても決定権も何も無い形だけの当主だ。お飾りの当主で決定権も何もかも響士郎が持っている。
朔耶は言われたことをするだけ。そこに、感情も何も無い。
征一郎には見せなかった、感情の一切を取り払った能面のような無の表情なのに、何処か寂しそうで、それでいて、諦めてもいるような表情に征一郎は眉を寄せた。
だが、そこで、何かを言っても仕方ない。
征一郎は封筒を手に取ると、朔耶と座っていた二人掛けのソファから、一人掛けのソファに移動し座る。
響士郎はその行動を、先程からの不敵な笑みを崩さないまま見つめるが、征一郎が座った事を確認すると、自分も一人掛けのソファに移動し座る。
誰かが言葉を出すこともなく、時計のコチ、コチ・・・・と鳴る音だけが部屋に響く。
それは、歌弥の代わりにお茶を持ってきた東雲が部屋に入り、退出するまで続いていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
あわてん坊のサンタクロースならぬ、響士郎義兄様
天然なのか、策士なのか・・・・・・
そして、征一郎の「仕事」と響士郎の「仕事」は一体、なんなのか?
そして、謎の「大塚卿相」ちなみに、卿相(けいしょう)とは、大臣など重臣を指す言葉の意味です。
そして、やたら高そうな装身具は一体「仕事」と何の関係があるのか?
Rの話はちゃんとあるのか?(そちらはもう少し待ってください(笑))
ここまで読んで下さってありがとうございます
評価・ブックマーク登録等して頂ければ幸いです。
評価がモチベーションアップです。宜しければ応援お願いします。応援で狂喜乱舞しております。
応援してくださる皆様方、本当にありがとうございます
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シュッ・・・・
シュッ・・・・
軽い音がする。障子からは日差しの明るさで部屋全体が明るい。
綺麗に拭かれた畳の上にきちんと正座し、白い絹の着物を一寸の隙なく着用する。
白い絹の手袋をした手では墨をする。
朔耶は墨をする作業は嫌いではない。ゆっくりと丁寧にしていくと墨は思い通りの濃さに変化する。最初は水の透明から、薄墨、濃墨と変わる。どれだけ濃くするかは、墨をする自分次第だが、濃ければ濃いほどいい。全てを覆い隠すような、拒絶するような、何かあったのに何もなかったように振る舞う色が朔耶は好きだった。
清めた水は時間をかけ墨に変える。墨を筆に付け、細長い紙に文字なのか、絵なのか、記号なのか、摩訶不思議なモノを書き込んでいく
サラサラと筆と紙の擦れる音が心地よく、無心で書いていく。狂うことなく丁寧に決められた通りに書いていく。
一つでも間違いがあると、本来の力は発揮されない。それどころか自分の身の安全が保証されない。間違いなく丁寧に書いていく。
時間も忘れ書き続けていると、突然、襖がバーンッと開き、慌てた様子の煌が現れる。
集中していただけに、突然の事に驚き、持っていた筆を強く紙に押さえつけてしまい「グシャ」となってしまう。
「朔耶!!大変だ!!」
まくしたてるような、鬼気迫る様子に只事ではないと感じ取った。
けど、それは一瞬で変わる。突然、現れた煌から遅れる事数秒、今度は東雲が現れて、煌の頭を思いっ切り叩いた。
「この、大馬鹿!!あんたの頭は油揚げで出来てんのっ!!霊符を書いている時は襖を開けるなとあれだけ言ってんでしょうがぁ!!」
「うっせぇ!!ガラ女!歌弥が大慌てで「朔耶様!大変ですぅ~」って言っていたんだ!一大事だろう!」
「最後まで確認してからにしなさいよ!!早とちりすぎんのよ!!」
二人の言い争いを見ていた朔耶は、それだけで我に返り持っていた筆をコトッと置いて、廊下でいまだに言い争っている二人の方に体を向ける。
「二人とも分かったから・・・・・・で、どうして大変なのか順に説明して?」
「だから、あれだよ!そう~~あ~~」
「あんたはお黙り!朔耶様、私が説明します」
ギッと睨む東雲に恐れをなしたのか煌は「あ゛~~」と言って、頭を掻いてしまった。
何か気まずい事があると頭を掻くのは煌の癖でもある。
「先程、火澄征一郎様がお見えになりました。客間にお通しし、お待ちいただいております」
