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第三十一話 しらゆきの鼓動
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目が覚めたら、鷹夜はベッドから居なかった。
起き抜け特有の倦怠感を感じながら、時計を見るともうあと十分で、お昼になる時間を指している。
(どこに居るんだろ?)
彼を探そうとベッドから出ようとした時に寝室の扉が開いた。
「ちょうど起こそうと思っていたんだけど、先に起きてたんだね」
微笑む彼は既にパジャマからラフな服に着替えを済ましている。それなのにわたしは起きたばかりのせいで、着替えどころか髪もといてないし顔も洗ってない。
「…………うん、寝過ぎちゃってごめんね」
(こんな酷い格好のままでごめんなさい)
そんなわたしの状態を彼は気にすることはなく、ご飯でも食べようか、とダイニングまで誘われた。
「…………おいしい!」
すぐに身なりを正してダイニングまで向かうと、テーブルには無数のお皿が並べてあった。オレンジジュースと暖かいクロワッサンにチーズやベーコンの入ったトロトロのオムレ、カボチャのポタージュ。それにほうれん草のサラダに色とりどりのフルーツカット。なんとも豪華で、まるでホテルで食べる朝食みたいだ。
「そんなに誉めて貰えると作った甲斐があるよ」
その言葉に動いていたフォークをピタリと止め、鷹夜を見る。
「鷹夜が作ったの?」
なんとなくだけど鷹夜は料理をしそうにないと思っていたから驚いた。
「私は簡単なものしか作れないよ。それよりも雪乃が作った方が美味しいよ」
「…………わたしが?」
「そう。だから雪乃が気が向いた時でいいから、私に作って貰えないかな?」
わたしが作れるのは家庭料理くらいだと思う。
(もしかして普段高そうなものばかり食べてるから、逆に落ち着いたものを食べたいのかな?)
「じゃあ、今夜作ろうか?」
「いいのっ?」
軽い気持ちで言ったのに、彼はテーブルから身を乗り出して喜んだ。
「そんなに大したものは作れないよ」
「好きな人が作るなら、それだけでご馳走だよ」
眼を輝かせて言う彼に、私の方が恥ずかしくなって、誤魔化すようにポタージュを飲むことに専念した。
「雪乃、映画を見ない?」
二人でお皿を全て片付けたて、リビングで紅茶を飲んでる時に、鷹夜はそう誘った。
「うん、いいよ。なんの映画なの?」
「ホラー物と恋愛物だったらどっちがいい?」
「うーん、恋愛かなぁ……」
わたしの答えを聞くと彼はすぐにセットした。
――すぐに、映画を観て後悔することなる……
『んっ……ふぁ、ぁ……っぁ、んっ』
最初は普通の純愛物だと思ったけれど、話が進んでいく内に徐々に濃密になっていく描写がなんだかきまずい。けれど、鷹夜をチラリと盗み見しても彼はなにも気にした様子はない。
(…………早くこのシーン終わらないかな)
話自体は面白いのだ。ただ濃厚過ぎる場面は、精神的にきつい。いたたまれない空気を誤魔化すためのアイテムと化した紅茶も飲みきってしまっている。
「雪乃、お代わりいる?」
自分で持ってこようと立ち上がりかければ、それに気付いた鷹夜が手早くカップを持ち上げて、そのままキッチンまで行った。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう」
差し出されたカップを受け取って、鷹夜も座った。
――けれど。
(あれ……さっきより近くない?)
さっきまで、彼とは一メートルくらいの距離があった。それなのに戻ってきた彼は、わたしの真横に座ったのだ。肩と肩がくっつく距離に緊張がますます高まる。もはや映画よりも隣にいる鷹夜の方に神経が集中してしまう。彼の様子を見ようとすると、真っ直ぐにわたしを見つめられていた眼とかち合った。
「ゆきの……」
熱に浮かされたように掠れた声で名前を呼ぶ彼に、わたしは視線を外せないでいる。
「たかや?」
震えそうになる声を押さえて彼の名前を紡げば、彼は両手でわたしの頬を包み込む。
(…………あ、キスされる)
直感的にそう思った。覚悟を決めて、眼を瞑った時――チャイムが鳴った。
……それも切羽詰まったかのように何度も。鷹夜は深いため息をついた後に、仕方なさそうにインターフォンで誰が来ているか、画面だけチラリと見て、もう一度ため息を吐いて玄関まで向かっていった。
残されたのは腰が抜けてしまったわたしと、未だにラブシーンがむなしく響いている映画だった。
起き抜け特有の倦怠感を感じながら、時計を見るともうあと十分で、お昼になる時間を指している。
(どこに居るんだろ?)
