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祝宴、王の腕の中で 後編
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祝宴が始まってから、すでに一刻が経っていた。
広間の空気は、音楽と香の甘さに包まれている。
赤と金の花を散りばめた天井飾りの下で、ミレイユは王妃の席に腰を据えていた。
光沢のある漆黒のドレスに金糸が刺繍され、その身を包む光は、まるで夜空に咲く薔薇のよう。
王冠ではなく、レオンから贈られた魔石の髪飾りを戴き、儚さと威厳を兼ね備えた美貌を湛えている。
隣に座るレオンの手は、いつもと変わらず彼女の腰を自然に抱いていた。
手のひらの温もりが、過剰でもなく、隠すこともなく。
――それが、何よりの証明だった。
やがて、王太子ロアが杯を掲げる。
「グレイヴ王国との友好の証として、この宴の栄光に感謝を捧げたい。……過去に囚われることなく、互いに新たな道を選び合える未来のために」
言葉自体は穏やかで礼節を弁えていた。
けれどミレイユの耳には、それが過去を水に流してくれという懇願のようにしか聞こえなかった。
――けれど、もう私は、見下される立場じゃない。
静かに微笑むミレイユの耳元で、レオンが囁く。
「……お前が俺の女であることを、この場で宣言しようか?」
囁く息が、頬をくすぐる。
それだけで胸の奥が甘く疼き、体が反応してしまう。
ミレイユは視線をそらさず、まっすぐにレオンを見つめて小さく頷いた。
それだけで、彼は笑った。誇らしげに、獣のように。
次の瞬間――レオンの手が、彼女の顎を軽く持ち上げた。
「……皆の前で、見せつけてやる」
そして、唇が落ちた。
祝宴の中心で。
玉座の傍で。
王と王妃の口づけは、まるで王国の印を刻むように、濃密で、甘く、支配的だった。
「――っ……!」
ミレイユは、驚きと悦びの中で目を閉じた。
唇が重なり、熱が流れ込んでくる。
優しく舌を触れ合わせるたびに、甘やかな震えが背骨を這い、内腿の奥に疼きが満ちていく。
その場の誰もが、息を呑んでいた。
音楽は止まり、貴族たちの会話も凍りつく。
静寂の中で、二人の口づけが、空間を支配していた。
唇を離したレオンは、金の双眸でロアを見据えながら、ゆっくりと告げた。
「――お前の捨てた女は、今や俺の最愛の王妃だ」
その言葉は、鋼の剣よりも鋭く、深く、王太子の心を斬り裂いた。
「ミレイユには価値がないとお前は言ったそうだな。だが、俺にとってはこの国にとって最も必要な女だ。共に在り、力を放ち、心を交わす。俺の半身だ」
ミレイユは視線を上げ、かつての婚約者をまっすぐに見据える。
「ロア殿下――感謝申し上げます。私を棄てていただいたこと、そして……レオン様と出会わせてくれたことを」
声は柔らかく、言葉は端正であった。
けれど、その一音一音が、王太子を容赦なく突き落とす。
顔を引きつらせたロアは、それ以上何も言えなかった。
敗者とは、こういう姿を言うのだろう。
沈黙に包まれた男の顔を見ながら、ミレイユは初めて、自分の中にあった痛みが消えていくのを感じた。
◇ ◇ ◇
祝宴のあと、ミレイユはレオンに手を引かれ、王妃の私室へ戻った。
扉が閉まると同時に、レオンがミレイユを背後から抱きしめる。
「……満足したか?」
「ええ。……でも、まだ足りない」
ミレイユがそう答えると、レオンは耳朶に噛みつくようにして囁いた。
「今夜も、お前を壊れるまで抱いてやる。……俺の王妃として、な」
唇が首筋を這い、手がドレスの背をなぞる。
ゆっくりと、けれど容赦なく、衣服を引き剥がす。
レオンの愛撫はもう、戸惑いを与えるものではない。
彼女の快感の在処を知り尽くし、的確に、丁寧に、そして時に貪るように触れていく。
「あっ……レオン、っ、そこ……っ」
胸の先端を口に含まれ、内腿を撫で上げられながら、ミレイユは理性の糸を手放していく。
蜜が溢れ、奥が疼き、指を迎え入れる。
浅く、深く、敏感なところを探られ、全身が痺れるように震えた。
そして、レオンが昂ぶった自身を握り、彼女の脚の間に差し入れる。
「お前を貫くたびに、思う。……この身体は、俺だけのものだって」
「ええ……わたくしは……あなたのもの……」
一突きされるたびに、胸が揺れ、奥が掻き混ぜられる。
「あぁっ、だめ、だめ、もう……ッ!」
「お前の全部、奥まで……何度でも、刻み込んでやる」
濡れた音が室内に満ち、喘ぎと絶頂の声が幾度も重なる。
果てるごとに、レオンは彼女を抱きしめ、名を囁いた。
「ミレイユ……お前が、俺の誇りだ」
◇ ◇ ◇
朝。
ベッドの上、互いに裸のまま寄り添いながら、ミレイユは静かに目を閉じた。
かつて無能と呼ばれた令嬢が、今は王妃として、最愛の男の腕の中で眠っている。
過去は捨て去った。
未来は、いまここから自らの意志で選んでいく。
「……あなたが、拾ってくれてよかった」