「火澄・・・・・・・・」
━━━━━━━火澄征一郎・・・・・・・
その名前を聞いて、心臓が強い鼓動を刻む。忘れる筈なんてない。夢や妄想で片付けたいと何度思ったことか・・・・・・
けど、薬が見せ幻かもしれない。そう思い、過ごした。霊符なんて沢山あるから要らないのに、気持ちを落ち着かせる為に沢山書いてしまった。
相手の名前を聞いた途端、様子が変わった主を不審に思い、東雲と煌は顔を見合わせる。
「朔耶様?」
少しだけ遠慮がちに名前を呼ぶと、それに気づいた朔耶は東雲の顔を見る。
感情の全てを何処かに捨てた、一切感情の読めない表情を東雲達に向ける。
その顔は朔耶が何かを思い、考えても、それは願いが叶わないと思った時に現れる表情だ。
「・・・・・どうされますか?言い訳はこちらで考えます。火澄様にはお帰りいただきますか?」
「いや・・・・・・・いつかは会わないとと思っていた相手だから・・・・・・今、行きます。着替えを・・・・・・いや、このままでいい」
自分の今着ている着物を見て思い直した。持っているのは地味で正直、上等なモノはあまりない。
式服やこうした霊符を書く時は、それなりの良いものを持っている。そして、今、着ているものは絹の白い着物。真っ白でシミ一つない。これなら可笑しいと思われることもない。
立ち上がり、廊下に出る為に歩き出す。すると、東雲と煌は左右に分かれる。本当に、こんな時だけは息の合った動きを見て、少しだけ頬が緩む。
知った我が家の廊下を歩き、一つの襖の前まで来る。そこでは歌弥がお盆を持って左右にウロウロと歩いていた。
「歌弥?どうしました?」
「朔耶様!東雲姉さん・・・・・・」
少しだけ困った顔をした歌弥がこちらを見上げる。
「お茶をお出ししたのですが、お菓子も出した方がいいのか・・・・・あと、緑茶をお出ししたけど紅茶の方がよかったのかと悩んでしまって・・・・・」
自身なさげに項垂れて、告白する内容が少々可愛い内容なので、東雲は少しだけ笑い歌弥の頭を優しく撫でる。
「大丈夫ですよ。お茶ありがとうございますね。あとはこちらで対応するので、玄関の掃除をお願いしますね」
「えぇ、歌弥ありがとう。東雲の言う通り玄関の掃除をお願いします。お客様に帰られる時も気持ちよく帰っていただくように、綺麗にお願いしますね」
大好きな二人から褒められて、「玄関の掃除」と言う大役を願い出られたのだ。歌弥は下がった眉が段々と上がり、はにかみながらも嬉しそうにしながら「任せてください」と笑顔になる。
お盆を抱いたまま軽く、頭を下げるとそのまま玄関の方まで行ってしまう。
「・・・・・・・行きましょう」
歌弥に見せていた優しい顔は一瞬で無表情に変わる。
それは、東雲も同じだった。
果たして、この部屋からは、鬼が出るのか蛇が出るのか・・・・・・
朔耶は軽く息を吸い込むと襖の取ってに手置いて開いた。
最初に見えたのは間仕切り替わりの衝立だ。折り畳み式で、木や和紙を使った物は、畳と同じくらいの大きさだ。
そして、その向こう側に来客用のソファやテーブルがある。
「お待たせしました」
そう、声をかけて朔耶達は部屋に入る。すると、ソファに優雅に座り、お茶を静かに飲んでいた一人の男性がこちらに気付いて笑いかける。
仕立ての良い三つ揃えは黒茶色の細い縞模様に、臙脂の襟紐で垢抜けている。長身と体格の良さで洋装の良さを引き立てている。
切れ長の目や、高い鼻梁は端正な容姿で、そこに加えられた泣きぼくろが絶妙な色気を生み出す。
薄暗い場所で見た彼と、陽の下で見た彼とは雰囲気が全然違う。
けど、朔耶には忘れたくても忘れられない思い出を植え付けられた人物としてしか見れず、ほんの少しだけ後ろに下がってしまう。
朔耶の様子を機敏に察知し、征一郎はすぐに立ち上げたり挨拶をする。
「体調は大丈夫でしょうか?壬生雀院の当主殿?あの時は何も出来ずすみません」
軽く頭を下げる征一郎に、最初に声をかけたのは東雲だった。
「此方こそこちらから出向かわないといけませんのに・・・・・当主を介抱して頂きありがとうございます。すっかり体調も良くなりました」
「なら、よかったです。実は・・・・・仕事の依頼で来まして・・・・・当主殿と話をさせていただけませんかね?」