彼を探そうとベッドから出ようとした時に寝室の扉が開いた。
「ちょうど起こそうと思っていたんだけど、先に起きてたんだね」
微笑む彼は既にパジャマからラフな服に着替えを済ましている。それなのにわたしは起きたばかりのせいで、着替えどころか髪もといてないし顔も洗ってない。
「…………うん、寝過ぎちゃってごめんね」
(こんな酷い格好のままでごめんなさい)
そんなわたしの状態を彼は気にすることはなく、ご飯でも食べようか、とダイニングまで誘われた。
「…………おいしい!」
すぐに身なりを正してダイニングまで向かうと、テーブルには無数のお皿が並べてあった。オレンジジュースと暖かいクロワッサンにチーズやベーコンの入ったトロトロのオムレ、カボチャのポタージュ。それにほうれん草のサラダに色とりどりのフルーツカット。なんとも豪華で、まるでホテルで食べる朝食みたいだ。
「そんなに誉めて貰えると作った甲斐があるよ」
その言葉に動いていたフォークをピタリと止め、鷹夜を見る。
「鷹夜が作ったの?」
なんとなくだけど鷹夜は料理をしそうにないと思っていたから驚いた。
「私は簡単なものしか作れないよ。それよりも雪乃が作った方が美味しいよ」
「…………わたしが?」
「そう。だから雪乃が気が向いた時でいいから、私に作って貰えないかな?」
わたしが作れるのは家庭料理くらいだと思う。
(もしかして普段高そうなものばかり食べてるから、逆に落ち着いたものを食べたいのかな?)
「じゃあ、今夜作ろうか?」
「いいのっ?」
軽い気持ちで言ったのに、彼はテーブルから身を乗り出して喜んだ。
「そんなに大したものは作れないよ」
「好きな人が作るなら、それだけでご馳走だよ」
眼を輝かせて言う彼に、私の方が恥ずかしくなって、誤魔化すようにポタージュを飲むことに専念した。
「雪乃、映画を見ない?」
二人でお皿を全て片付けたて、リビングで紅茶を飲んでる時に、鷹夜はそう誘った。
「うん、いいよ。なんの映画なの?」
「ホラー物と恋愛物だったらどっちがいい?」
「うーん、恋愛かなぁ……」
わたしの答えを聞くと彼はすぐにセットした。
――すぐに、映画を観て後悔することなる……
『んっ……ふぁ、ぁ……っぁ、んっ』
最初は普通の純愛物だと思ったけれど、話が進んでいく内に徐々に濃密になっていく描写がなんだかきまずい。けれど、鷹夜をチラリと盗み見しても彼はなにも気にした様子はない。
(…………早くこのシーン終わらないかな)
話自体は面白いのだ。ただ濃厚過ぎる場面は、精神的にきつい。いたたまれない空気を誤魔化すためのアイテムと化した紅茶も飲みきってしまっている。
「雪乃、お代わりいる?」
自分で持ってこようと立ち上がりかければ、それに気付いた鷹夜が手早くカップを持ち上げて、そのままキッチンまで行った。
「はい、どうぞ。」
「ありがとう」
差し出されたカップを受け取って、鷹夜も座った。
――けれど。
(あれ……さっきより近くない?)
さっきまで、彼とは一メートルくらいの距離があった。それなのに戻ってきた彼は、わたしの真横に座ったのだ。肩と肩がくっつく距離に緊張がますます高まる。もはや映画よりも隣にいる鷹夜の方に神経が集中してしまう。彼の様子を見ようとすると、真っ直ぐにわたしを見つめられていた眼とかち合った。
「ゆきの……」
熱に浮かされたように掠れた声で名前を呼ぶ彼に、わたしは視線を外せないでいる。
「たかや?」
震えそうになる声を押さえて彼の名前を紡げば、彼は両手でわたしの頬を包み込む。
(…………あ、キスされる)
直感的にそう思った。覚悟を決めて、眼を瞑った時――チャイムが鳴った。
……それも切羽詰まったかのように何度も。鷹夜は深いため息をついた後に、仕方なさそうにインターフォンで誰が来ているか、画面だけチラリと見て、もう一度ため息を吐いて玄関まで向かっていった。
残されたのは腰が抜けてしまったわたしと、未だにラブシーンがむなしく響いている映画だった。
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