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 エドモンドはあれから屋敷に帰ってこないままだった。
 連日どれだけ忙しくても日が変わる前までには帰ってきては共に眠っていたから、いつの間にかその慣習が身に染みていたみたいで、その時間が過ぎるまではエドモンドの帰りを起きて待っていた。しかし、もう二週間近く経つのに、あれから彼が帰ってくる気配はない。
 エドモンド付きの使用人にいつ屋敷に戻ってこられそうか予定を聞いてみたけれど、彼にも予定を告げてないようだ。

(……今日も帰って来ないか)
 
 彼が隣に居ないベッドはやけに広く思える。そして一人で横になると人肌の温もりがないことに落ち着かなくて、何度も寝返りを打つ。
 どうせ帰って来ないのなら、眠る場所は元の自室に変えるべきか。けれどもし、彼が屋敷に帰ってくるとして一番最初に訪ねるとしたらこの部屋だろうと思うと踏ん切りがつかない。

(出来れば、早く謝りたいのにな……)

 エドモンドが話すのを待たずに勝手にわたしが飛び降りた部屋に入ったのはわたしに非がある。
 前日の夜に意図的に薬を飲まされたことが不服だったのなら、きちんと彼と対面した上で、弾劾すべきだったのだ。
 だというのに、わたしは自分の胸に抱いていた不信な点を手っ取り早く解消することを選んだ。
 ーー思えば、わたしはいつも彼と真っ向から話し合うことを避けていた。顔も見ずに俯いて、ただ足元ばかり見ていた。


(……だけど、それには理由があった気がする)


 改めて昔のことを思い返すと、ところどころ記憶が虫食い状態のところがあった。記憶をなくしたというのは咄嗟にエドモンドに告げた嘘だったが、少しは事実が混ざっていたようだ。
 ゴロリと横になっていても眠気がやってこない。
 時間があるからこそ、色々なことを考える。
 けれど、次第に暗いことばかりを想像し、陰鬱な溜息を吐き出す。


(そういえば、眠る前に紅茶を飲む習慣もすっかり無くなったわね)


 エドモンドが屋敷に戻らなくなってからは、使用人がお茶を届けてくれていた。だけど、そのお茶を飲むと急激に眠くなることに気付いてからは、もうお茶を受け取ることは止めたのだ。


(あのお茶はエドモンドの指示だったのかしら?)

 彼の淹れたお茶と同じ味がしたし、多分そうなんだろうと思う。
 しかしだとしたら、どうせ帰ってこないのに睡眠薬を常飲させようとしたその意味は一体なんなのか……。
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