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しおりを挟む屋敷に到着したことで、眼が覚める。隣に座るエドモンドはまだ瞳を閉じたままで、未だわたしの手を繋いでいた。
(わたしって随分と馬鹿な理由で落ちたのね)
自分の間抜けさが恥ずかしくて仕方がない。
けれど、ようやく全てを思い出した解放感は清々しい。
それと同時に思い出した恋心のせいで、エドモンドとの近しい距離に頬に熱が集まる。
「……百面相ですね」
「起きていたのですか?」
「いえ。今、眼が覚めたところです。それで貴女はどうして頬を染めたりしていたのです?」
「えっと、その……」
言っていいのだろうか?
だけどこの想いが知られたらまた『魔女の秘薬』を飲まされるのではないだろうか?
逃げ腰になったわたしを追い詰めるように彼は鋭くわたしを睨む。
「嘘は言わないと約束してくれたじゃないですか」
彼の言葉にハッと息を呑む。わたしはこの後に及んでまた逃げ道を探そうとしていた。そのことに気付いて、姿勢を正す。
「……記憶が戻って、わたしが抱いていた恋慕を思い出したからです」
消え入るような小さな声。けれど、彼から眼を離さずに自分の想いも言えたのだ。面と向かっての告白に恥ずかしさが込み上げる。それと同時にエドモンドから向けられる白い目も覚悟したのだが……どういうわけか彼の顔色は悪い。
「エドモンド。大丈夫ですか?」
もしかして馬車の移動で酔ってしまったのだろうか。心配で握られていない方の手を伸ばそうと、彼はガシリと片腕でわたしを抱きしめる。
「本当に全部思い出してしまったのですか?」
ありありと絶望が伝わるほどの低い声。抱きしめられたことにより、彼の顔は見えないがきっと今、苦渋で歪んでいることは想像出来る。
「ええ」
「……では貴女の想い人のことも?」
「そうです」
「そんな……!」
上擦った声の悲鳴。そんなにもわたしの気持ちが迷惑なのだと思うと、申し訳なさすら込み上げてくる。
「ごめんなさい」
「なんの謝罪なんです?」
「だって、その、わたしの想いなんか迷惑でしょう?」
「ええ! そうですよ。だから『魔女の秘薬』まで使ったのに……!」
歯を食いしばる音が耳元に聞こえ、せめてもの気持ちで謝罪を重ねる。
「……そうですよね。わたしなんかが貴方を好きでいてごめんなさい」
「は?」
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