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レクナ村
レクナ村10
しおりを挟むはるが涙をこぼすのを見て、
アルバートの喉が一瞬きゅっと震えた。
「……はる」
名を呼ぶ声は、ほとんど掠れていて。
アルバートははるをそっと抱き寄せた。
強すぎず、でも決して離さないように。
はるの頭を胸元に抱きかかえた。
「……生きててくれて……よかった……」
耳元で落とされたその一言は、不器用なほど真っ直ぐで。
はるの胸にまたひとつ、温かいものが込み上げた。
はるは戸惑いながらも、
アルバートの服をぎゅっと握り返す。
(……生きてて、よかった……)
その言葉は、あの夢で聞いた声を思い出させた。
けれど今は、その余韻よりも――
目の前の温もりの方が何倍も強かった。
その空気を壊さぬように、ルートはそっと立ち上がった。
できるだけ物音を立てないよう扉を開け、
ルートは部屋をあとにした。
ほどなくして、ルートとセナが戻ってきた。
セナははるを見るなり、
安堵と驚きが混ざったように眉を上げた。
「……目を覚ましたんだな。よかった」
アルバートははるをそっと離し、
クッションで背を支えるようにして体を整えてやった。
「まずは水を少し飲んでみよう。ゆっくりでいいからね。」
ルートが差し出したカップを、
はるは両手で包むように受け取り、こく……と一口。
喉を通る冷たさに、乾ききっていた身体がやっと息を吹き返す。
「……ん、飲める……」
「よかった。少しずつね」
ルートの声に、はるは弱く頷いた。
セナが椅子を引き寄せ、はるの体に触れる。
淡い蒼光がゆらりと揺れ、
魔力の流れを丁寧に探るように診察が始まった。
沈黙がしばらく続き――
そして、深い息がひとつ落とされる。
「……魔力波形はまだまだ荒れてて気が抜けんが、想像より魔力は戻ってきている。あの状態からはなかなか魔力も回復しにくいんだがな…。
ましてや…どのくらい溜まって“元通り”なのか、
正直見当がつかん。1番不思議なのが…アルバートがはじめてはるを連れてきた時には、魔力の流れを感じなかったことだ。」
セナの声は慎重だった。
「力が目覚めたというのか…今まで何かで抑制されてたのか…分からんが。はる、お前の魔力量は……規格外だと言っていい。
あの規模の治癒と結界を張ったんだ。」
「…えと、
僕……一体、何をしたの……?
アルバートさんの怪我……どうやって……治したのかもわからなくて……
気がついたら、ベッドに寝てて……」
不安を押し隠せない声。
それに三人は一瞬だけ顔を見合わせた。
はるの知らないところで、
王都レベルでも観測されるほどの光と結界が広がり、
村全体――いや、隣村にまで届く規模だったことを思い出している。
アルバートが、静かに口を開いた。
「はる……お前はあの時、
俺の致命傷を“一瞬で”癒してくれたんだ」
はるのまぶたが震える。
「……いっ……しゅん……?」
「そうだ。
傷跡も残らないほど、完璧に。
普通のヒールじゃ……あり得ない力だ」
セナも続ける。
「それだけじゃあない。
あれほどの結界……村を包み、瘴気を押し返すほど強固なものを、同時に張った」
はるの息が止まる。
「……いったい、どうやって……」
「…無意識だったのか?」
アルバートがちらりと顔を強張らせる。
あの日の“光”が脳裏に蘇るのだろう。
「はるくん、あの時どんなこと考えてたか分かる?」
はるは目を伏せながら、
「……うん……。
えと、アルバートさんが……血まみれで……
死んじゃうんじゃないかって……怖くて……
ただ、治ってほしいって……それしか……」
その言葉に、アルバートの喉がわずかに震えた。
セナとルートは顔を見合わせ、
「やっぱり魔法の構成を意識していた訳じゃないんだな。
意識したってありゃ国家一のヒーラーだってできやしないだろう。」
「無意識のうちに魔法が発動し、制御できずあの規模を…って感じなのかな…」
と思考する。
アルバートはそっとはるの頭を撫でながら
「痛むところや気分の悪さはないか?」
「……痛みとか、気持ち悪さとかは……ないです。
ただ……体が、ちょっと重い、というか……」
それにセナは思考をやめ、頷き
「3日も眠りっぱなしだったからな。
筋力も落ちる。……それに」
(魔力波形はまだ油断ならん。急に状態が悪くなる可能性がある。)
すこしだけ眉を寄せ、はるの頬に視線を落とす。
「少し痩せたな。……まぁ当たり前か。
これからしばらくは、ちゃんと食べて、回復していけばいい」
ルートが首をすくめて笑う。
「はるくん、もともと食べる量少なかったからね……。
いっぱい食べて、取り返そう?」
アルバートは黙ったまま頷き、
はるの肩にそっと手を置く。
その瞳は鋭く見えるが、心配しているようにも見えた。
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