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 使用人に案内されるがまま、応接室に入る。先に待っていたのは姉だけで、両親はもう少ししたら、やってくると教えられた。
 挨拶を終えると、わたしを呼び出した両親の話になる。


「昔からお父様達は貴女のことになると心配性になるのよね」
「……え?」
「あ。えーと、両親のことは覚えている?」
「あんまり……」


 思いがけないことを言われて目を丸くする。そして親しい姉にも、記憶のことで嘘を付いていたままだということを思い出し、罪悪感から口籠もる。姉はそれを記憶をなくした気鬱さと捉えたようで、穏やかな口調で続けた。


「貴女がまだ三歳の頃に、お父様は騎士団長として長いこと遠征に行っていて、屋敷を留守にしていたの。そしてとうとう屋敷に戻ることになったその日。わたしとフィオナは嬉しくてお父様を出迎えた。貴女も一目散にお父様に手を伸ばしたのだけれど、遠征で疲れていたお父様はそこで力加減を間違えて、思い切り抱きしめてしまったの。お父様は普通の男性よりも筋肉質でしょう? その分、力もある。なのに力加減も忘れて、自分の衝動のままに抱きしめられたものだから、貴女の肋骨にヒビが入ってしまった」
「え」
「そして、その後すぐに高熱にうなされてしまって。看病しようとお父様が部屋に入ったのだけれど、そこで貴女に拒絶されたらしいわ」


 あまりに衝撃的な話で息を呑む。どうしてわたしはそんな強烈なエピソードを忘れてしまっているのだろう。
 例の記憶喪失の影響かと思ったが、直感的にそれは違うような気がする。


「どうにも、そこから暫くの間。貴女はお父様が怖くなったみたいでひたすらに避けていたの。そして、お父様と仲の良いお母様のことも恐れるようになって、二人を見ると隠れるようにまでなっていたわ。だから二人はフィオナに対して、距離を取ることにしたの。そうしている内に今度は貴女にどう接すれば良いのか分からなくなって、わたしに貴女のことばかり聞いてくるようになったのよ?」

 最後の付け足しは事実であれど、わたしの心を軽くしようと思ってくれた姉の優しさだ。その姉の気遣いを受け取り、話してくれてありがとうとお礼を言うと彼女はクスリと微笑む。

「……二人はね、結婚に反対していたの」
「そうなんですか?」


 てっきり家の利害の関係でアッサリと引き渡されたものだと思っていた。
 長年、ランブルン公爵家とアシュレイ公爵家の仲は悪かった。その仲を補うための縁談だと思い込んでいたのだが、悪戯っぽく微笑う姉の表情を見るとどうやらそれは外れた推理のようだ。


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