後ろに控えていた喪服姿の女性が、持っていた封筒を朔耶達に見えるように見せる。
すると、東雲はすぐに反応し朔耶の方を見る。
「朔耶様・・・・・・」
「・・・・・・東雲・・・・話をするので退出して下さい」
「・・・・・・畏まりました」
軽く頭を下げると、少しだけ違和感のある朔耶を何度か見ながらも部屋を出ていく。
すると、喪服姿の女性もテーブルに封筒を置くと、征一郎達に頭を下げて部屋を出ていく。
「・・・・・・・・」
「壬生雀院朔耶さん・・・・・まずは、謝罪をさせてください」
征一郎が一歩、一歩ゆっくり歩み、朔耶の前に来ると、落ち着いた声色で朔耶の名前を呼び、深々と頭を下げた。
「?!!ひ、火澄殿!!」
征一郎が近づいてきた時に、更に後ろに下がってしまった。そして、もう一度下がろうとした時に、突然の謝罪に足が止まってしまう。
「言い訳に聞こえるかもしれないけど、あの時は緊急措置だった。確かに、時間が経てば薬の効果はなくなる。けど、早く助けたかったから、発散させる為と言え、朔耶様に無体を働いたのは紛れもない事実・・・・・・すまなかった・・・・・」
誰かが自分に対して頭を下げることはほぼない。「お前が悪い」「なぜ、お前に頭を下げる必要がある?」と言われ、逆に私が頭を下げることの方が多かった。
だから、目の前の事に対してどう、接するのが正しいのか分からない。
朔耶は目の前で深々と頭を下げた征一郎をただ、見つめるだけだった。そして、この場に合う言葉が思い浮かばず、けど、何かを言わないといけないと、頭の中で色々と悩んだ挙句、出てきた言葉は素っ気ないものだった。
「大丈、夫です・・・・・分かりましたから・・・・・・頭を上げてください・・・・・・」
言葉を言うのに、相手を見ることが恥ずかしくて、顔ごと違う方向を見て話す。顔から火を吹きそうなほど熱く、きっと、真っ赤になっている。そんな顔を見られたくないのもあるのか、相手を見れない気持ちもあるのか、征一郎に向かって顔を背けた。
「ありがとう・・・・・・この事は私と朔耶様との秘密でいいですね?」
安心した様子で顔を上げ、先程の強張った声から一変、春のような温かい声色で朔耶に語りかける征一郎に朔耶は頷くしかなかった。
「よかった・・・・・立ち話も辛いでしょう?さっ、座りましょう」
笑った顔は朗らかで、心の枷がなくなったせいか更に清々しさもある。反面、朔耶の表情は困ったけど、何も出来ない自分に対する諦めの表情が垣間見える表情だ。
そんな、朔耶の様子を伺いながらもそっと、朔耶の側に来て、腰に手を置き、気づかぬうちに握り締めていた手を優しく触り、ソファまでエスコートする。
「!っ・・・・・・・」
頭で色々考えていたせいもあるからか、音もなく、征一郎が側まで来て、体をそっと触り、エスコートする事に驚き顔を上げてしまう。
征一郎と目が合い見つめ合う。笑っている目は何かがチラチラと見える。熱くて、何かを欲するようなモノが・・・・・・・・
嫌な気分はしない。けど、何かこそばゆくて、恥ずかしくなるような感じがして、朔耶は目を逸らしてしまった。
部屋の主は自分なのに、今だけは征一郎が主のような感じだ。案内されるまま朔耶は二人掛けのソファに座らされる。そして、何故か、征一郎も隣に座る。
「ぇ?」
思わず出た言葉に朔耶は気まずくなり、サッと顔を背けてしまった。
「・・・・・・あと、もう一つ謝らないといけないことがあってね・・・・・・・」
征一郎は朔耶の言葉を聞かなかったフリをして、背広の内ポケットから、白い布に包まれた物を取り出し朔耶の前に持ってくると、ゆっくり布を広げる。
「?!!あっ!!それは・・・・・」
それは、なくしたと思った銀細工の簪が出てきた。
「あの時は、朔耶様を無事に帰す事が優先だと思ってまして・・・・・返しそびれました。きっと、お探ししてましたよね?」
熱く、何かを欲するモノは消え、只、申し訳ないと思う気持ちの視線を向ける。
「はい・・・・・・」
探していたのは本当だ。あの後、パーティーの主催である羽佐間気船の社長にも確認した。
けど、そんなモノは届いてないと言われ、落胆していた。
「大事なものなんですか?瞳が潤んでますよ?」
