闇千夜の系譜・櫻花の理(ことわり)〜鬼は永久(とわ)に最愛の女を探し彷徨う〜

和刀 蓮葵

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波紋

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そろそろ、後半に行く?
やっと、盛り上がるよ

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

目が覚める。朝の冷たい空気が部屋の隅々まで覆い尽くす。
行燈の仄かに揺らめく蝋燭の炎が、和紙越しに見える。
朔耶は少しだけ躊躇ったが、ゆっくりと起き上がり、布団に乗っていた羽織を着て起き上がる。
「・・・・・・・・」
朝のせいか頭が上手く働かない。ぼんやりした状態を良しとしないと、心の中で言い聞かせていると、頭の中の霞は段々と晴れ、はっきりとしたものになる。
そうなれば、これから行う朝の日課を速やかに決行出来る。

朔耶は霞の晴れた頭になった途端、布団から起き上がり外の井戸に向かう。
この身を清めるために。一日の始まりの恩恵を貰い受けるために・・・・・・


寒空の下での清めが終わり、朝餉を頂く為、部屋で新聞を読んでいる。朔耶は大新聞と小新聞の二つを読んでいる。政治の内容が濃い大新聞と、庶民的で巷の噂や市井の事件・娯楽が主の小新聞。
朔耶にとってはどちらも大事で必要なものだが、別々なので、いつかこの二つの新聞が、一つになれば楽になるのにと常々願っている。

政治、特に大塚卿相の事は何も書かれていない。屋敷に出向いてから今日で二日目だ。
気が付いたら自分の布団で着替えて寝ていた。
所々、霞んでいるが覚えている。

大塚卿相の屋敷の地下にある、悪魔召喚の儀をする為の祭壇や床に描かれた円陣。
何かに操られていたのか、それとも部屋に漂う怪しげな香のせいか、可笑しくなった人々に襲われかけた。
既の所で火澄様に助けられ事なきを得たが、自分が香のせいで可笑しくなってしまった。
そのまま馬車に乗せられその後は・・・・・・・

火澄様に再び体を許してしまう。いくら緊急の措置と言え、未婚の、婚約者でも許婚でも何でもない。ただの仕事の関係者・・・・・
けど、体に纏わりついた気持ち悪い手の感触や、無理矢理、耳に捩じ込まれた舌の粘ついた感触をいち早く書き換えて欲しいと願ってもしまった。
火澄様じゃないと嫌だ。火澄様じゃないと私は苦しい、心が許さないと、何処かで思っていた。
そして、願ったことが叶ったのだと思った時、口では「嫌だ」と言いながらも心は何処か喜んでいた。

朔耶は新聞を読みながらも、馬車の中で行われた行為を、断片的に思い出す。
あまりの行為に、赤面し、耳や首筋をも赤く染め上げてしまう。
インクが付いてしまうのも気にせず、新聞で顔を覆ってしまう。
「っぅ~~~~~あれは、緊急事態!そう、医療行為よ!その、一種よ!!」
何故か声に出して、思い出した事を正当化する。そうしなければ「あんな行為」をすること自体、可笑しい。変な香のせいで可笑しくなってしまったのだ。もとに戻す為に必要な行為で、他意はきっと、絶対にないと思いたい。

朔耶はくしゃくしゃになった新聞を隣に置いて、手袋をしている手で手団扇にして、顔の火照りを鎮めるために扇ぐ。
何とかして顔を元に戻した頃に、東雲の声が襖越しに聞こえてくる。
「朔耶様・・・・・朝餉をお待ちしました・・・・」
静かに襖が開き、膳に乗った食事が運ばれる。
蕪の摺り流しの汁物に、鳥と大根を炊いたもの。青菜の白和えが乗せられている。
「今日の白和えはきっと上手く出来ていると思おますよ。歌弥がとても自信ありげに自慢してました」
「そう、それは楽しみだわ」
東雲の何気ない会話に内心助けられながら、朔耶は普段と変わらないようにと、心掛けながら接する。
自分の目の前に置かれた膳に手を合わし、感謝すると箸を持って、早速、白和えを食する。
最初の頃は野菜の茹ですぎで歯応えはなく、豆腐の水切りも甘くてべちゃべちゃの白和えだったが、自慢していただけのことはある。今日のはとても上手に出来ていて、完璧に八重さんや東雲の味を習得している。
「歌弥に伝えておいて下さい。とても美味しく出来てますよ、と・・・・・」
飲み込み、感想を伝えると、東雲は我が事のように喜んで頷く。
「はい、そのようにお伝えしますね」
その言葉を聞き、朔耶は膳に乗せられた朝餉を平らげていく。最後は温かい湯気が揺らめくお茶を飲み一息つく。

