【R18】娼館に堕ちた伯爵令嬢は、かつての婚約者を快楽で縛り、愛の名を告げずに去る

いろは杏⛄️

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あなたの名を 後編

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 部屋の中には、微かに薔薇と蜜の香りが漂っていた。

 修道院の離れ――聖職者の目の届かぬ、古びた客間の一室。
 窓には厚手のカーテンが引かれ、蝋燭の灯だけが二人を照らしている。

 リリアナは何も言わずに衣を脱ぎ、肌に触れる布をすべて剥ぎ取った。
 その所作はどこまでも静かで、まるで儀式のようだった。

 仮面はもうない。
 髪を結いもせず、香もつけず、ただ自分のままそこにいる。

 セオドアもまた、黙って衣を脱いだ。
 その瞳には、欲ではない、祈るような熱が宿っていた。

 ベッドに並んで座ったとき、互いの肌が触れ合い、震えるほどの体温を分かち合う。

「……こんなふうに触れるのは、初めてね」

 リリアナの声がかすかに震える。

「黒百合でもなく、令嬢でもない……ただ、私という女として、今夜だけ貴方に触れるわ」

 セオドアは頷き、彼女の頬をそっと両手で包み込んだ。

「君のことを、どんな名前でも、どんな姿でも……俺は愛していたんだと、今なら言える」

 その言葉に、リリアナの瞳が潤む。

 やがて唇と唇が重なった。
 浅く、深く、何度も重ね合い、互いの温度を確かめ合う。

 セオドアの指が、彼女の鎖骨をなぞるように滑り落ち、乳房へとたどり着く。
 ゆっくりと包み込むように揉み上げ、親指で尖りかけた乳首を転がした。

「……っ、ぁ……」

 思わず洩れた吐息に、セオドアの喉が震える。

「こんな声を……あの頃、一度でも聞いていたら……手放せなかったのに」

 リリアナは目を伏せたまま、指先で彼の胸元をなぞる。
 硬く締まった腹部に触れながら、震える声で囁く。

「触れても、繋がっても……過去は戻らないわ」

「戻らなくていい。これが、今の答えだから」

 彼の手が腰へと下り、濡れ始めた秘所へと指を滑らせる。
 指先が花弁を割り、ぬるりと蜜が絡みついた。

「もう……こんなに……」

「あなたを……求めてしまう身体になってしまったのよ……」

 吐息が混ざる。
 リリアナは自ら彼に跨がり、震える指で彼の熱を導いた。

「……挿れて。貴方の、すべてを……私の奥に残して」

 セオドアはゆっくりと腰を動かし、濡れきった花の中へと熱を沈めていった。

 ぬちゅ……ぬるん……
 奥を擦るたびに、リリアナの身体が跳ねる。

「……っ、んんっ……あぁ、あ……そこ……だめ……っ」

 言葉とは裏腹に、腰が深く沈み、彼の肉を咥え込む。
 まるで別れを惜しむように、身体の奥がきゅうきゅうと締めつけた。

 ベッドが軋み、ふたりの身体が波打つたびに、汗が混ざり、蜜がこぼれた。

「ねぇ……貴方は、誰を抱いてるの?」

 リリアナが問いかける。

 それは黒百合か、リリアナか――
 あるいは、どちらでもない誰かなのか。

 セオドアは迷わず答えた。

「……リリアナだ。君だけを、愛してる」

 その言葉に、彼女の目から涙が零れ落ちた。

「っ……ばか……本当に、ばか……っ」

 涙を拭わず、彼女は自ら腰を動かした。
 激しく、深く、求めるように。
 まるで、すべてを焼き尽くすように。

「中に……出して……お願い……私の全部に、刻んで……っ」

「……あぁ……いく……リリアナ……!」

 脈打つ熱が、奥深くへと流れ込む。
 絶頂の波が、ふたりの身体を飲み込んだ。

 ぬくもりに包まれながら、リリアナは瞼を閉じた。
 この愛が永遠に続くならどれほど幸福だったか、と想いながら。

 けれど、心の奥ではもう答えを決めていた。


     * * *


 朝靄が、修道院の敷地をゆるやかに包み込んでいた。
 静寂のなか、鳥のさえずりすら遠く、まるで世界から切り離されたような、穏やかな時間。

 白いシーツの上に、ふたりは裸のまま横たわっていた。
 互いの腕の中で眠ることも、寄り添うこともできないまま、ただ肩を並べて、同じ天井を見上げていた。

 夜が明けた。
 それは、この交わりが終わったという事実を否応なく突きつける光でもあった。

 リリアナはゆっくりと身体を起こし、裸の背をシーツに晒した。
 肩甲骨をなぞる朝の光が、彼女の白肌に影を落とす。

 セオドアが伸ばした手は、その肌に触れる寸前で止まった。

「行くのか……?」

 問いかけは、嗄れた声で。
 けれど、返ってきた答えは静かで、凛としたものだった。

「ええ。もう、ここにはいられない。……貴方が私を見つけてしまったから」

「だったら……ここから一緒に、どこかへ――」

「それはできないわ。貴方が赦しても、私の心が、赦せないの」

 彼女は振り返らない。
 その背中には、黒百合の名を背負い、仮面を外して生き直す覚悟が刻まれていた。

「私は、復讐のために娼婦になった。
 そしてその過程で、また貴方を愛してしまった。
 でもそれは、誰のためでもない、私自身への罰だったのよ」

 セオドアは何も言えなかった。
 彼の中には後悔も懺悔も愛もあったが、それらすべてが、彼女の決意を覆す力にはなれなかった。

「……名前を、呼んでくれる?」

 彼女がふと振り返り、微笑んだ。
 その笑みはあまりに美しくて、あまりに遠かった。

「……リリアナ」

 名前を呼ぶ声は、震えていた。

 その瞬間、リリアナはそっと歩み寄り、彼の頬に唇を寄せた。
 短く、優しく、最後のキス。

「ありがとう。生まれてきて初めて、女として生きたと感じた夜だった」

 リリアナは一糸まとわぬまま、椅子の上の薄布を巻き取り、それを身に纏った。
 もう彼女は黒百合ではない。
 そして伯爵令嬢でもない。

 ――ただ、一人の女として、新しい道を歩むのだ。

 部屋を出る前、彼女は一度だけ立ち止まり、振り返る。

「貴方が……幸せになることを、祈ってるわ。
 私じゃない誰かと、じゃなくて、貴方自身が」

 その言葉を最後に、扉は静かに閉ざされた。

 セオドアは何もできず、ただその扉を見つめ続けた。
 愛した女を二度失った男の目には、涙すら流れなかった。
 それほどに深く、空っぽになっていた。


     * * *


 ――数年後。

 遠く離れた港町の片隅。
 小さな花屋の店先に、ひときわ美しい黒百合のブーケが飾られていた。

 看板もない、名もないその店で働く女は、仮面をつけることもなく、笑っていた。
 その笑顔は穏やかで、どこか哀しみを湛えていて――
 けれど、自由な美しさがあった。

 花束を包む白い指先の奥。
 ガラス箱の中に眠る、かつての仮面が、静かに過去を見守っていた。

 【完】
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