「あっ・・・・・・すみません。その、簪は父・・・・先代当主が母に贈った物なんです。母の形見として譲ってもらったもので・・・・・・見つかって本当に良かった・・・・・・・」
無意識に襟元を掴み目を閉じてしまう。数少ない母親の形見がまた一つ、無くなることなく見つかり安堵する。
「そうですか・・・・・・そうなら尚更早く返さなければいけなかったですね・・・・・」
征一郎は包んでいた布を取り払い、簪を朔耶の束ねていたマガレイト結びの髪に差した。
「あの時も思いましたが、よくお似合いですよ・・・・・この簪の花は何かご存知で?」
征一郎の行動に驚き、反らしていた顔を思いっ切り征一郎に向ける。簪を差したままの手で、簪の細工を触りながら、優しい笑みをしているが、何か見え隠れする視線に戸惑う。
「いえ・・・・・分からないです。想像上の花でしょうか?」
「これは「ネリネ」と言われる花です。遠い異国・・・・・・一年中、真夏の国の花なんですよ」
「一年中、真夏?想像が出来ません。火澄様は物知りなんですね・・・・・・勉強になります」
四季がある我が国と違い、夏しかない国など想像が出来ない。けど、遠い異国ならそんな国もあるかも知れない。
朔耶は驚いたが、まだ知らぬ事を教えてもらい、何故か嬉しかった。自分の知らぬことを知っていて、教えてくれる人など周りには殆どいなかった。
それどころか、教えるのに意地悪されたり、叩かれたり、食事を抜かれることが殆どで、無条件で教えてくれるなどなかったから、こうして無条件で教えてくれることに嬉しさもあるが、少しだけ戸惑いもある。
「花言葉は「忍耐」や・・・・・・「また会う日を楽しみに」と言った言葉があります。父君は母君に会えることを楽しみにしていたのでしょう。かく言う私も、楽しみにしてました」
征一郎の言葉に朔耶は混乱してしまう。何故、楽しみなのか分からない。先代当主と母なら分かる。けど、火澄様が楽しみにすることなど意味が分からない。
朔耶が内心困り、どう、対応したらいいのか分からなくて固まっているのを分かりながら、征一郎は簪を弄る手を止めないまま、何かを思い出したように「あっ!」と言い、朔耶と向い合せになっていた体をテーブルの方に方向を変える。
やっと、征一郎の視線や手がなくなったことに安堵するが、何かを思い出した言葉に少しだけ不安を覚える。征一郎の視線の先には、先程の付き人が置いていった封筒があり、封筒は歪に、一部分だけが盛り上がっている。
征一郎は封筒の中から一つの箱を取り出す。
桐箱で何が納められているかも分からない。一体、何が納められているのか、検討もつかない。
「お詫びと言ってはなんですが・・・・・・・朔耶様に似合うと思ってついつい・・・・・・」
蓋を取り、中身を見せる。中に入っていたのは何かの花と花を形どった装身具だ。
銀細工の葉や蔓があり、花弁は白地だけの花弁と、同じく白地の花弁と紫の花弁が入った陶器を使用し、貴重な真珠まであしらってある。
「こ、れは?火澄様?」
見ただけでもわかる。とても高価で「詫び」の対価としては余りにも分不相応な品だ。
「是非とも、朔耶様に身に着けて頂きたいと思ってしまい・・・・・受け取って貰えませんか?」
笑顔で言われてしまい、朔耶は驚いた。
「そんな!こんな高価な品・・・・・・とてもじゃないですが受け取れません!!」
「いいえ、是非、受け取ってください。それに、これからする「仕事」の依頼にも関わる事なので・・・・・・」
首を左右に振り否定したが、「仕事」と聞いて動きを止める。
「仕事?」
「はい。是非、お知恵を貸していただきたい・・・・・・私ではやく」「長老殿達っっ!!言ったでしょう!!朔耶にはわたっ・・・・・・・・・あれ?」
「「!!」」「?」「「「ぇっ?」」」
突然の乱入者に朔耶と征一郎、そして、乱入者である響士郎の三人は、三者三様の驚きと制止をしてしまう。
「響士郎義兄様?」
「朔耶?あれ?長老殿達でない?」
「長老殿達?響士郎義兄様?」
「響士郎様ぁ~~・・・・・って、あ・・・・遅かったぁ~~~」
遅れてやって来たのは半分涙目の歌弥だった。息を切らし慌てた様子で部屋の中に入って来た。
そして、固まる三人を最初は見ずに、切羽詰まった声を出し、響士郎の名を呼んでいたが、雰囲気の可笑しい様子を察知し、よくよく見て更に悲壮感を漂わせる。