「・・・・・火澄様からは何かありましたか?」
「いえ・・・・・とくに・・・・・」
歯切れの悪い答えをする東雲を見て朔耶は膝に置かれた湯呑に視線を移す。
馬車の一件で気を失い、気が付いたら屋敷に戻っていた。自分の布団に眠っていた事に驚いてしまった。
あれから、火澄様の屋敷に使いをだし、会えないか頼み込んだが、対応してくれた千歳さんが「今は無理」と言われて帰ってきたのだ。
その時、一つの封書を預かった。中身は簡潔に「今は話すことは出来ません。時が来たらいずれ分かるので、それまでお待ち下さい」とだけ、書かれていた。

「時が来たら」とあるが、その時がいつなのかは分からない。
あれだけ、親身に対応してくださったのに、仕事が終わればこんなにも簡単にあしらわれる。
・・・・・・所詮は仕事だけの繋がりだったのかと、心の中で思ってしまう。
虚しさはあるが、それ以外も渦巻く。けど、その感情を例えられないうえに、説明が出来ない。
だから、解消出来なくて段々と溜まり、変な感情が次々に生まれる。
いけない事と分かっているし、所詮、人とはそんなものと分かっているのに、「火澄様」なら違うと何処かで否定する自分がいる。

「・・・・・そうですか・・・・・」
火澄様の仕事は分からないが、きっと仕事が終わったのかもしれない。けど、私はまだ、終わってない。大塚卿相の屋敷の地下にあった祭壇と円陣の謎を解決しなければいけない。
その事もあり、大塚卿相の屋敷の近くを探ってもらった。
驚いたことに警察が出入りしており、立ち入ることが出来なかったのだ。
そうなれば屋敷に忍び込むことは無理だ。そうなると壬生雀院家の力を使わなくてはいけない。

長老連中や壬生雀院が許可を出すのも怪しい、何より頭を下げなくてはいけない。下げるのは慣れているがその後が・・・・・・
ため息しか出なくなる。
「・・・・・・朔耶様・・・・・もう一度、火澄様にお会いできないか尋ねようと思います。今しばらくお待ち下さい・・・・・」
「ありがとう東雲・・・・・私もお会い出来ないか働き掛けます・・・・・苦労を掛けますね」
式神であるが、東雲は私にとって母であり、姉であり、友であり、仕事仲間でもある。
そんな東雲に心配を掛けさせたくなくて、朔耶は静かに笑う。
「・・・・・・食事も終わりましたので膳は下げますね・・・・何かありましたらお呼びください」
朔耶に向かい礼をすると、東雲は膳を持って部屋を出ていく。
その後ろ姿を見て朔耶はため息をついた。
 
心配をかけさせたくないのに・・・・・かけてしまう。不甲斐ない自分が申し訳ない。
どうしたら強い当主になれるのか。火澄様は次期当主と言われている。
自信に満ちあふれ、堂々と立派な御人だ。それに比べて自分は・・・・・
辿ってきた道に違いがあるのは理解している。けど、火澄様の自信が私にも欲しい。
今は少しで構わない。自信が欲しいのだ。壬生雀院家の当主だと自負できる自信が・・・・・

