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35 (side:エドモンド)

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 手を伸ばせば届く距離に彼女は居る。それは紛れもない事実で、僕の執念が実らせた結果である。
 だから彼女が自分以外の他の誰かのことを想っていても、それで良いと諦めていたはずだった。
 なのに彼女に触れるたびに自分の欲が膨れ上がっていく。

(……まだフィオナの想い人がシリウス殿下で良かったのかもしれない)


 グレイシアを心の底から好いている殿下であれば、間違ってもフィオナの想いに応えることはないだろう。
 そう確信しているからこそ、我慢しようと思っていた。

 フィオナは僕を愛さない。
 けれども彼女は婚姻を結んでしまったことで、僕に人生を縛られている。
 一生僕の横に居るのであれば、彼女に愛されない事実から目を瞑ろうと思ってはのだ。


 ただでさえフィオナは僕を嫌っている。そんな相手に想いを告げられたとて、きっと迷惑なだけだ。
 そんなことくらい分かっている。だから大人しく彼女が抱いている殿下への想いが小さくなることを虎視眈々と待っていた。


 けれど、どれだけ健気に待とうと彼女は殿下への恋心を捨てられないらしい。
 このまま待っていようと彼女は殿下への想いと共に一生を終えてしまうのではないかと思うと気がおかしくなりそうだった。


 愛しているからこそ、他の男のことをいつまでも好いている彼女が憎らしいとすら感じる時もある。

(僕と結婚して、人妻になったのだから良い加減諦めたら良いのに)

 どうせ殿下がフィオナの想いに応えることはない。しかし仮にフィオナが諦めたところで、彼女は僕のことなんか好きにはならないのだろう。
 彼女のことが好きなくせに、他の者に恋慕している彼女に苛立って勝手に八つ当たりしてきたのだ。こんなにも性格が悪く、陰険な男。好かれようはずがない。
 

 長年フィオナに抱いていた恋心はドロドロに煮詰まり、決して美しいものとは言えないだろう。
 本当に愛しているのならば、いっそのこと解放してやるべきなのかれもしれない。
 どうせ自分ではフィオナを幸せにしてやれないのだから、せめて自由くらいは与えてやるべきなのだ。そう理解していても、そのことを考えるだけで頭がひどく痛む。



 自分の妄執に彼女の一生を付き合わせてしまうのは可哀想だ。
 ふと頭に過ぎるのは僕の前で俯いてばかりいるフィオナの姿。彼女は僕が居るといつも困ったように下を向く。愛している女に一生そんな顔をさせる気か。本当に愛しているのならば、手放すべきでないか。
 他の事であれば何事も即決出来るはずなのに、フィオナのことになると女々しく悩んでばかりいて、ろくに眠れない日々が続く。


 ーーそんな時になんの偶然か僕は『魔女の秘薬』を手にしてしまったのだ。


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