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司令部にはすでに元帥と七海中将がおり、今成司令部長と話をしていた。
「遅くなりました」
長谷部室長は敬礼して挨拶すると、それに続いて七海や式部達も敬礼する。
藤堂達も敬礼するが、第一室ではない長谷部少佐と藤堂少佐を見つけて怪訝な顔をする。
「なぜ第一室ではない者たちが混ざっているのかね?任務はどうした?長谷部貴也少佐と藤堂義武少佐?」

何か言われると判っていたが、改めて言われると冷や汗が出てくる。長谷部室長が口を開こうとしたとき、藤堂少佐がそれよりも早く対応する。
「本日は我々は内勤です。勝手と分かっておりますが、吸血鬼討伐の任務を我々も勤めたいと思いこちらに参りました」
「・・・・・私が許可しました。相手の数やクラスがわからなかったので、同行の許可をしました」

長谷部は静かになってしまった周りに溶け込むような口調で、鷹揚なく話す。話を聞いていた元帥は深いため息をして二人の少佐を見る。
「軍の立場から言わせてもらえば、勝手なことするな、部屋で待機しろ!だが、父親の立場からなら逆だな。凪の事が心配だから付いてきたのか?分かるぞ、だな。幼馴染みだからなお前たちは。虎次郎や相澤だけ行くのは心許ないか?」
「二人の事は信用してます。ですが夜神の事が心配なのは本当の事です。帝國から「白目の魔女」などと言われ、抹殺の対象にされていた人間です。生きて帰ってきたとしても軍に復帰出来るのかどうか・・・・・」

藤堂は最後まで言えなかった。抹殺の対象にされているのは事実であり、そんな人間が帝國に拉致されたのだ。
生きて帰ってきたとしても五体満足であるのかも分からないし、五体満足であったとしても精神に異常があれば、人として復帰するのにどれほどの時間が必要なのかも検討がつかない。

元帥と少佐達のやり取りを見ていた庵は、隣にいた七海に静かに聞く。
「夜神中佐と少佐達は幼馴染みなんですか?七海少佐と仲良く話しているのは知ってますが・・・」
「俺のオヤジ・・・・元帥の後ろに居るのがオヤジだ。嵐山大佐と俺のオヤジ、藤堂元帥、長谷部室長、あと相澤射撃教官の五人は、大学からの友達なんだよ。その関係で俺たちもガキの頃からの付き合いなんだ」
「凄い人達が友達関係なんですね・・・・もしかして第二室の長谷部少佐は長谷部室長の息子なんですか?なら藤堂少佐はもしかして・・・」
「御名答!藤堂少佐は元帥の息子だ。周りには話してないけどな。赤の他人で通している」
庵の回答に無精ひげを撫でて答える。そろそろ元帥達の話も終わりそうだと確認して、七海はいつもの調子で話し出す。

この話し方は時として周りを苛つかせるが、今の現状なら肩の力を抜くぐらいなら可能だと判断する。
「元帥がた、話は終わりましたか?なら本題にいきましょうよ。奴らが何処でたむろって、どんくらいの人数居るのか?夜神は現状どんな状態なのか?詰めないといけない話は多いですよー。どうせ招集しないといけないのなら、初めから一緒にいて話し聞いてたほうが手間が省けますし」
「七海、もう少しマシな言い方が・・・・・」
長谷部室長はいつもの調子で話し出す七海に、注意するが藤堂元帥が、手で「待った!」と合図したので話を止める。
「長谷部室長、七海少佐の話は最もだ。今成司令部長、現状報告をたのむ」
「はっ、人数・クラスの判別は完了してます。Bクラス一体、WSダブルエス二体、TSトリプルエス一体、D・Cクラスは複数体です」
「到達位置の予測は?」
「現時点で可能性の高い場所は、夜神中佐が拉致された場所です」
「趣味わりーな、そいつら」
「七海少佐!いい加減にしろ!時と場所を考えろ」
七海の発言はとても共感出来るが、相手が悪い。長谷部はいつもの無表情で七海を注意する。その無表情もよく見ると眉がヒクついている。
「構わん。七海少佐、相手のクラスと人数で分かることはあるか?」

