ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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「高位クラス武器」とプレートがついた扉の前で、夜神は祈るように目を閉じて立っていた。

短いような、長いような時間を立っている。扉の向こう側では、庵が意志を持つ「高位クラス武器」と対面している。

きっと武器は庵君を選んでくれるだろう。そこから先は庵君の実力次第だが、間違いなく使い手として認められる。
確信はある。けど、一抹の不安もある。

心がざわつく。自分の事のようにハラハラとする。きっと先生も同じ気持ちを味わったのかと思うと、今更ながら謝りたくもなる。

ガチャ━━━━━━━扉が開き、庵が出てくる。その手には鞘も柄巻も白い日本刀が一振握られていた。庵の顔もどこか誇らしげな顔をしている。
「武器が認めてくれました。使い手として頑張ります」

手に握られているものを見て、庵の宣誓を聞いて夜神も微笑んだ。いつもの微笑みに安堵も滲んでいる。
「うん、うん。おめでとう。凄いよ・・・・・とても綺麗な刀だね。どんな刀なんだろうね。これからはこの刀の使い手として頑張ってね。早速、登録にいかないとね」
「はい。登録はどんな事をするんですか?」
「それは見てからの楽しみだよ。行こうか」
夜神が先頭になって、もと来た廊下を戻る。

先程の軍人が立っていた所まで戻る。その軍人が庵の持っていた刀を見て軽く目を見張る。たが、すぐに顔が戻り慣れた様子で、夜神に別室に行くように話す。

夜神も理解しているようで、言われた部屋に入室する。部屋にはテーブルと椅子があり、その一つに夜神は腰掛ける。
「庵君も座って待っていよう。多分来るのに時間かかるから」
「はい。ここで登録するんでしょうか?」
何がおこるのか理解できなくて、夜神に尋ねながら庵も椅子に座る。
「そうだよ。ここでするよ」
「どんな事をするのでしょうか?」
本当に想像が出来ない。大佐はいつもの微笑みを浮かべているだけで、それ以上は語るつもりはないのか黙っている。不安になり始めた時に、扉が開いて一人の軍人が入ってくる。

「夜神大佐じゃないか久しぶりだな・・・・・新人隊員が「高位クラス武器」に認められたのか?誰が教育係だったんだ?」
「お久しぶりです。教育係は私ですよ」
「大佐かぁ~それはそれは・・・・・ならば可能生はあったんだろうなぁ~いやぁ~参った参った!」
笑いながら、手に持った黒塗りの漆の箱をテーブルに置いて庵を見る。
「こんにちは。私は軍需品部 武器保管班 班長をしている成瀬なるせといいます。庵二等兵宜しく。早速で悪いが、本当に武器に認められたのか、確かめさせてもらうがいいだろうか?」
「はい!お願いします」
返事をしたのはいいが、どうやって確かめるのか分からなくて夜神を見ると、夜神は腰のベルトから「蒼月」を鞘ごと外してテーブルに置いていく。

「庵君もその刀をテーブルに置いて。「蒼月」と向い合せになるようにね」
言われた通りに手に持ったいた刀を、向い合せになるように置いていく。
すると、二本の刀が鳴きだす「キィィィ━━━━」と共鳴する。
「?!これは・・・・・・・共鳴?」
「挨拶みたいなものかな?元々意志を持つ武器だけど、使い手を見つけるまでは眠っている状態だと言われているの。使い手を見つけて目を覚ますと覚醒するのかな?だから、意志を持つ武器が近くに来ると挨拶をするみたいに鳴くの。眠ったままだと共鳴はしないよ。庵君の武器は、間違いなく目を覚ましているのが分かったよ」

夜神がこの不思議な現象を説明する。黒塗りの箱から古い表紙の本を取り出している成瀬班長は「ウンウン」と頷きながら本をテーブルに置いていく。
「大佐の言うとおりだよ。覚醒してなかったら、鳴かないんだよ。鳴いているってことは起きている証だよ。おめでとう!!二等兵はすでに「高位クラス武器保持者」になったと言うことだよ」

