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気を失った夜神の体を愉悦に満ちた笑みを浮かべて見ていた。
白い肌の至るところに赤い鬱血の跡が散らばっている。
力なく放り出された両手首は、途切れた鎖とそれに擦られて赤い摩擦痕が事情の激しさを物語っている。頬には幾筋の涙の跡があった。

ルードヴィッヒは手首の鎖に触れて、その存在をなくす。
そうして、夜神の蜜口から漏れ出てくる、己の放った白濁をシーツで拭き取るとそのシーツを剥がして床に落とす。

元々、二枚に重ねられていて、そのうちの一枚を剥がしたのだ。そうして準備を終わらせると、夜神を引き寄せて抱きしめる。
「小さかった凪ちゃんが、大きくなって私を受け入れてくれて嬉しいな。時間は限られているから、沢山可愛がって、気持ちよくなって、私の名前を呼んで欲しいな」

額に軽く唇を落とすと、手のひらを閉じている瞳にかざす。
「夢を見ないとね。とてもいい・・夢を」
一瞬、手のひらが熱くなったが、それ以上はなにもなくルードヴィッヒは満足して眠りについた。

・・・・・・
・・・・・

夜神は白くて細い道を歩いていた。
周りは真っ暗で何も見えない。
立ち止まるのも怖くてひたすらに歩いていると、突然白く広がった空間に出る。
その空間には人がいた。夜神に背中を向けていたが覚えのある姿だ。
ショートカットの女性や、つなぎを着たおじさん。Tシャツに短パンの少年やジャンパースカートの幼女、和服姿の男性。
みんな知っている。夜神は走り出した。
だがみんなそれ以上のスピードで夜神から逃げるように歩きだす。
「待って!!」
声に出しているのに聞こえない。それでも構わず叫び続ける。どれぐらい走ったのか分からないが、突然みんな止まる。
夜神も息を切らせて立ち止まる。すると一斉にみんな振り返る。
その顔を見て夜神は悲鳴をあげた。だが、それも聞こえない。
みんなの顔は目や口から血を出していたのだ。そして指をさし、口々に喋りだす

「おまえのせいで」

「うまなければよかった」

「おともだちにならなければよかった」

「でしにしなければよかった」

「「「なんでいきてるの?わたしたちはしんでるのに!!」」」
呪にも似た言葉を浴びせらせて、夜神は耳を塞ぎうずくまる。涙を流して聞こえないがひたすらに「ごめんなさい」と繰り返す。


隣で寝ていた夜神が身動いでいたが、突然静かに涙を流し始める。うわ言のように「ごめんなさい」と繰り返す。
それを見ていたルードヴィッヒはギュッと夜神を抱きしめて、耳元でささやく

「大丈夫だよ。みんな・・・から「いらない」と言われても私は凪ちゃんの事が大切だよ?」
愉悦の笑みを浮かべて、優しく頭を撫でる。

どのくらいの時間が経ったのか、夜神が静かに目を開ける。誰かに抱きしめられて、頭を撫でられている。
怖い夢を見てしまった。知っている人たちからの拒絶。死んだ者や、生存が分からない者達。
あまりにも生々しくて、目の前の「誰か・・」に縋ってしまった。


「凪ちゃんは泣き虫さんだね。夜になってからずっと泣いてるね。怖い夢でもみたのかなぁ?死んだ人達が・・・・・・出てきたの・・・・?」
「ひっ・・・・」

縋った相手が、夜神を一晩中抱き続けていた皇帝だったので、逃げようと腕を突っぱねるが、それ以上に抱きしめてきて逃げることが出来なかった。
「嫌、離して!!」
「泣きながら縋って来たんだよ?覚えてないのかなぁ?」

「離して!誰が貴様に縋るか!離せ!」
どうにかして逃げようと、体を撚るひねるがビクともしない。
夜神の弱い抵抗を嬉しそうに受けていたが、「貴様」の言葉を聞いた途端、顔付きが変わる。
張り付いていた笑顔を落とし恐ろしいほどの、冷めた目つきになる。一瞬のすきに夜神の赤い鬱血の跡が残る首に手をかけると首を絞める。
「かっ、うっーーーーーぅ・・・・・」
「凪ちゃん、そんな言葉遣いはダメだよ。貴様でなく、ルードヴィッヒと読んでほしいな。言いにくいのならルードでもいいよ?」

息が出来なくて、目の前がかすみ掛かる。何とかして引き離そうと皇帝の手を掴むが、動く様子もない。
「凪ちゃんは、いい子だからもう、言ったらダメだよ」
「うっ、ゲホッ!ハァハァ・・・・・」
手を離した途端、肺に空気を取り込もうと、必要以上の空気を吸って咽る。肩で息をして何とか体の状態を戻そうとする。

夜神の首には絞められた跡が残ってしまった。だがそれもルードヴィッヒを喜ばせるものの一つなのだ。
自分の付けた跡を残す。それも多く、確実に目につくところに。
凍えそうな瞳から、春の訪れを感じるような暖かいけど、何処か歪んだ瞳になる。

「さぁ、着替ないとね。その前にお風呂かな?凪ちゃんは胎内を綺麗にしたいよね?歩くたびに足を伝うしね。あぁ、けどそれもいいね。想像しただけで興奮するなぁ・・・・・」
うっとりとした顔で、夜神の肩や脇腹を撫でていく。夜神は恐怖で動けなくなりされるがままになる。

皇帝の感情が分からないのだ。夜神に何を求めているのか。どうしたいのか。何を考えているのか。余りにも分からない。
だが分かっているのは恐怖、畏怖といった「恐れ」の感情しかなかった。それらの感情を感づかれたくなくて、ジッと耐えているしかなかった。

「もうすぐ侍女長達が来るから、さっぱりしておいで。朝ごはんは一緒に食べようね。絶対食べないと・・・・分かっているよね?」

ーーーーー食事を食べないのは自死行為とみなす。

最後まで言わなかったが、言葉の端々に感じる。夜神は心臓を、何かに掴まれたような感覚を覚える。自分の行為一つが、皇帝の何かに触れる恐ろしいほどの恐怖を生み出すことを。
「分かっている・・・・食べるから、お願い、食べるから」

夜神は何が正しいのか、間違いなのか分からなくなってしまった。
昨晩からの容赦ない行為や、悪夢。確実に夜神の心も体もおかしくなっている。
皇帝が何かを求めるのならば、それに応えなくてはいけない。そうしないと全てが駄目になりそうな感じになる。

確実に、夜神の何か・・を徐々におかしく、麻痺させていることにルードヴィッヒは笑みをこぼす。短い期間で追い込み、喰らい、全てを奪うーーーーー 

侍女長達が来るまで、夜神は曖昧な愛憮を全身に受けて、熱を逃がすこともできず、燻らせながら侍女長達に連れられて部屋に設置されている風呂場に向かう。

ルードヴィッヒは顔を赤くして、熱を高めるだけで開放もされない夜神の痴態を愉悦の眼差しで眺めているだけだった。





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