ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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色々とあった演習も終わり、指揮者の七海が案の定、報告書を書いていなかったことを知り、鬼のように攻め立てて、またもや期限ギリギリで提出することになった。
「絶対、虎次郎に指揮者なんかさせたらいけない」
「でも、虎一人で指揮者をしている時は、ギリギリな期限でなく、早々と提出してたけど?」
「・・・・・・はい?」
式部からのカミングアウトに目を白黒してしまった。

それから普段の日常になり、学生の庵に稽古や学習指導、吸血鬼が現れたら討伐と変わらない時間を過ごす。
変わったのは、第一室の隊長達と第二・第三の長谷部・藤堂少佐の階級が変わったことだ。七海や相澤、長谷部、藤堂は中佐に、式部は大尉にそれぞれ変わった。
藤堂元帥の話によれば、上層部が進言してきたようだ。それは演習が終わって間もない頃だ。


ベルナルディ中佐からの警告を伝えた夜神は、元帥達を見る。
ずっと上層部のやり方に異議を唱えていたが、強く出ることができず、くすぶっていた藤堂は深いため息をして、ソファに深く体を沈み込ませた。

「何を」したいのか、「何を」目論んでいるのか分からない。その人物がで動いているのかで動いているのかも分からないのだ。
「夜神大佐、答申委員会とうしんいいんかいで話した事は覚えているかね?」
「はい・・・・・・」

軍事基地の規模やライフライン、そして「スティグマ」。別の委員会では吸血行動の種類や、皇帝の鎖の力。嫌でも覚えているのだ。

夜神は無意識に首筋に手を当てる。いつの間にか「帝國」や「皇帝」の話しをする時にしているのだ。
まるで「何か」を隠すために、手を当てているとしか考えられないのだ。だが、それは夜神は分からない。
わかっているのはずっと見ている、七海と庵ぐらいだろう。

「分かっているとは思うが、答申委員会で話した事は、他言無用だ。それは大佐も我々もだ。それを分っていて、しているのであれば処罰対象になる。上層部の人間でもだ・・・私は揺さぶりをかけてみる。膿を出すことが出来ればいいが、万が一の事を考えて、私一人で対処する」
「お待ち下さい。私も同行します」

七海が藤堂の言葉に驚いて、同行の許可を貰おうとする。
「だめだ!七海少佐は軍に居てもらわないと困る。分かっているだろう?こんな汚れ仕事は我々父親おやじの仕事だ。七海少佐は良き理解者だ。そんな理解者を見す見す手放してたまるか!」
藤堂元帥は両足に置いていた手で、上着の裾をシワが出来るまで握る。

「藤堂元帥・・・・・そんな風に思って下さってありがとうございます。不肖、七海虎次郎は元帥の手足となり役目を真っ当します」
七海は元帥を真っ直ぐ見て誓いをたてる。それを見ていた夜神も、同じく元帥を直視する。
「藤堂元帥。七海少佐の足元にも及びませんが、わたくしも同じ気持ちです。ただ、今回のこの件は私の・・・・・」

それ以上、続けられなかった。以前から確執はあった。それを最初に感じたのは、先生が皇帝に殺された時からだ。
そして、自分が拉致されて、皇帝に陵辱され帰ってきてからの委員会。そしてこの演習。全て「夜神凪」に絡んでいる。

唇を噛みしめて、悲痛な顔になる夜神に、藤堂は静かに応える
「凪、それ以上は言わなくていい。もちろん分かっているよ。凪も虎次郎と同じ気持ちだとね。だからこそ、一人でも多く同士は居てほしいんだ。だから私の一人で対応する。これは決定事項だ」

最初は優しかったが、後半は静かにだが、その声色は何かを覚悟して決めた、強い威厳に満ちている。
まるで、陣頭指揮をしている時のような声だ。
「行動は決まった。これから色々と詰めていく。長谷部室長と七海中将以外は退出するように。以上だ!」
それ以上の発言は許さないと、声と態度に出ているのを感じて七海と夜神、庵は退出せざるおえなかった。

「分かりました。それでは失礼いたします」
七海が開口一番に挨拶する。それに続き夜神、庵も挨拶して部屋を出ていく。

後に部屋に残った藤堂元帥、長谷部第一室長、七海中将の三人は話し合いをしていく。後に招集された相澤射撃教官を交えて遅くまで話し合いを続けた。それは特に、今後の自分たちの動き方についてだ。

廊下には三人の靴音だけが聞こえる。そこに今にも消えそうな声で夜神は話す
「私のせいなのかな?私がへましなかったら、元帥達もあんな事にはならなかったと思うの・・・・私のせいなの?」
「元々、確執はあったんだ。それを追求する次期がかぶっただけで夜神のせいではないと思うぞ。そんなに悩むとハゲるぞ?」
「・・・・・それは慰め?」
「いや、本心」

夜神は一瞬悩んだが、それは虎次郎なりの気遣いだと思い素直に受け取ることにした。
「ハゲるのは困るので、悩まないようにする」
「それがいいさ。それにしても庵青年はすまなかったな。とんでもないのに巻き込んでしまって。まだ、学生なのに」
庵に話を振られて庵は一瞬驚くが、すぐにもとに戻り返事をする。
「いえ、自分は大丈夫です。お二人こそ大丈夫なんですか?」
「俺らは大丈夫だよ。ただ、学生の庵青年が関わったことで、今後どうなるのかが心配なんだよな・・・・・これはもう後期のテストで一位取って、堂々と卒業するしかないな」

七海は無精ひげを撫でて、ニカッと笑って庵を見る。
「虎次郎?テストが関係あるの?」
夜神は七海の意図がわからず聞いてみる。すると七海はため息をしてこたえる
「テスト結果十位の人間が一位になってみろ。素晴らしい人材を捨てると思うか?俺ならしないね。とりあえず様子見をして「ここぞ!」で話を持ちかける。その後はなるようになる。だから、庵青年は死ぬ気で頑張って一位をとれ!わからないことはどんどん聞いてこい!教えてくれる先輩達を湯水のように使え!いいか?」

いつになく真剣な声で、七海は庵に話していく。それを聞いて庵は目を見開き頷く。
「分かりました。今まで以上に頑張ります。わからないことは教えて下さい。稽古も同じように頑張ります」

庵の気迫に満ちた声に夜神は驚いたが、そのやる気に嬉しくなって微笑む。
「うん、頑張ろう。絶対一位とって安心しょう」
「はい」

ある意味、微笑ましい光景を見てから七海は口を開く
「夜神、庵青年と少し話をするから、先に行ってて欲しい」
「・・・・分かった。変なこと教え込まないでよ?」
「安心しろ。カンニングの方法なんて教えないよ」
笑って手をヒラヒラさせる。夜神は心配になり、何度か振り向きながら廊下を歩いていく。そして角を曲がり見えなくなると七海は庵に話しかける。

「俺は応援するよ」
それは全てを知った上での言葉だった。七海は知った上で庵と話を続けていく。
一位を取ったあと、そして思いを伝えたあとの事を。いつもの飄々とした様子もなく、真剣に。
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