成瀬班長は鞘に巻かれている組み紐と、それに通されていた数字のタグを外して番号を確認すると、古い表紙の本をめくっていく。
目当てのページを見つけると「おや?」と疑問の声をあげる

「どうされたのですか?成瀬班長?」
夜神は疑問の声が気になり確認する。武器の登録で疑問の声が上がるなど聞いたことがない。
「いや、すまないね・・・・・「高位クラス武器」はみんな一回は誰かと関係を築いているのだが、この武器に関してはここに来てから一度も、関係を築いていないようでね。ほら、ここだけ真っ白だろう?」

成瀬班長はタグの数字と同じ数字が書かれた所を指差す。そして他のページをパラパラとめくっていく。そこには名前が書かれたページがいくつもある。一人だったり複数だったりバラバラだが、必ず名前が書かれている。

元のページに戻すと、そのページだけ名前が書かれていない事が際立って見える。
「ここに来る以前はいたのかもしれないが、そこはまでは分からなくてね・・・・昔の記録だから。その武器は余程気難しいのか、絵好みが激しいのか・・・けど、認められたのは事実だからいいのかな?何にせよめでたい事には変わらないからね」

苦笑いをしながら筆ペンを庵に渡して、名前を書くように促す。庵はペンを受け取りその武器のページに、初めての名前を書き込む。
「これでいいでしょうか?」
名前を書き込んでペンを成瀬班長に渡しながら確認する庵に、人懐っこい笑顔を浮かべて成瀬班長は応える。
「これで問題ないよ。あとの登録や報告はこちらでするから、そのまま持ち出して大丈夫だよ。刀の手入れとかは、夜神大佐に聞けば間違いないからそこは大丈夫かな?今日からその武器は、庵二等兵と行動を共にする大事なパートナーだ。大切に扱っていくように」
「はい!!ところでこの武器に名前はあるのですか?」

庵は気になることがあった。武器を使用する時には「抜刀や構え」と周囲に注意を促してから、武器の名前を読んで覚醒させる。流石に名無しだと呼べないし、もし名前を考えないといけないなら、武器に気に入ってもらえる名前を付けたい。

「あるよ。たしか名前は・・・・・あった「澌尽灰滅しじんかいめつ」我々にピッタリの名前だね」
「澌尽灰滅・・・・・この刀の名前ですね。いいてすね。宜しく澌尽灰滅。これから一緒頑張って行こう」
庵は刀を摑み自分の胸に当てると、誓いを込めるように呟く。
これからこの武器と共に死線をかい潜り、人々を守らなければいけない。時として自分を守ってくれる、大切な存在でもある唯一無二の武器だから。

庵の誓いとも見れる光景を見て夜神は一つ、肩の荷が降りたと思った。
「高位クラス武器」は絶対に必要であり、庵にはそれを獲得する力は備わっていると思っていた。けど、目の前の光景を見るまでは不安が大きかった。

万が一武器が応えなかったら・・・・・
資格なしと判断されたら・・・・・

扉の前で待っている時、マイナス要素が徐々に支配していき不安で仕方がなかった。
けど、武器を手に取りを戻ってきた庵君を見て安堵した。感は正しかった、庵君はそれだけの力が備わっていると。

ならば今度は次の段階に進まなくてはいけない。認められても力を貸してくれるとは限らない。
次は武器の力を充分に引き出せるように、力をつけなくてはいけない。

「おめでとう庵君。武器の名前、私達にピッタリだね。その通りになるように頑張ろう」 
庵に微笑んで喜ぶ夜神に庵も嬉しそうに頷く
「はい!」
それを見て夜神は嬉しくなったと同時に、武器の名前を改めて考える。

武器の名前・・・・・・澌尽灰滅しじんかいめつとは、尽き果て何も残らなくなること。滅び消え去ること。

正に我々が願っている事を表している武器の名前に、夜神は一人深いため息をした。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

物騒な名前になりましたが、「滅」の字をどうしても入れたくて色々と悩み探し出した結果、四字熟語から見つけた言葉がピッタリ、シックリきて決まりました。

これから「高位クラス武器」の使い手として頑張っていく庵青年を応援して下さい。
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