ブラッドゲート〜月は鎖と荊に絡め取られる〜 《軍最強の女軍人は皇帝の偏愛と部下の愛に絡め縛られる》

和刀 蓮葵

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抜刀の構えをする夜神を見て、ルードヴィッヒは笑う。
鎖は通じない。通じるのは剣技のみ。
純粋な力の勝負か?と、問われれば難しいが、凪ちゃんにとっては最後の拠り所。仕方がない。望みを叶えてあげよう。
そして、早々にその、体に巻き付いている荊を引き千切ってやろう。

「最後まで分からないねぇ~凪ちゃん?」
いいや。最後は決まっている。私は勝ち、凪ちゃんは負け、そして、王弟の末裔は消える。
もし、それらが覆るのであればその時は奪う。

ニヤァァと、笑いルードヴィッヒは駆け出していく。
月よモーント血よブルート
「抜刀っっ!!澌尽灰滅しじんかいめつ!香気を纏えぇっっ!!」
荊のおかげで通常よりも早い速度で抜刀する。
剣を縦にして、横薙ぎの抜刀を受け止める皇帝の顔は微かに笑っていた。

何かを決めたような顔だった。けど、夜神は関係のない事だと決めて、攻撃の手を緩めることなく次々に剣撃を繰り広げる。
自分の思う所に、行きたい場所に刀を動かす。すると、腕や肩に巻き付いた荊が力を貸すように動かしてくれる。
右、左、上、下、斜め・・・・
片手で持つ時も、両手で持つ時も邪魔する事なく、偶にイレギュラーな背車刀さえも対応する荊には舌を巻く。
舌を巻くが何故かそれが嬉しかった。例えどんな動きにでも付いてきてくれる荊が、庵君の心が嬉しかった。そして、心強くもあった。
だから、夜神は枯渇しかけた心に再び闘志を燃やす。
今度こそ燻らないように炎々と燃え盛らせる。

「はっっ!!」
ギリギリッッッ!!鍔迫り合いが繰り広げられる。笑っていた金色の瞳は今や何か苛立ちが垣間見える。けれど、そんな事関係ない。私は私の事を、最後まで諦めない気持ちを持ち続ければいい。

「ちっっ!デアドルンっっ!!忌々しい!!」
剣を両手にしっかりと握りしめて、水平に斬り込んだり、一歩足を踏み込んで真上から剣を振り下ろしたりする。
けど、そのいずれも夜神の刀が弾き返す。荊が巻き付く前はこちらが優勢で、剣撃を受ければよろけそうな程、力もなかった。
なのに、荊が巻き付いた後は、打って変わって別人のように剣撃を受けてもしっかり受け止めてしまう。
怯むことも、諦めることもない、真っ直ぐな太刀筋にルードヴィッヒは苛立ちを隠せなかった。
そして、何故か虚しさだけが募っていく・・・・・・

雷撃のような攻撃は激しさを増すが、それは、突如として終わりを告げる。
鍔迫り合いから一歩引いていく。互いの刃をぶつけながら。
けど、そこでルードヴィッヒは剣をくるくる回して巻き上げる。
「っう!!」
その反動でルードヴィッヒは刀を弾き出し、上からの袈裟斬りを仕掛ける。
だが、夜神も大人しくそれを受け入れる事は考えていない。
一段引く腰を落とすと片手で柄を持ち、背中側に刀を持っていく。
天に柄尻、地に切っ先が向く。
ルードヴィッヒの一撃を滑らせるように刀で受け流すと、両手で柄を持つ。
「なっ!!」
ルードヴィッヒは自分が無防備な状態になっている事に驚愕する。
このままでは夜神の刀を受け入れる事になる。
それは即ち「負け」なのだ。咄嗟に、ある意味、無意識に鎖を生み出して夜神の刀の軌道をずらそうとする。
だが、それは荊によって阻止される。けど、庵の荊も全てを阻止する事は出来なかった。

力を使い続けて数分。
何もない状態なら問題なかっただろう。牢に入れられ、食事も満足に与えられなかった体には体力の低下は著しい。
力を使い続ける庵の状態は、芳しくない。それでも使い続けるのには「絶対に勝利する」と言う信念でもある。

