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「これが「高位クラス武器」・・・・・」
久慈学生がポツリと呟く。相澤はそれを聞き逃すはずもなく同じように静かに呟く。
「久慈学生もいつかは武器を手にすることになる。その時は今日と同じような事があるだろう」
「・・・・はい。自分、頑張って認めてもらえるようになります。相澤中佐、改めて宜しくお願いします」
「あぁ、こちらこそ宜しく」
神経質な顔を少しだけ緩めて笑顔になる相澤に、久慈はニカッと笑って、互いの目標を決めていった。

「相澤中佐━━!」
庵の自信のある笑みを見て安心した夜神は、クルリと相澤がいる方を向いて名前を呼ぶ。
「何か?」
「そろそろ私達、部屋に帰りますが一緒に行きますか?」
「あぁ」
「庵君、部屋に帰ろうか。長谷部室長を驚かせよう!」
今度は庵の方を向いて、少しだけ悪戯な顔をして小首を傾げる。
それを見た庵は困った顔になってしまった。

なぜ、そんな顔をするのか?久慈学生がいるのにそんなに顔をしたら色々と危ない。危なさすぎる・・・・・相澤中佐が止めに入るとは思うがそれでもその顔は反則だ!!本当に自分の事を分からない大佐はどうしたものか・・・・・・

庵の悩みなど知らない夜神は「どうやって驚かそうかなぁ~」と呑気に考えている様子に、少しだけため息をして庵は別の案を問いかける。
「夜神大佐、長谷部室長の件は一旦置いといて、刀の手入れとか分からないのですが教えて貰えますか?」
「勿論だよ!そうだ、お祝いに手入れ道具を一緒に買いに行こうか。お世話になっているお店とかあるから紹介するよ?」
「是非、お願いします。大佐の行く店なら間違いないですね」
微笑んで歩き出す夜神に、庵も同じく笑って後をついて行く。相澤達も同じく歩きだして「特別訓練室」を出て行く。

そして、部屋に戻り夜神の口から報告を聞いて、常に無表情の長谷部室長が、目を見開いて驚いたのは言うまでもなかった。



庵君と休みが合わない日が続いたが、やっと今日休みが重なったので、前々から約束していた刀の手入れ道具を買いに行くため、駅で待ち合わせをすることになった。

個人的には軍の施設の門の前で待ち合わせしても良いような気がするけど、庵君が凄く嫌がるので一緒に動く時はこうして駅で待ち合わせをする事になっている。

待ち合わせの十分前に来てしまった夜神は、スマホを見ながら庵が来るのを待っていた。特にすることもなかったので、天気を見ながら待っていると、後ろからいつも聞いている声が遠慮がちにかけられる。

「すみません、待たせてしまいました・・・・今日の服も式部大尉達のコーデですか?」
「全然待ってないよ~~そうなの、よく分かったね?昨日の夜、押しかけてきてタンス漁って決めてくれたのはいいんだけど、後片付けをしないで帰ったから大変だったの」

苦笑いをしながら「も~」と言っている夜神を爪先から頭の上まで、まじまじと見る。
白地にネイビーのストライプのVネックシャツに、ネイビーのパンツ。ベージュのパンプスと全体的に今の季節に合っているコーデで、とても爽やかな印象で夜神に合ってある。流石専属スタイリストと心の中で称賛した。
「とても似合ってますよ。そろそろ行きましょうか?何処まで行くんですか?」

庵は笑って夜神の細い腰に手を回して、改札機に向かう。
「先生も行っていたお店だから、とても信用出来るところだよ。庵君も気に入ってくれるといいけど」
「間違えないじゃないですか。楽しみです」
弾む会話をしながら、ホームに向かい目的地に行く電車に乗りこんだ。

少しだけ細い路地を歩くと、夜神の目的の場所にたどり着く。一枚板の看板に店名が大きく彫られている店構が特徴的な店だ。
「武道用品専門店?ここに手入れの道具があるんですか?」
「そうだよ~こんにちは~」
微笑みながら店内に入ると、奥の方で作業していた中老の男性が振り向くと、厳つい顔がニッコリと微笑む。
「いらっしゃい!夜神さん。頼まれていた物出来てるよ!隣の青年が使うのかい?」
「こんにちは、おじさん。そんなんですよ」
顔見知り同士の会話が繰り広げられる。庵は流石にそこに加わる事は出来ないので、軽く会釈するだけにとどまる。

中老の男性は店の奥に入ると、桐の箱を二つ抱えて戻ってくる。
カウンターに箱を並べて、そのうちの一つの箱を開ける。
中には目釘抜きめくぎぬき丁字油ちょうじあぶら打粉うちこと言った刀の手入に必要な道具が納められていた。
「手入れの方法は分かるのかい?お兄さん」
厳つい顔の店主は庵に確認する。
「大丈夫です。色々と教えてもらいました」
「そうかい。夜神さんが教えてるなら間違いないね・・・・それと頼まれていた事をしといたよ」
笑いながら真鍮製の目釘抜きを摑み、「庵 海斗」と名前が彫られている部分を庵に見せる。
「これは・・・・・」
驚いて庵は夜神の顔を見る。それに気付いた夜神は微笑えむ。

「私もね、先生に初めて道具を買ってもらった時に、目釘抜きに名前が掘られていたの。それがとても嬉しくて・・・・だから庵君にも同じことがしたいと思ったの。駄目だった?」
「凄く嬉しいです。ありがとうございます!!大事にします!」
「良かった」
二人のやり取りを温かい目で見守る店主は笑って道具を片付けていく。
すると、店の奥から別の男性の声が聞こえてくる

「おやじーいるかー?っと、お客さんがいたのか・・・・いらっしゃいませ━━・・・・おや?夜神さんじゃないかぁー何か入用で?」
七海中佐ぐらいの年齢の男性が、夜神に慣れた感じで話しかけてくる。
「こんにちは。今日は手入れ道具を買いに来たんです。あっ!そうだ拭紙ぬぐいがみと丁字油が無くなりそうだからそれも」
夜神は無くなりかけの物を思い出して、男性に必要な物を伝える。
すると男性は夜神の近くまで来て、肩に手を置くと爽やかな笑顔で立つように促して、それらが置いてある場所まで案内する。

「うぉい!・・・・・すみませんうちの倅が」
「大丈夫です。えっと、この道具一式で必要な物は揃っているんですよね?」
「はい、揃ってますよ」
「ありがとうございます」
庵は差し支え無い程度の会話をして、夜神が戻るまで待つことにした。

けど、心の中は何か黒いドロドロしたものが波を打っている。悟られないように顔には出さないが、もし心の中を見られたら、きっと夜神大佐は逃げ出してしまうかもしれない。

夜神に触れる、声をかける、見つめる、そんな行動をする男性を、怨嗟にも等しい視線を庵は向けていた。
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