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レクナ村
レクナ村へ
しおりを挟む翌朝
はるは、ゆっくり目を開ける。
昨夜より身体は軽い。アルバートに背中を支えられながら、
ゆっくり体を起こすことに成功する。
座るだけなら問題ない――けれど、立ち上がると足元がふらりと揺れた。
その揺れを逃さず、アルバートの腕が支える。
「……まだ無理だ。歩くのは控えろ。」
反射のように添えられた腕は温かく、
はるは小さく会釈した。
外がざわざわと忙しい。
第二騎士団の団員たちがテントを畳み、馬具を整え、装備を点検している。
黒髪黒目が目立ちすぎるため、アルバートが自分の外套をはるにかけ、
深くフードを下ろしてくれた。
「……これで多少は目立たない。風も防げる」
ふわっと広がるアルバートの香り。
布の重み以上に、守られている実感が胸に落ちた。
アルバートははるを軽々と抱え上げ、
近くの切り株へ優しく下ろす。
すぐにセナが歩み寄ってきた。
「お、ちゃんと座れてるな。顔色もだいぶ戻ったじゃねぇか」
額に触れ、脈をとり、胸元に手をかざして魔力の流れを確かめる。
「熱は微熱程度。瘴気の残りも少ねぇ。順調だな。
体の怠さはどうだ?」
「ありがと、ございます。だいぶ楽になりました。」
「座っては居られるが、立ち上がるとふらつく。」
アルバートがはるを見ながら答える。
「そうか、馬での移動はちと辛いかもしれんが今日の昼過ぎには着くだろう。
辛い時は呼んでくれ。スープ飲めそうか?」
はるはこくりと頷き、
セナが渡してくれた薬草入りのスープをゆっくり口にした。
ほんのり薬草の苦味が広がるが、体の奥がじんわり温まっていく。
パンも一切れ食べることができた。
「よし、食えてるなら上出来だ」
セナがそう言い残して離れると、
アルバートが馬の準備を整えながら、はるの方へ視線を戻した。
「……行くぞ。馬に乗せる。しっかり掴まれ」
はるは頷き、抱え上げられる。
馬の鞍に座った瞬間、アルバートが後ろから乗り、
腕で囲うように手綱を握った。
体が小さく揺れるたび、
その大きな体温が自然に支えてくれる。
騎士たちはすでに出発準備を終え、
レクナ村へと向かう行軍が静かに始まった。
「はるくんおはよう。辛かったら教えてね。」
すぐ隣を馬に跨り進むルートが声をかける。
アルバートの指示のもと、普段より少しスピードを落として進む。
しばらく道を進んだあと、アルバートがふと口を開いた。
「……はる。ひとつ聞いていいか」
「?……はい」
「おまえはいくつだ?」
はるは少し考えてから答える。
「……17歳、です」
アルバートはわずかに息を止めたようだった。
だが返事は静かで淡々としていた。
「……そうか。まだ十七……」
それ以上言葉にはしなかったが、
はるには伝わった。
その腕の力が、ごく僅かに強くなる。
まるではるを落とすまいとするかのように。
(……こんなに軽いのか。
これで瘴気の濃い森にひとり……)
言葉には出さないが、
アルバートの心は静かに揺れていた。
“軽い”
人が守らなければ風に倒れてしまいそうな軽さ。
この国では18で成人。体つきもはるに比べると大きく頑丈に見える。
アルバートは、はるの肩の位置を確かめるように支え直し、
低く囁いた。
「……しばらくは、俺のそばにいろ。
倒れられては困る」
はるは小さく頷いた。
風が優しく揺れ、森の出口が近づいてくる。
こうして二人は、
レクナ村へ向かう最初の道を共に歩み始めたのだった。
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