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しおりを挟む夜更けのリビングは、間接照明だけが灯っていた。
凪は、ソファに座りながら、膝の上に置いたクッションを抱えている。
テレビの音は流れているが、内容は頭に入ってこない。
鷹宮は、少し離れた位置に腰を下ろし、書類に目を通していた。
――距離。
最近、凪はそれを強く意識していた。
近づきすぎても、離れすぎてもいけない気がして、
どこにいれば正解なのか、分からない。
ふと、鷹宮が小さく息を吐いた。
「……今日は、長かった」
独り言のような声。
凪の胸が、きゅっとなる。
――守ってもらっているだけじゃ、だめだ。
凪は、クッションを抱えたまま立ち上がった。
「……あの」
鷹宮が顔を上げる。
「どうした」
凪は、数歩、近づく。
足が、少し震える。
「……お疲れさま、です」
それだけ言って、止まる。
鷹宮は、何か言おうとして、言葉を止めた。
「凪?」
凪は、迷った末に、クッションをそっと置いた。
そして。
ゆっくりと、鷹宮の胸に、額を預けた。
「……少しだけ」
小さな声。
鷹宮の体が、ぴたりと固まる。
凪は、腕を広げる勇気はなかった。
ただ、触れるだけ。
「……ありがとう、ございます」
胸元から聞こえる、低い呼吸音。
鷹宮の手が、宙で止まり、やがて、凪の背に触れた。
強くは抱かない。
逃げられる余地を残した、触れ方。
「……凪」
名を呼ばれて、凪の喉が鳴る。
「……ここに、いてもいいって」
凪は、震える声で続けた。
「言ってもらえたの……嬉しかった、です」
鷹宮の腕に、少し力が入る。
「……だから」
凪は、ぎゅっと目を閉じた。
「……こうしても、いいかなって……」
しばらく、言葉はなかった。
そして、鷹宮が、低く答える。
「……拒む理由が、ない」
その声は、少し掠れていた。
凪の胸が、熱くなる。
短い時間。
それでも、凪は確かに、鷹宮に触れていた。
やがて、そっと離れる。
「……すみません」
反射的に出そうになった言葉を、凪は飲み込んだ。
代わりに。
「……ありがとうございます」
鷹宮は、凪をじっと見つめてから、静かに言った。
「……今のは、礼を言うことじゃない」
凪は、きょとんとする。
「……そう、ですか」
「そうだ」
鷹宮は、視線を逸らした。
その耳が、わずかに赤いことに、凪は気づかなかった。
凪は、ソファに戻り、クッションを抱き直す。
胸の奥に、温かいものが残っていた。
触れてもいい距離。
それを、凪は、初めて自分で選んだ。
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