歌弥の様子を見て、「不味い」といち早く察知した響士郎は何とかする。
「あ~~慌てたからか喉が渇いたなぁ~・・・・」
わざとらしく咳をして場をつくろう響士郎に、助け舟を出したのはまさかの征一郎だった。
「私も、何だか喉が渇きました~~歌弥さん!お茶のお代わりいいですか?」
二人して変な抑揚の付け方をした、舞台台詞みたいな言い方に、目をまん丸にした歌弥だったが、いち早く察知し、頭をすぐに下げる。
「只今、お持ちします!!」
風を切るようにその場から走っていく。その機敏な動きに、朔耶は益々混乱してしまう。
「・・・・・・すまなかった。仕事の事で話をする為に来たのだが、歌弥と話をしていたら、変に誤魔化されてね・・・・・・また、長老連中が来たのかと思ったら頭に血が昇ってしまって・・・・確認もせず部屋に入ってしまった・・・・・貴方もすみません。お見苦しいところをお見せしました」
大島の対の着物姿の響士郎は、征一郎に向かい頭を下げる。
それみ見た征一郎は持っていた箱を朔耶に押し付けるように持たせると、すっと、立ち上がり頭を下げる。
「壬生雀院響士郎殿とお見受けする。私は火澄征一郎と申します。本日は朔耶様に仕事の依頼で参りました」
「火澄?あぁ、武の貴族の火澄ですか?武の貴族が何ゆえに壬生雀院家に依頼される?」
「依頼」と聞いて、響士郎の雰囲気が一気に冷たくなる。
そうだろう。武の筆頭貴族の火澄家が、呪術の筆頭である壬生雀院家に仕事の依頼をするのだ。聞いたことのない話だ。
だが、どこ吹く風を決め込む征一郎は、そんな雰囲気に怖気づくことなく話を進める。
「きっと、響士郎殿の仕事の依頼と私の仕事の依頼は同じかと思います・・・・・・そう、例えば・・・・大塚卿相の事とか?」
「!!ほぉ・・・・・話を聞きましょうか?火澄殿?」
響士郎の不敵な笑みに対して、征一郎は満面の笑みで答える。
「朔耶・・・・すまなかったね。置いてけぼりをしてしまって。今から私のする話と、火澄殿の仕事の話は同じ相手だ」
「はい・・・・・・響士郎義兄様・・・・・」
朔耶は無理矢理、押し付けられた箱を何故か胸元に持っていき自分に押し付ける。
話が全く見えない。二人は理解しているが、私は分からない。大塚卿相?確か外務大臣の筈。そんな人が仕事と何の関わりがあるの?
不安が増すばかりだ。無意識に縋るように抱きしめている箱の中身は確か「仕事」に関わると言っていた事を朔耶は思い出す。
「歌弥がお茶を持ってくる。話はそれからだ」
「はい、分かりました」
朔耶はただ、響士郎の指示に従うしかなかった。
当主と言われても決定権も何も無い形だけの当主だ。お飾りの当主で決定権も何もかも響士郎が持っている。
朔耶は言われたことをするだけ。そこに、感情も何も無い。
征一郎には見せなかった、感情の一切を取り払った能面のような無の表情なのに、何処か寂しそうで、それでいて、諦めてもいるような表情に征一郎は眉を寄せた。
だが、そこで、何かを言っても仕方ない。
征一郎は封筒を手に取ると、朔耶と座っていた二人掛けのソファから、一人掛けのソファに移動し座る。
響士郎はその行動を、先程からの不敵な笑みを崩さないまま見つめるが、征一郎が座った事を確認すると、自分も一人掛けのソファに移動し座る。
誰かが言葉を出すこともなく、時計のコチ、コチ・・・・と鳴る音だけが部屋に響く。
それは、歌弥の代わりにお茶を持ってきた東雲が部屋に入り、退出するまで続いていた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
あわてん坊のサンタクロースならぬ、響士郎義兄様
天然なのか、策士なのか・・・・・・
そして、征一郎の「仕事」と響士郎の「仕事」は一体、なんなのか?
そして、謎の「大塚卿相」ちなみに、卿相(けいしょう)とは、大臣など重臣を指す言葉の意味です。
そして、やたら高そうな装身具は一体「仕事」と何の関係があるのか?
Rの話はちゃんとあるのか?(そちらはもう少し待ってください(笑))
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