チャラ男くんと委員長

秋月朔夕

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 彼と『お付き合い』をするようになって一ヶ月が過ぎたが特に何もない日々を過ごしている。
 恋人として初めてお昼を一緒に食べた日の彼の『警告』を聞いてから、わたしがその言葉通り別れることへのモーションを掛けなかったからかもしれない。


 意外なことに恋人としての彼はとても優しいと言える。
 先生に頼まれて重い資料を持っていたら彼が代わりに持ったり、わたしの好きそうな本や焼菓子をプレゼントしてくれたり、お弁当を分けてくれたり、使いやすい問題集でわたしに勉強を教えてくれる。
 交際する前までは馬鹿にされてきたこともあり意地でも教えて貰うもんかと思っていたが、実際になしくずし的に受けてみればそつのない説明ですんなりと理解することが出来た。頭が良い人は説明も上手いというのは本当なんだなと思った。


 また彼も休み時間中に絡んでくることも減ったし、放課後や休みの日に会うのもわたしのバイトのシフトを優先している。
 『恋人』としての接触も手を握るくらいで、無理矢理迫って来ることはない。


 今までの彼からすれば不気味な程、大人しかった。
 そう。わたしが別れの算段を付けようとしない限定での優しさというべきか。
 嵐の前の静けさというべきか。
 機嫌が良かったのは最初の数日だけで、わたしと交際してからの彼は態度と言葉だけは優しく、目は笑っちゃいない。
 そんな彼の様子はピンと張り詰めた糸のようで、危うい闇を抱え込んでいるように見えていた。


(険しい顔ばっかりするくらいなら、わたしとなんて別れちゃえばいいのに……)


 馬鹿みたいだ。
 自分で自分の首をじわじわと締めていく彼の姿も、面倒事を避けて熱湯に近いぬるま湯に浸かっているわたしも。二人揃って大馬鹿だ。
 それを証拠に囃し立てていたクラスメイトですら、もうわたし達を茶化すことなく、触らぬ神に祟りなしといわんばかりに遠巻きでこちらから目を逸らしている。


 大っ嫌いだったあの能天気な笑い方が懐かしく思う日が来るなんて思わなかった。
 検分するような鋭い視線よりも、ふにゃりと和らいだ彼の顔のほうが見慣れていたのに。お付き合いをしてからもうそんな顔なんて見ていない。


 一ヶ月なんてそう昔のことじゃないのに心労からか遥か昔のように思えるから不思議だ。
 


(ばか。バカ。馬鹿! わたしも彼も二人して馬鹿なことして! 時は金なり。もっと時間くらい有効に使いなさいよ!)


 というか賭けに勝った彼くらい笑ってるべきじゃないか?
 なんでわたしに勝っといて日に日に険しい顔をしているのか。


 『恋人』として甘ったるい空気になんてなったこともない。
 いや実際最初の頃にそんな空気になられても困ったけれど。逃げるかもしれないけれど。それでも今の険呑な状態よりもずっとマシだろう。


 最近ではどうにも落ち着かなくて勉強にも身が入らないし、バイト先でも普段なら絶対しない些細な失敗をするようになってきた。
 このままなあなあに放って置いても互いに何も良いことなんか起きやしない。
 そもそも賭けで恋人になったところで、ただ歪なだけ。一方的に好意を持たれても、わたしには返せるものがない。だからこそ彼のフラストレーションが溜まるのだ。
 いい加減チグハグな関係に決着をつけなければ。わたしがケジメをつけようとしていることに彼だって気が付いている。だからこそこちらを見る眼差しが鋭いのだ。



 ――賭けに負けたわたしからは別れることが出来ない。


 ならば彼に交渉しよう。
 『賭けをしよう』と。
 賭けることから始まった関係ならば、今度は賭けることでこの不毛な関係を終わらせよう。


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