所詮は無い物ねだりだとしても・・・・・
障子から差し込む朝日の光が火澄様なら、私は箪笥の影。光と影は相は容れない。光があれば影が生まれる。その逆も然り。
この世は陰陽で成り立つ。火澄様のような光がこの世を盛り立てる。それは、私のような影がいるからだ。
火澄様を盛り立てるなら、私は影になって付き従うのがいいのかもしれない。

冷めてしまった湯呑から、お茶を飲む。その冷たさで自分のなかにいる渦巻く黒い感情を抑え込む。
この、折り合いの付かない感情を無理矢理にでも纏め上げる。そうしなければ自分が可笑しくなりそうだ。
理不尽な事は散々された。その度に折り合いをつけて行った。たとえ、自分に非がなくても。
今回も、「そう」だと思えばよい。
体は触られただけ。大事なものは「まだ」無事だ。

朔耶はもう一度、冷たいお茶を飲む。
ため息をして、障子の方を見る。その差し込む朝日を目を細めながら見る。
自分の中にある感情を無理矢理抑え込み、何事もなかったかのように振る舞う事は慣れている。
今回もそうすればよい。そう、そうすればいいんだ・・・・・・・
再び、ため息をした。そのため息は一体、何を思い、何に馳せてのため息だったのかは朔耶自身もよく分かってなかったのかもしれない。



仮面舞踊から五日が過ぎた。
再び、火澄家に使いを出したが、門前払いにも近い対応をされてしまった。
諦めることが出来ず、だからといって何もしない訳にもいかず、この話を持ってきた響士郎義兄様に、未だに警察が出入りする、大塚卿相の屋敷に立ち入る事を許可出来るように頼み込もうと支度していた時に、慌ただしい足音が聞こえてくる。

「朔耶様!!朔耶様!!」
普段は大人しく、色々と気遣いのできる伊勢いせがスカートのおかげか大股で、足音など気にすることなく廊下を走ってくる。
襖を勢いよく開けて、中にいた朔耶と東雲は普段の伊勢と違う様子に訝しむ。
白いハイネックにピンタックのブラウスに、海老茶色のロングスカートの装いは職業婦人のようで、知的な雰囲気を生み出す。
そんな伊勢は、顔を赤くしたり、青くしたりしている。
手にはくしゃくしゃの新聞を握りしめている。
「伊勢?どうしたのですか?そんなに血相を変えて・・・・・・・たしか、今日は街に出かけていた筈では・・・・・・・」
普段の様子と違う伊勢に朔耶も東雲も驚く。

「朔耶様!!街にどころではないんです!コレを読んで下さい!!大塚卿相のことが書いてあるんです!!」
「「えっ!!」」
二人の驚いた声が重なる。東雲が伊勢から新聞を貰うと、くしゃくしゃの新聞を広げる。
大きく「号外」と見出しのされた文字の下に、外務大臣・大塚省平しょうへい逮捕の文字が連なる。
「逮捕!なんでまた?」
「分かりません。街中はこの号外で驚いてました。新聞の内容も外国との違法取り引きとしか書いておらず・・・・・・」

詳しい内容も分からない。けど、警察が大塚卿相の屋敷にいたのは理解した。この事が原因なのかと思ってしまう。
けど、ますます、屋敷に立ち入る許可が下りるのか難しくなるのかもしれない。
「八方塞がりね・・・・・・響士郎義兄様の所に急いで向かいます。東雲、準備を急いで・・・・・」
東雲に急ぎ準備をしてもらおうとした矢先、又しても廊下から駆けてくる足音がする。
「朔耶さま━━!東雲姉さま━━!」
今度は歌弥の声がする。こちらの声も切羽詰まった声だ。
「歌弥!!何事・・・・・・えっ?」
廊下に立っていた伊勢が、駆けてくる歌弥を見て何事かと聞いている。だが、しばらくして驚いた声を出す。

