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しおりを挟む彼女は自覚していなかったかもしれないが、入学した時から、この学園で伊藤すみれという人物はひどく有名だった。
金持ち達が通う学園で唯一の特待生。それだけで話題性があるのに、おまけに容姿が良い。
今時珍しい濡れたような艶やかで腰まである黒髪(美容院に行くお金がないだけ)
凛と伸びた真っ直ぐな背筋に今にも折れそうな華奢な体躯(食費がなかったせいで育たなかった)
涼しげな切長の瞳に形の良い鼻梁。口紅なんて塗らなくても林檎のように赤い唇に、まろい肌。メイクなんて一切していなくても、この学園の誰よりも綺麗だった(もちろん化粧品なんて持っていない)
汚れを知らない新雪のような存在はどこか神格化され、皆美しい彼女を遠巻きで眺めていた。
それはクラスメイトですら例外ではない。気安く声を掛けようものなら、無言の牽制で睨み合うこととなる。
俺はそのどこか宗教じみた連中が苦手だった。
(ってかこんなに注目されてて、なんで気付かねぇかな)
俺は母親のせいで子役をしていた経験があるからか人の視線に敏感だ。
自称ファンが勝手なイメージを作り上げて、それを押し付ける。俺が奴らの想いにそぐわない言動をすれば、ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てられる日々。
今の彼女を取り巻く環境はその時の俺と似ている気がしていて、彼女を見ていると殆ど忘れかけていた古傷が疼くような感覚に陥る為、一年の頃はクラスも違ったこともあり、なるべく視界に入れないようにしていた。
それでも彼女の取り巻く環境が大きい為、噂話が否応なしに耳に入ってくる。例えば休み時間中。勉強している彼女の為にあまり騒がないように協定が結ばれたとか、グループや体育の組み分けの時は密かに彼女を取り合っているとか。
そんなことを知らない彼女は友達の居ない自分を仲間に入れてくれるのだから優しい、と言っているらしい。
本当に清らかな心だ。皆が皆、虎視眈々と彼女を取り囲もうとしているのに。彼女だけがそれに気付かない。いや、気付けないというべきか。
身の内が汚い奴程、光を求める。この学園にはそんな奴ら大勢居る。財閥の御曹司に代議士の子息。華族の娘。どの家も背景にはとても言えない闇があるだろう。
そんな奴らが巧妙に彼女を罠に仕掛けようとしていたのだ。
哀れな奴。
どんなに死に物狂いで勉強しても、きっとそれを活かせることは出来ない。誰かしらの籠に閉じ込められる未来が待っている。
彼女だけがそれを知らず、羽をもぎ取られようとしていたのだから。
二年に進級すれば彼女とクラスが同じだった。
下手に関わって面倒事に巻き込まれるのはごめんだったので、自分から関わることはない。
けれど彼女はテストで俺に勝てないことが不服だったらしく、目が合う度にこちらを睨んでくる。
(きっと嫌われているんだろうなぁ)
隠すことのない激情は彼女の潔癖さの表れだろう。
忖度なしの真っ直ぐさが眩しくて、俺はいつも気付かないフリをしていた。
彼女とクラスが違った一年生の頃、この時の俺は知らなかった。
『身の内が汚い奴程、光を求める』のは自分にだって当てはまることを。
知らないからこそ傍観者気取りでいられたことを。
自分の中に暗い闇があるなんて知りたくもなかった。
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