【R18】婚約破棄された令嬢は、隣国の王に奪われて夜ごと甘く抱かれています

いろは杏⛄️

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祝宴、王の腕の中で 前編

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 グレイヴ王国の正妃居室。
 夜明け前の空気はまだ冷たく、カーテンの隙間から差し込む黎明の光が、薄青く床を染めていた。

 天蓋の下、絹に包まれた寝台の中で、ミレイユは静かに目を覚ました。
 隣には、裸のまま眠るレオンハルト王の姿がある。

 彼の胸元に額を寄せ、聞こえる鼓動に耳を傾ける。
 力強く、規則的で、けれど不思議と穏やかなその音が、ミレイユの中に安堵を与えていた。

 

 あの夜、彼にすべてを捧げて以来、ミレイユの身体は明らかに変わっていた。
 魔力が巡り、熱が通い、まるで長い眠りから目覚めた花のように、感覚が生まれ変わったのだ。

 

 それだけではない。
 彼の腕に抱かれ、何度も名前を囁かれながら貫かれるたびに――
 自分は、ここに生きているのだと、心の底から確信できた。

 

 レオンの右手がゆっくりと動き、彼女の腰にまわる。

「……起きていたのか?」

「ええ。……でも、もう少し、こうしていたいです」

 

 小さく笑うと、レオンは指先で彼女の背中を撫でる。

「このまま、朝を閉じ込めてしまえたらいいのにな」

「それは、ちょっと困ります。……今日は、外交使節の来訪があるでしょう?」

 

 その言葉に、レオンの動きが止まる。
 そして、軽くため息を吐いた。

「……そうだったな。忘れていた方が、幸せだったかもな」

 

 ミレイユは、うっすらと笑みを浮かべる。

 来訪するのは、彼女のかつての婚約者――王太子ロア。
 魔力がない女としての価値がないと嘲り、婚約を破棄した男。

 

 彼の国は今、外交的に苦境に立たされていた。
 グレイヴ王国との和睦を保つことは最優先課題であり、そのために友好の使者として、王太子自らが訪れることになったのだ。

 

「皮肉ですね。私を捨てたあの人と……まさか、こんな形で再会するなんて」

「お前は俺の隣にいる。それが、なによりの証だ」

 

 レオンが体を起こし、彼女の肩を抱き寄せる。
 その瞳は、真剣だった。

「……あいつに何か言われても、絶対に頭を下げるな。いいな」

「ええ。下げません。……私は、もう誰かのためにだけに生きるのをやめたんです。
 これからは、私自身の意思で選んで、生きていく」

 

 そう語るミレイユの瞳には、もうあの頃の影はなかった。
 愛されることで覚醒した、芯の強さと気高さがそこにあった。

 

   ◇ ◇ ◇

 

 王城の謁見の間。
 天井から吊るされたクリスタルの灯火が、昼の陽を反射して広間を照らしていた。

 玉座の一歩手前、左側には、金糸のドレスに身を包んだミレイユが立つ。
 精霊細工の髪飾りが揺れ、静かな微笑を浮かべる彼女の姿は、まるで人ではなく女神のようだった。

 

 その光景を目にした瞬間、王太子ロアの瞳が揺れた。

 彼は一瞬、誰かを見間違えたのではないかと目を擦りたくなった。
 あの冴えなかった、魔力もなく大人しく控えめだった公爵令嬢――ミレイユとは思えなかったのだ。

 

 その横顔には迷いがなく、纏う空気には王妃としての威厳があった。
 それだけではない。彼女の内側から放たれる魔力の気配が、かすかに空間を満たしていた。

 

 ──まさか、本当に覚醒していたのか?

 

 数日前、密偵から知らされた内容が脳裏をよぎる。

『ミレイユ・エルヴィーナ殿下は、陛下と共鳴することで魔力が発現。今では王妃候補として絶大な影響力を持っておられます』

 

 信じがたい情報だった。
 だが、今目の前に立つ彼女を見れば、信じざるを得なかった。

 

「……久しいな、ミレイユ」

 

 かつての栄光を懐かしむように声をかけたロア。
 だがミレイユは、静かに一礼するだけだった。

「ロア殿下のご壮健、何よりにございます」

 

 その言葉に、ロアはわずかに顔をしかめた。

 ――完全に、一線を引かれている。

 

 すぐにレオンハルトが玉座へと現れ、視線が移る。
 だがロアは、なおもミレイユに目を奪われていた。

 あの夜、冷笑と共に見下した令嬢。
 「女としての価値もない」と断じた存在が――今、他国の王の隣で、これほどまでに輝いている。

 

 心の奥に、悔しさと苛立ちがじわりと滲む。
 取り返せないものに手を伸ばしたくなる、醜い欲の影。

 

 ――まさか、こんなことになるなら、捨てるんじゃなかった。

 

 だが、もう遅い。
 すべてを知った上で、今の彼女は、自らの意思であの男の隣にいる。

 

   ◇ ◇ ◇

 

 謁見の場が終わった後、王城主催による歓迎の祝宴が開かれた。

 広間には各国の使節団や貴族たちが集まり、杯を交わしながら音楽と料理を楽しんでいる。
 だが、その中心にいるのは、やはりレオンとミレイユだった。

 彼女が微笑むたび、振る舞うたびに、視線が集まり、評価が高まる。
 その姿は、誰が見ても王妃であった。

 

 王太子ロアは、グラスを持ったまま、黙ってそれを見つめていた。
 祝福の言葉を口にしながら、胸の内では焦りと後悔が渦巻いていた。
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