そう呟いた彼女の頬に、レオンが口づけを落とす。
そして、囁いた。
「違う。――お前が、俺を選んだんだ」
(完)
広間の空気は、音楽と香の甘さに包まれている。
赤と金の花を散りばめた天井飾りの下で、ミレイユは王妃の席に腰を据えていた。
光沢のある漆黒のドレスに金糸が刺繍され、その身を包む光は、まるで夜空に咲く薔薇のよう。
王冠ではなく、レオンから贈られた魔石の髪飾りを戴き、儚さと威厳を兼ね備えた美貌を湛えている。
隣に座るレオンの手は、いつもと変わらず彼女の腰を自然に抱いていた。
手のひらの温もりが、過剰でもなく、隠すこともなく。
――それが、何よりの証明だった。
やがて、王太子ロアが杯を掲げる。
「グレイヴ王国との友好の証として、この宴の栄光に感謝を捧げたい。……過去に囚われることなく、互いに新たな道を選び合える未来のために」
言葉自体は穏やかで礼節を弁えていた。
けれどミレイユの耳には、それが過去を水に流してくれという懇願のようにしか聞こえなかった。
――けれど、もう私は、見下される立場じゃない。
静かに微笑むミレイユの耳元で、レオンが囁く。
「……お前が俺の女であることを、この場で宣言しようか?」
囁く息が、頬をくすぐる。
それだけで胸の奥が甘く疼き、体が反応してしまう。
ミレイユは視線をそらさず、まっすぐにレオンを見つめて小さく頷いた。
それだけで、彼は笑った。誇らしげに、獣のように。
次の瞬間――レオンの手が、彼女の顎を軽く持ち上げた。
「……皆の前で、見せつけてやる」
そして、唇が落ちた。
祝宴の中心で。
玉座の傍で。
王と王妃の口づけは、まるで王国の印を刻むように、濃密で、甘く、支配的だった。
「――っ……!」
ミレイユは、驚きと悦びの中で目を閉じた。
唇が重なり、熱が流れ込んでくる。
優しく舌を触れ合わせるたびに、甘やかな震えが背骨を這い、内腿の奥に疼きが満ちていく。
その場の誰もが、息を呑んでいた。
音楽は止まり、貴族たちの会話も凍りつく。
静寂の中で、二人の口づけが、空間を支配していた。
唇を離したレオンは、金の双眸でロアを見据えながら、ゆっくりと告げた。
「――お前の捨てた女は、今や俺の最愛の王妃だ」
その言葉は、鋼の剣よりも鋭く、深く、王太子の心を斬り裂いた。
「ミレイユには価値がないとお前は言ったそうだな。だが、俺にとってはこの国にとって最も必要な女だ。共に在り、力を放ち、心を交わす。俺の半身だ」
ミレイユは視線を上げ、かつての婚約者をまっすぐに見据える。
「ロア殿下――感謝申し上げます。私を棄てていただいたこと、そして……レオン様と出会わせてくれたことを」
声は柔らかく、言葉は端正であった。
けれど、その一音一音が、王太子を容赦なく突き落とす。
顔を引きつらせたロアは、それ以上何も言えなかった。
敗者とは、こういう姿を言うのだろう。
沈黙に包まれた男の顔を見ながら、ミレイユは初めて、自分の中にあった痛みが消えていくのを感じた。
◇ ◇ ◇
祝宴のあと、ミレイユはレオンに手を引かれ、王妃の私室へ戻った。
扉が閉まると同時に、レオンがミレイユを背後から抱きしめる。
「……満足したか?」
「ええ。……でも、まだ足りない」
ミレイユがそう答えると、レオンは耳朶に噛みつくようにして囁いた。
「今夜も、お前を壊れるまで抱いてやる。……俺の王妃として、な」
唇が首筋を這い、手がドレスの背をなぞる。
ゆっくりと、けれど容赦なく、衣服を引き剥がす。
レオンの愛撫はもう、戸惑いを与えるものではない。
彼女の快感の在処を知り尽くし、的確に、丁寧に、そして時に貪るように触れていく。
「あっ……レオン、っ、そこ……っ」
胸の先端を口に含まれ、内腿を撫で上げられながら、ミレイユは理性の糸を手放していく。
蜜が溢れ、奥が疼き、指を迎え入れる。
浅く、深く、敏感なところを探られ、全身が痺れるように震えた。
そして、レオンが昂ぶった自身を握り、彼女の脚の間に差し入れる。
「お前を貫くたびに、思う。……この身体は、俺だけのものだって」
「ええ……わたくしは……あなたのもの……」
一突きされるたびに、胸が揺れ、奥が掻き混ぜられる。
「あぁっ、だめ、だめ、もう……ッ!」
「お前の全部、奥まで……何度でも、刻み込んでやる」
濡れた音が室内に満ち、喘ぎと絶頂の声が幾度も重なる。
果てるごとに、レオンは彼女を抱きしめ、名を囁いた。
「ミレイユ……お前が、俺の誇りだ」
◇ ◇ ◇
朝。
ベッドの上、互いに裸のまま寄り添いながら、ミレイユは静かに目を閉じた。
かつて無能と呼ばれた令嬢が、今は王妃として、最愛の男の腕の中で眠っている。
過去は捨て去った。
未来は、いまここから自らの意志で選んでいく。
「……あなたが、拾ってくれてよかった」
そう呟いた彼女の頬に、レオンが口づけを落とす。
そして、囁いた。
「違う。――お前が、俺を選んだんだ」
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