防ぎきれなかった鎖が夜神の顔や手首を掠めていく。ルードヴィッヒを捉えた軌道が僅かにズレる。
そのおかげでルードヴィッヒは体勢を素早く整える。
地面に斬りつけた剣を持ち上げて、振り下ろすように上げる。
だが、それよりも早く動いたのは夜神だった。
夜神も同じよう地面に向って斬りつけようとしていた。だが、皇帝の動きを予見していく。
上に向って腕を上げたのなら胴体はガラ空きになる。下に向かう刀の軌道を上に向って斜めに斬り上げる。
下からの袈裟がけだ。既に自分の力の殆どを使い切った夜神ならそんな芸当は無理だろう。

けど、今は違う。庵の荊に助けられた今ならそれは出来る。
「必ず勝つ」と庵の荊が巻き付き、優しさに包まれた状態は体も心満たしてくれる。
「負け」と思った時は体も心も冷たかった。これから事を思うと寒々しい、背筋が冷たくなる思いだった。
それを、荊が一筋の光のように照らし、そこから陽だまりのように温もりが生まれ、寒かったものが払拭される。

自分も限界なのに、それを跳ね除けても力を使う庵を見て、夜神もそれに負けじと、己の剣技をもって皇帝を倒すと誓う。
一人では無理でも二人なら、庵となら絶対に出来ると信じて。

「はぁぁぁぁぁぁっっ!!」
「な゛あ゛ぁぁぁぁぁ!」
軍人の時に何度も感じた衝撃が手に伝わる。
衣服を裂き、皮膚を裂き、肉を断つ感覚がする。
ほのかに輝く薔薇色の刀身は黒い軍服を裂いていた。
薔薇の匂いが周りに漂う中、甘い血の匂いが一際鼻腔に漂う。
赤い花弁が舞う中を、太刀で切り裂いた所から同じように赤い血が花弁のように散る。

「陛下ぁぁぁ━━━━━━━━!!」
誰かの叫び声が耳に届く中、私は自分が斬りつけた相手を見る。
相手は驚愕した表情だった。自分が負ける事など一切無い。完全無欠と自負していた。
そんな自分が、たった一人の女性、「白いヴァイセ・クライナー・フォーゲル」と呼んで歪んだ愛で愛でていた者に斬られたのだ。

体に荊を巻きつけた・・・・・その荊は憎い王弟の末裔、自分を苦しめる原因の一つ、アベルの血を力に変えて、自分が操る鎖のように肢体に巻き付いている。何度見ても胸糞悪い光景に何度引き千切ろうと思ったことか・・・・・・

そんな、愛でる対象と憎む対象が絡まった存在に拒絶されるように斬りつけられた。
負け戦など何一つ考えてなかった自分が・・・・・

倒れる事はない。致命傷にはならない傷。自分の回復力を持ってして一日、二日で完全に治る浅い傷。
けど、ルードヴィッヒは後ろにヨロヨロと後退していく。
そして、ルードヴィッヒを支える為に先に動いたのはローレンツだった。

ローレンツがルードヴィッヒの背中を支える。そして、二人してこの状況を作り上げた人物を見つめる。

夜神は片手で斬り上げたまま動けなかった。体力を使い果たしハァ、ハァ・・・と肩で息をしていた。けど、その体勢は維持し続けるには到底無理ですぐに崩される。
膝をつき、ガシャン!と地面に刀を落としてしまう。倒れる事はなかったが疲弊の色が強い、赤い瞳を皇帝と宰相に向ける。すると、背中に温もりがして、肩には重みが来る。

それは、かが夜神の後ろに来たからだ。  
そのかはすぐに分かった。
鼻を漂うその香りは大好きな香りの一つだから。その香りに包まれると幸せになった。愛されていると実感出来た。
私が大好きな香りの持ち主はただ一人━━━━━

「庵君・・・・・海斗・・・・・ありがとう」
後ろをゆっくりと振り返り、見上げた人物に心からの感謝を述べ微笑んだ。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

決着が・・・・・・とうとう決着が
大佐&庵VS皇帝の三つ巴?デスマッチ勝負は大佐達の勝ちです。

多少?のズル感はあるけど勝てば官軍です!!
ここから、すったもんだの末どうなることやら・・・・・
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