藤堂元帥は七海の顔を見て尋ねる。飄々としていて、楽しいことが大好きな「お祭り男」だが、実は頭の切れる策士としての七海も知っている。
この状況から何を考えているのか。あるのならその意見を聞きたいと藤堂は思う。

「私の勝手な意見ですが、今回は、貴族の「狩り」ではないと思います。クラスと人数、現状から考えるにSクラスの三体はすぐに引き返すと思います。残りはBクラスとD・Cクラスです。このBクラスはDCクラスの監視でしょう。多分ですが、使い捨ての駒的存在です。このSクラスは夜神中佐を置いて何処からか監視するか、本当に連れてきただけですぐに帰るか・・・・討伐を考えるならBとDCクラスだけだと思います」

七海はいつもの「狩り」とは違う事を話す。なぜなら夜神の発振器が全てを否定しているからだ。
これにより上位貴族は高みの見物か、ただの運び屋のどちらかになる。そして、下位クラスはただの嫌がらせだろう。
そして巻き込まれる形でBクラスの吸血鬼は連れてこられたに違いない。

ーーーーーこれが七海の考えている、現状と報告から予測されるものだ。

藤堂元帥と長谷部室長、七海中将達は互いの顔を見合わせて、軽く頷く。
「相分かった、七海少佐。ならば今回の討伐は誰を連れていけばいいかね?」
「仮に、下位クラスとBクラスなら学生案件ですが、夜神中佐の救出が付随されるなら第一室の隊長クラスと他の部屋からは二・三名の隊長クラスのみで対処します。隊員達は今回の作戦行動には参加させません」
「なぜ?隊員達も居たほうが早く対処でしないかね?」
「そうでしょうが、今回は大人数は避けた方がいいですね。上位貴族が何をする分かりませんし、早急に終わらせるなら「高位クラス武器保持者」の隊長が適任かもしれません。そうだ、丁度良い所に「高位クラス武器保持者」で隊長クラスの二人が居るではありませんか?!」
わざとらしい口調でニッコリして、長谷部少佐と藤堂少佐を見てウィンクする。

二人の少佐はビックリしたが、七海の言いたいことを理解して頷く。
長谷部室長は胃の辺りを軽く押さえて、ため息をする。藤堂元帥は「やりやがったな」と思い、七海中将は苦虫を噛み潰したような顔になる。

「七海少佐に今回の作戦指揮をとらせる。第一室の相澤少佐、式部中尉、第二室の長谷部少佐、第三室の藤堂少佐、そして第一室の庵学生。以上の六名で討伐任務にあたるように。それから衛生部から医者と看護師を同行させる。現時点で夜神中佐の状況は不明。生死も、本人かも分からない。それを踏まえておくように」
「「「了解!!」」」
藤堂元帥に呼ばれた六人は敬礼する。その顔は皆同じ顔つきだった。「夜神を助けだす」そんな顔だ。

「嵐山と約束したからな・・・・・・」
藤堂元帥はポッリとつぶやく。それを後ろで聞いていた七海中将は藤堂元帥の肩に手を置く。
「大丈夫だ。嵐山に似て運はある方だからな、凪は。無事だろう。虎次郎達も大丈夫だ」
「あぁ、分かっているよ。・・・・・今成司令部長、到達位置の予測は?」
「先程、説明した場所で間違いありません」
「七海少佐、目標位置は今成司令部長が説明した場所だ。七海少佐も相澤少佐も一度行ったことのある場所だが、気を抜くな。準備が出来次第、行動開始だ!」
藤堂元帥は七海達一人一人の顔を見て力強く頷く。皆もそれに習い頷く。
「では、行動開始!!」
「「「了解!!」」」
乱れのない敬礼で挨拶すると六人は司令部を出ていく。

後に残ったのは藤堂元帥と七海中将と長谷部室長の三人だ。
「凪は無事だといいが・・・何かあったら嵐山が枕元で恨みつらみを言いそうだな」
「盛り塩でもしとくか?」
「嵐山に効くのか?意味ないと思うぞ」
「とにかく、我々は皆の無事を願う以外ないと言うことだ」
男三人はきっと空から、見守ってあるであろう友に、皆の無事を願うしかなかった。
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