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ピタリと横に座ったエドモンドは逃亡防止といわんばかりに、未だわたしの手を繋いでいる。
つい先程シリウスから自分の想いを勝手に吐露されたことで、やたらエドモンドを意識してしまう。繋がれた掌に溜まった汗が、彼に知られているのかと思うと、どうにも落ち着かない。
(わたし、本当にエドモンドのことが好きだったの?)
そんなこと記憶の片隅にもない。タチの悪い冗談じゃないだろかとすら思える。
「エドモンド。逃げませんから手を離して下さいませんか?」
「僕に触れられるのは嫌とでも?」
据わった眼は彼の疲労が滲み出ているのも相まって妙に迫力がある。刺々しくこちらを睨みつけているが、それ以上に気になることがある。
「嫌ではありません。誰もそんなこと言っていないでしょう」
彼の頬を撫でた。普段であれば女性が嫉妬するほどの滑らかな頬はカサついていて、目の下のクマも濃い。スカイブルーの瞳は充血し、痛々しく見える。どれだけ仕事に明け暮れていたのだろうかと思うと、呑気に実家に行く手紙を送ってしまった自分が恥ずかしい。
「……寝ていないのではありませんか?」
労わるようになるべく優しく撫でる。そしてそのまま彼の頭を自身の膝に誘導する。思いの外すんなりと頭を膝に乗せることに成功したのは、それだけ彼の身体が疲労で限界に近いからか。
「な、何をするんですっ!」
「話し合う前に少しだけ休んでください。疲れている時に何を話そうと、きっといい結果にならないでしょう」
「そ、そそそうやって、時間を掛けて言い訳を探す気ですか」
「ほら。もうこの時点で、後ろ向きなことを口にしているじゃないですか。話はちゃんと屋敷に戻ってからすると約束します。拒否もしません。下手な嘘も付きません。だから今は休んでください」
手で彼の眼前を覆う。まだ何か言いたそうにモゴついていたが、視界が暗闇になったことで眠くなってきたらしい。膝に乗せている頭が重くなり、そしてそっと手を外すとすっかり寝息を立てている。
眉間に寄っていた皺をこっそり伸ばし、彼の髪を撫でていると、次第にわたしも人肌の暖かさに瞼が重くなっていく。
とろとろとやってくる眠気。微睡むその気持ち良さに抗えずに眼を閉じる。そうしてわたしは夢の中で過去のことを思い出すのだった。
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