その声を聞いて朔耶と東雲も顔を合わせる。伊勢の様子が一瞬で変わったのだ。
歌弥の紅潮した顔は、少しだけ喜んでいるようにも見える。
「朔耶!火澄様がお見えになりました!!」
「「え!」」
東雲と又しても声が重なる。歌弥から遅れること数秒、中折れ帽を被り、窓枠格子の鳶色の三つ揃え姿の征一郎が姿を現す。
「色々とお待たせしました」
帽子を外し、軽く一礼し朔耶を見る。少しだけ申し訳なさそうに眉を下げている。
「・・・・・・」
新聞を持った手が震える。この五日間何も出来ず、会いに行っても門前払い。
火澄様にとって私は何だったのだろう・・・・と、何度、己に聞いたことか・・・・・
「お会いしとうございました・・・・・火澄様」
「遅くなりすみません。大塚卿相・・・・・大臣ではないので大塚省平についてお話させて下さい。そして、今後のことも・・・・・・」

遅くなった事に対しての事か、もう一度、深々と礼をする。その後、お付きとして付いてきた千歳と万次郎も朔耶達に同じように礼をする。
「顔をお上げください。私も色々とお聞きしたいことがありました・・・・・・・伊勢、火澄様達を客間にお通しして。歌弥はお茶の準備を」
「はい」「畏まりました」
東雲と歌弥が返事をする。歌弥は急いで台所に小走りで向かう。同じく廊下にいた伊勢は「こちらです」と客間に三人を案内していく。

「朔耶様?お着物はこのままで良いのですか?それとも変えられますか?」
朔耶が着ている着物は昆布茶色の三筋立で華やかとは言い難い。
「・・・・・・これで構いません。他にありませんから」
火澄様から頂いた着物は見るも無残な姿に成り代わった。だが、その姿を見た千歳が「小物なら・・・・」と愛らしいつまみ細工の簪に変えてくれた。
普段使いが出来ように華美にならず、さりげなくお洒落が出来るように。
「髪だけ・・・・」
小さな鏡台に視線を移す。朔耶の行動に東雲は少しだけ微笑えむ。
「はい、畏まりました。整えましょう」
朔耶のいじらしい考えに東雲は微かに頬が緩む。朔耶を鏡台の前に敷かれた座布団に座らせると、引き出しを引いて中にある物を取り出す。
櫛や紐、そして、淡い桃色の小さな風呂敷に包まれた物。

解いた髪は艷やかな黒。その髪に櫛を通す。
すっ、すっと軽やかな音をさせながら櫛が通る。さらさらと耳元で音がする。その音を聞きながら朔耶は目を閉じた。昔から髪を触られるのは好きだ。幼い頃は母親の手で髪を整えられた。
大きなリボンを使った髪型がお気に入りで、よくそれを願いしてもらった。
その手は東雲に代わり、東雲も母と同じように優しい手つきで髪を梳いていく。

髪を二つに分けるとそれぞれ三つ編みを作り、紐で先を結ぶ。その二つの三つ編みを交差して朔耶の頭にぐるりと巻きつけていく。
そして、風呂敷から若葉色の花が咲いた簪を取り出し、痛くないようにそっと刺す。
「朔耶様?終わりましたよ」
「ありがとう東雲・・・・・・可笑しくないかしら?」
東雲に声をかけられて、閉じていた目を開き、鏡に映る自分を見て、朔耶は鏡越しの東雲に問いかける。
「はい、大丈夫で御座いますよ。髪は外巻きにして簪がよく見えるようにしました。さぁ、早く行きましょう」
「そうね・・・・・」
朔耶は立ち上がり自分の部屋を出ていく。そして、向かう先は客間だ。
「聞きたいことが多すぎる・・・・・・」
なぜ、こちらから連絡しても対応してくれなかったのか。大塚卿相の逮捕の事も。
多くの謎を解き明かす為、朔耶達は答えを持っている征一郎達の所に向かった。


「連絡が出来ずすみません。どうしても秘密裏に進めたかったので朔耶様には何も言えず・・・・本当、申し訳ない」
深々と頭を下げる征一郎と、戸惑いながらも受け取る朔耶。
征一郎の頭を下げる行為に倣い、お付きで付いてきた千歳と万次郎も頭を下げる。
「頭をお上げください。色々と事情があったのは分かりました。今日はその事を教えて下さるのですよね?」
朔耶は戸惑いながらも征一郎達の誠意を受け取る。そして、このままでは話が進まない事も分かっているので、次に進む為に頭を上げるように促す。
「ありがとうございます朔耶様。今回の逮捕の件で驚いたと思うでしょう」
「はい、この逮捕も火澄様のお仕事に関わっているのですか?」

