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 わたしだけがみっともない姿を晒している。そのことに気付くと、ガツンと頭を思い切り殴られたような衝撃を受け、ボロボロと涙を流す。
 急に子供のように泣きじゃくるわたしにさすがの彼も驚き、目を見開いて固まっている。


「な、なぜ、泣いているのです?」


 そんなの知らない。だって先程までは自分の感情を置いてけぼりにして、確かに欲に溺れていた。だというのに、どうして涙が次から次へと流れてしまうのか。感情を表立たせたことが恥ずかしくて、なんとか抑えようと思うのに、ちっとも制御できない。
 硬質だった彼の声は今やすっかり慌てており、オロオロと視線をさまよわせている。
 ――そういえば幼いころも含めて、エドモンドの前で感情を爆発させたことは今まで一度もなかったことにふと気付く。


 子供の頃に散々彼に意地悪されたものの、泣くのは決まって一人で部屋に居る時。誰にも内緒で涙を溢していた理由は……。


(あれは、なんでだったのかしら?)


 確かに理由があったはずなのに、それを思い出せない。

「ご、ごめんなさい。僕が悪かったです。貴女の気が済むまで謝ります。罵倒も受けます。だから、泣かないで……」


 あれだけ好き勝手に身体を蹂躙していたエドモンドは、今やわたしに触れるすら躊躇っているようで、ずっと俯いたまま謝っている。
 艶めいた空気はすっかり霧散し、後に残るのは気まずさばかり。
 泣いた顔を見せたくなくて背を向けると彼はそれを拒絶と捉えたみたいで、ひゅっと息を呑む音が聞こえた。

「エド、モンド……」

 失敗した。謝ろうと思った時にはもう遅い。彼は呼び掛けに反応することなく、布団をそっとわたしに掛けて、そのままベッドから降りる。


「……少し頭を冷やしてきます。貴女の服は後ほどメイドに持ってこさせますから、他に何かありましたら、その時に使用人に命じてください」


 こちらを見ずに早口で用件のみ話す彼の背は寂しげで、思わず手を伸ばして彼の名を再び呼ぶ。しかし彼はそれにも応えずに、静かに扉を閉めて、部屋から出て行く。


 服を着て追い掛けるべきか迷った。今ならばまだ彼に追いつくことができるだろう。
 だというのに


 
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