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王都への旅
到着
しおりを挟む翌日は、無理をせず半日の移動で切り上げることになった。
馬車の揺れは穏やかで、窓の外にはなだらかな草原が続いている。はるは外套に身を包み、心配そうなミエルの視線を感じながらも、どこかぼんやりと景色を眺めていた。
昼過ぎ、進軍は止まり、簡易的にテントが張られる。
この日は休養を最優先にし、はるは馬車から降りるとすぐセナの診察を受け、そのままテントで横になった。
「無理はするな。ここまで順調だが、焦る必要はない」
セナの言葉に、はるは小さく頷く。
体の奥に残っていた重さも、休むうちにゆっくりと溶けていった。
――そして翌日からは、再び一日がかりの移動。
道は整い、行き交う商人や旅人の数も増えていく。
人の気配が濃くなるにつれ、王都が近いことを実感させられた。
順調に進んだ一行が、レクナ村を出て六日目。
日が完全に沈み切ったころ、ついに巨大な城壁が視界に現れた。
篝火に照らされて浮かび上がる白い石の壁。
いくつもの塔と門、出入りする人影。
「……ここが、王都……」
はるは息を呑んだ。
今まで見てきた村や町とは、規模も空気もまるで違う。
夜遅かったこともあり、そのまま王城に近い客舎へと案内される。
通された部屋は、これまでの旅路とは比べものにならないほど豪華だった。
天蓋付きの大きなベッド。
柔らかな絨毯、壁には装飾が施され、暖炉の火が静かに揺れている。
まずはセナの診察。
魔力波形は安定しており、大きな問題はないと告げられた。
「今日はしっかり食べて、よく休め」
運ばれてきた夕食は、野菜と柔らかく煮込まれた肉の入ったシチュー。
温かく、滋味深い味に、はるの身体がほっと緩む。
食事を終えるころ、旅装を片付けたアルバートが部屋に入ってきた。
「風呂の用意ができた。行くぞ」
促されるまま、はるは浴室へ向かう。
広く、湯気の立ちのぼる浴槽に戸惑いながらも、アルバートの手を借りて身体を温める。
長旅の疲れが、湯の中でゆっくりとほどけていった。
寝支度が整い、部屋が静かになる。
ふかふかのベッドを前にして、はるは胸の奥にじわりと不安が広がるのを感じた。
「……ここ、広いですね……」
ぽつりと零れた言葉。
「一人で……ここで、休むんですか……?」
豪華さとは裏腹に、妙に心細い。
そう正直に口にすると、アルバートは一瞬、目を瞬かせたあと、静かに答えた。
「……不安か」
はるは小さく頷く。
アルバートは少し考えるように視線を逸らし、それからはるに向き直った。
「……敬語はいらない」
低く、穏やかな声。
「俺の前では使わなくていい」
その言葉に、はるの目がわずかに見開かれる。
「……え……?」
「楽に話せ。命令だ」
そう言って、ほんのわずかに口元を緩める。
ベッドサイドに椅子を持ってくると腰掛けるアルバート。
不思議と、胸の緊張がほどけていく。
(……一人じゃ、ないんだ)
豪華な客室の中、はるはようやく安心してベッドへと身を預けた。
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