重要な人物が逮捕されたのだ。驚く以外あるのだろうか?
そして、なぜ、逮捕されたのか気になる。新聞には「違法取り引き」としか記載されてない。
もし、叶うならば教えて欲しい。そして、私は私の仕事を出来るように取り計らってもらいたい。
「はい。父の、火澄家当主の命令で・・・・・遡ればその命は、天であらされる方の命でもあります」
━━━━━━━天とはすなわち、秀旭ノしゅうきょくの皇國こうこくの頂点である、天皇の事を指す。
「・・・・・・そうですか」
天皇からの命は絶対だ。何に変えても、絶対。
そんな、尊き方からの命と、今回の大塚卿相の逮捕が結びつかない。

「我々の國に、人の尊厳を蝕む、強いては男女のまぐわいを増長させ、堕落させる薬が外国から来ている事を嘆いた天は、我々にその調査、そして、後ろで手引きしている人物の逮捕の勅命を受けました」
少しだけぬるくなった茶を飲み、多少渇いた喉を潤し、征一郎は話を続ける。
「調べてる内に外国から、砂糖の原料として植物が多く輸入されているのが分かりました。その後押しをしているのが大塚省平でした。その植物は砂糖の原料で間違いないのですが、ある、特殊な方法で精製すると、いま、華族を中心に出回っている「アフロディーテの雫」の材料になる・・・・・・・朔耶様もアフロディーテの雫の悪質性はご存知でしょう」

その悪質性は知っている。二度も経験したのだ。後には残らないと言われているが、その薬を体内に摂取してから効果が抜けるまでの間、苦しくて仕方なかった。
その、二度とも火澄様に・・・・・・
征一郎の顔を見るのが耐えられなくなり、朔耶はサッと、顔を伏せる。
「・・・・・・はい・・・・・」
今にも消えそうな声で辛うじて返事をする。そんな朔耶を見て、東雲は少しだけ首を傾げる。
「・・・・・意地の悪い事を言ってすみません・・・・・・仮面舞踊で私が大塚省平に話した内容を覚えてますか?「砂糖」や「輸入」と言ったのですが?」
「はい、覚えてます。少しだけ強調されていたと記憶してますので・・・・・・」
不思議だった。なぜその単語を強調していたのか。けど、今、その謎が解けた。
「そして、裏を取るため二人になって色々と話したのが、あの、仮面舞踊です」

たが、その後、私の軽率な行動で大変な事になってしまった。でも、そのおかげでなのか私の仕事でもある「悪魔召喚の儀」をしている場所を探し出せる事が出来た。
「内容は分かりました。逮捕する為に大塚省平の屋敷を警察が取り囲んだりしていたのも納得です」
「はい。私の仕事はある程度、終わりました。けど、朔耶様はまだですよね?引き続き私はお助けしたいと思います。実はまだ、私の仕事は完結してないのですよ」
「そうなのですか?」
驚いた。本丸である大塚省平を逮捕出来れば、解決するのではないのか?
朔耶は驚き、征一郎の顔をまじまじと見てしまう。少しだけバツの悪い顔をし、征一郎は言葉を紡ぐ。
「大塚省平の家族、関係者は軒並み拘束出来たのですが、一人だけ取り逃してしまったんです。それが一人娘の「麗子れいこ」です。ですが、不可解なんです。麗子は一人ではあまり行動出来ない筈なんです」
「何故ですか?」

何かを考えているのか、火澄様はソファの背もたれに背中を預け、脚を組みため息をする。
「二年前の事件を覚えてますか?大臣の娘が女学校の帰りに拉致され、足を歩けなくさせられて、顔にも傷を付けられた事件です。その、犯人は捕まり、既に死刑にされてますが、その被害者が、大塚麗子・・・・今、足取りの掴めない人物です」

