ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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夜神が案内されたのは窓もない一室だった。
正確には窓を潰された部屋だった。

窓があったであろう場所は漆喰で塗り固められて、時間の経った壁紙の白と、真新しい漆喰の白のちぐはぐさが気持ち悪く見える。
この部屋自体は簡易的に寝泊まりする場所だったのか、バス、トイレ、洗面所を備えたビジネスホテルのような作りで、そこにベットと小さな机が置かれた部屋だった。

壁にはなにか貼ってあったのかもしれないが、それも綺麗に剥がされて何もない。日焼けした壁に跡だけが残されていた。それは時計があった場所も同じで、何故か時計まで取り払われいる。

外の景色も、時間を確認するすべも奪われ、この部屋に軟禁に近い状態で「保護」される事に、夜神は背中が粟立った。
なぜ、ここまでする必要があるのかがわからなかった。窓を潰すのはなんとなくだか分かるが、時計まで奪う必要があるのかに皆目検討もつかなかった。

そしてそこから数週間、短いような長いような時を過ごした。
体力作りと、刀を振るう場所の提供を何度か訴えて、わずかばかりの時間だが、何とか確保することが出来た。
それ以外の時間は、部屋で腹筋や腕立て、刀を持たず型の確認など、出来ることは片っ端からやった。
けど、夜神の体力は徐々に低下していく。

上層部の建物に入ってから今まで、外の景色も、陽の光も浴びてない。そのせいで体内のバランスが崩れてきている。
もう一つは、時間の欠如だ。
時計を奪われて、時間の把握が出来なくなり、そのせいで昼や夜の確認が出来なくなってしまった。
さらに、外を見れないと言う事も加わり、状態は悪化していった。
誰とも話せず、外を見ることもなく、時間も分からない。

普通なら発狂してしまうかもしれないが、夜神は必死になって耐えていった。
そして結果、元々細く華奢な体だったが、少しだけ痩せてしまい、頬もわずかだが痩けてしまった。
だが、瞳だけはそれに負けじと、強い力を秘めて輝く。
気力だけで何とか乗り越えている、そんな状況が続くなか、部屋で少し休憩していると、ノックが聞こえてくる。
その音に反応して「どうぞ」と入室の許可を出すと、紙袋を下げた本條局長が入ってきた。

「お久しぶりです。お元気ですか?・・・・・おや?少しお痩せになったとお見受けしますが?」
ベットに座っている夜神の頭から爪先まで、冷ややかな眼差しを向けて見つめてくる。
その、視線に耐えられなくて、夜神はすぐに顔を元の位置に戻す。
「まぁ、いいでしょう。それにしても髪はそちらのほうがお似合いですよ?着ている服はいただけませんが・・・・」
この部屋に来てすぐに、髪は染め落としを使われて本来の色の、白練色の髪に戻されてしまった。
着ているものも「スウェットかジャージ」と夜神がお願いしたため、それが準備されて着ている。
軍服は綺麗に畳み「その時」の為に残している。

「何か御用ですか?」
顔を見ず、訪ねてきた用件を聞く。すると、本條局長はわざとらしいため息をすると、カツカツと靴音をたてて夜神の近くまで来ると突然、ポニーテールにしている髪の束を掴み持ち上げる。
「っぅ・・・・」
「お願いですからこれ以上、見せつけのように痩せないで下さいね?」
冷ややかな目で夜神を見下しながら、自分の言いたいことだけを言うと、手を離す。
「あぁ、から連絡がありましたよ。今から一週間後、場所は吸血鬼殲滅部隊の本部・・・大佐の古巣ですね。そこで、大佐の身柄をに渡します。あとはの腕に抱かれて帝國にでも行って下さい」
つまらなさそうに今日の出来事を、「皇帝」とわざと強調した口調で伝える本條局長の言葉に、夜神の心は押しつぶされそうなった。

その日が近づいてきたと・・・・・
皆の前から姿を消す日が・・・・・

顔に出ていたのかもしれない。「嫌だ」と。
だから、本條局長は夜神の顔を見て増々、苛立った顔で詰ってなじってきたのかもしれない。
「何を嫌がる必要があるのですか?皇帝に何度も抱かれていたのでしょう?なら、その手練手管を使って皇帝を落とせばいい。何故なら皇帝が人類に対して譲歩した条件が大佐を差し出すか?否かです。それだけのめり込んでいるんですよ?お得意でしょう?」

ルードヴィッヒの行動の数々に、夜神は心臓辺りを無意識に掴んでいた。
どんなに嫌がっても、「色の牙」によって侵された体を制御するすべはなく、その体で嫐られ続ける日々。
それが、すぐ目の前に近づいている事が恐ろしく、誰もいなければ泣き叫んでいたかもしれない。

「今から、大佐にはこれに着替えて移動してもらいます。三十分後、迎えを寄越しますから指示に従って下さい」
手に下げていた紙袋をベットに投げ、今後の予定を伝えるとそのまま部屋を出ていく。
投げ出された紙袋を引き寄せて中を覗くと、白シャツと黒のスラックスとシンプルな服装が押し込まれていた。
「ハァー・・・・・・・・」
軽くため息をして、紙袋の服をベットに広げると夜神は立ち上がり着ている服を脱ぎ、着替え始める。
時間は決められている。
何もしてなければ詰られるのは分かりきったこと。なら、大人しく聞くしかないのもまた、事実。
けど、それを聞くこと拒否したい自分もいる。
その、葛藤を繰り返しながらも結局は従うしかない事に、ため息をもう一度してしまった。

時計がないので分からないが、きっと三十分丁度に来たスーツ姿の男性達に案内されて、建物を移動する。すると玄関が見えてくる。
そこには、本條局長が既に待っていて、腕を組んでこちらに向かって冷ややかな目を向ける。
「刀は分かりますが、その紙袋は?」
「軍服です。何か問題でも?私は軍人ですよ?」
「・・・・・まぁ、いいでしょう。では、早く車に乗り込んで下さい。殲滅部隊の本部に向かいますよ」

吸血鬼殲滅部隊の本部は夜神が所属している第一室があり、そして、皇帝に引き渡される場所。
様々な思いの詰まった場所で、引き渡されるなど何の因果なのか教えて欲しい。

夜神は先頭に立った本條局長の後に続いて歩き出す。
そして、黒塗りの車に乗り込むと、バタン!!と閉まり、案内をしていた男性達が、前に乗り込みエンジンをかける。
そして、滑らかな動きで車は発進した。
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