覚えている。とても残酷な事件だったと新聞を見て思った。そして、孝子様が来て笑いながら「お前が代わりになれば良かったのにね~」と指を差しながら言った事を・・・・・・

・・・・・・あの時、屋敷で見た車椅子の人物はもしかしたら・・・・・
「夜会の当日、麗子さんがいた事は確認出来てるのですか?」
「・・・・・はい。私の目でも確認出来てます。そもそも、その、麗子本人が朔耶様がいた場所を教えてくれたのですよ・・・・・」
「その人は車椅子に乗って、布を被ってましたか?」
「えぇ、そうです。もしかして会ったことがありますか?」
やはり、あの人は麗子本人だった。なら、なぜ地下の場所を教えた?本来なら隠したがるはず?
例え、本人が父親の悪行を知らなくても、父親からきつく立ち入る事を禁じられているはず。
そんな場所に立ち入る事を許した?

「はい。その女性に地下に入ることを強制されて入りました・・・・・あとは、ご存じの通りです」
「そうですか・・・・・実は、あと一つ気になる事柄があります・・・・・大塚邸の庭から大量の犬や猫の死骸が見つかりました・・・・・」
「悪魔召喚の儀には生贄が必要です。もしかしたらその動物が犠牲になったのかもしれません・・・・・・火澄様・・・・・・」
このままではいけない。早く、行動をしなければ動物から人に被害が移る。

朔耶は意を決して、征一郎に向かって真剣な顔を向ける。
「火澄様。どうか、私に大塚邸に立ち入る事をお許しください。きっと麗子さんは戻って来ます」
「なぜ、断言出来るのですか?・・・・・・もしかして、地下の秘密を既に理解しているのですか?」
征一郎は朔耶の顔を見る。真剣な表情はあの時、呪術を使用していた顔と同じ。
静かな決意を秘めた顔は、凛として清廉。しかし、どこか刀のように鋭い視線は、何者も一刀両断しそうなほど鋭利だ。

「・・・・・・壬生雀院家の当主、壬生雀院朔耶として理解しているのですね?」
「はい」
部屋に沈黙が訪れる。刻一刻と自体は悪い方に進んでいる。それは征一郎も朔耶も理解している。
警察と手を組んでいるのは征一郎だ。警備をしている屋敷に、朔耶を連れて伴うぐらいなんてことない。
呪術的な事はさっぱり分からないが、その、呪術に詳しい朔耶が危険を訴えている。
これは、指示に従ったほうがいいだろう。

「・・・・・・分かりました。なら・・・・・・・」
言葉を続けようと思っていた時、窓をコツコツと弾くような音が聞こえる。
一斉に窓に視線を向ける。
そこには一羽の鳩がおり、嘴で窓をコツコツと突いている。
「アーチャー?どうしたのよ!」
いち早く動いたのは千歳だ。窓を開き、鳩のアーチャーを招き入れる。足に巻き付けた筒から紙を取り出し中を一気に確認する。
千歳の顔は段々と蒼白になる。只事ではない様子に征一郎は恐る恐る声をかける。

「千歳?何があった」
「・・・・・若・・・・・大塚省平が獄中で亡くなりました」
「「!!」」
千歳の感情をなくした声から紡がれた言葉は、部屋にいる全員の驚きを生み出した。
その破壊力は想像以上だ。一番、重要な人物が、見張りのいる獄中で亡くなったのだ。
そんな事、誰しも予想しない。けど、そこですぐに冷静になったのは朔耶だった。

「・・・・・・もしかして・・・・・」

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

前も説明しておりますが、大塚卿相の「卿相」は高官の総称です。名前ではないです。本名は省平です。まぁ、もう関係ないですけどね。そして、ここで重要な人物「麗子」。この麗子が今回の鍵ですかね?
物語はいよいよ盛り上がりに近づきます。そして、朔耶様の力を発揮してもらおうじゃないか!!
征一郎は使い物になるのか?指をくわえて見てるだけか?

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